大地震や記録的豪雨など、天変地異の絶えない昨今。私たちは日頃から防災について考えておかねばならない。いざ大災害が起こった時も被害が最小で済むように、我々個人も心がけておくことはとても大切であるし、行政や街づくりにおいても危険な状態は少しでも事前に排除しておかねばならない。例えば、いろんな街に行ってみると、たまに非常に危険なエリアをよく見かける。そんな場所を見ると、もしこの瞬間に大災害が発生でもしたらどんなことになるんだろうと、背筋が凍る思いをすることもある。
備えあれば憂いなし。災害(人災含む)はいつ起こるかわからないので、もう猶予はない! 平時のうちからの心がけが大事なので、危険な状態を一刻も早く除去しておくよう提言したい。
典型的な災害時の危険地帯とその対策
まず、その非常に危険なエリアというのは、近年よくありがちなしょうもない再開発が完了したエリア。こういった場所は、街における災いの元凶となる危険状態だ。昔からあった古い街並みを壊して全て更地にした上で、大通りを通したりタワーマンションや大型商業施設を造ったりする、いつものあれだ。
整然とした道が通り、チェーン店や大型店、高級店などが立ち並ぶ光景。これは身の毛もよだつ非常に危険な状態。昔からの商店街と違って、チェーン店や大型店化すると、人の顔が見えなくなる。つまり、いつもの店長さんや店員さんと常連さんといった人の繋がりが消えてしまったり、毎日顔を合わせる近所の店主同士の挨拶なども減ったりしてくる。特にチェーン店の場合はスタッフの入れ替わりも激しいし、店の入れ替わりも早くなるので、多少知り合いになったとしても関係性がなかなか深くならないことが多い。昼時なんかには店主同士が食堂で偶然居合わせ、「最近どう? 商売」とか「そういえばおふくろさんの病気の具合は良くなったかい?」「今夜、店終わったら八百屋のオヤジ誘って一杯どう?」なんて会話が生まれることが激減してくる。再開発エリアでは店やってる人ですら近所の店の店主や店員の顔も知らないなんてことも多々あり、知っててもせいぜい会釈程度。住民も同様で、店の人や近所の住人とのつながりも希薄になってしまう。これは非常に危険な状態で、待ったなしの早急な対策が求められる。
かつて自分が小学生の頃、住んでいた江東区のボロボロの家や商店が立ち並ぶ近所の一角で、友達と悪ふざけで「火事だー!」と叫んだところ、ものすごい勢いでワラワラとたくさん人が飛び出てきて、嘘だとバレた瞬間に「コラー!」と追いかけられ、こっちは全力で逃げたものの、ものすごい勢いで走ってきたステテコ一丁の見知らぬオヤジに追いつかれ「クソガキ、人騒がせなことしてんじゃねえ!」とタンコブができるほどぶん殴られた。これはものすごい防災力だ。この瞬発力は防災の宝だし、「あのガキそっちに逃げたぞー!」「あっちだ!」などと、地域の連携もしっかり取れている。これは普段からの人間関係によるもので、壊してはいけない歴史の賜物としか言いようがない。
このような非常に高い民間防災力を根こそぎなくしてしまっているのが、再開発エリアだ。そこで仮に「火事だー!」と叫んだところで誰も出てこないし、出てきたとしても遠くからこっそり覗いて警備員や警察を呼ぶのが関の山だ。遅い遅い、それでは延焼は防げない! そこは全員で全力で追いかけてタコ殴りにする防災力が、今の時代は求められているのだ。しかし再開発後の世界では、それどころかバレないように写真を撮ってSNSに上げて「こういう迷惑なやつは死んで欲しい」とコメントを書くという全く意味のないことをするだけだ。そんなことやってる場合か、バカ!
タワーマンションの急増
そして、再開発後にできてくるタワーマンションや高級マンションの危険性についても触れておきたい。確かにそういう住宅は耐震構造や難燃性の材質、スプリンクラーなどの設備という意味では安全かもしれない。しかし、そういうハード面だけでは災害を防ぐことはできない。それを活かせるかどうかは、すでに述べたタコ殴り式の防災力がカギとなってくる。そういう意味でも、最近の割と高級な住宅には構造上の問題がたくさんある。
まず、最近なんだか流行ってるのが、人に会わない構造。つまり、大きなマンションでも入り口が何ヶ所かあり、フロア内の廊下も細分化されてて、自分の部屋にたどり着くまでにあまり人に会いにくい構造になってたりする。ホテルみたいな落ち着いて優雅な雰囲気を味わって自分の社会的ステータスを日々確認して満足できるような、金持ちに憧れて育った貧乏人の浅ましい根性を満たしてくれる、よく考えられた構造だ。それと最近増えてるのが、目的の階にしか行けないエレベーター。ま、これは変な人が来ないようにっていうことなんだろうけど、果たしてそれだけで本気のヤバい人を防げるんだろうか。突破されたら終わりだし、突破しようとしたらそんなもんいくらでもすり抜けられる。それよりはフンドシのオヤジとかパーマあてるヘアカーラー巻いたままのおばちゃんとかがワラワラと飛び出してきて追いかけるタコ殴り式の方が防御力は高い。
そう、そのためにも方向性は真逆で、むしろ人に会う構造にしておく方がいい。なんならマンションの棟内に自然と知り合いが増えて防御力が飛躍的にアップするような、市場とか喫茶店、床屋、雀荘、囲碁クラブ、銭湯、居酒屋、チビッコ広場などの軍事施設を設置した方が防災力は上がる。
ちなみに前出の江東区のスラム街みたいな地区の団地(自宅)では、住民の自治会が定期的に集まって、近所のおじちゃんおばちゃんたちが集結してなんだかんだ白熱して議論してた(自分はチビッコだったから紛糾の内容は知らない)。で、たまに「じゃあみんなで乗り込もうじゃねえか!」とか言い出して、全員で団地の管理事務所へ押しかけて延々と怒鳴り合いの大ゲンカになったりしてた。そういう時は噂が広まるので、面白そうだから我々チビッコたちも駆けつけるのだが、いつも「子どもの来るところじゃあねえ。あっちいって遊んでな」と、腕組みした江戸時代みたいな大人に追い返されたりしてた。いや〜、見たかったなあ〜。なに揉めてたんだろ。
ともあれ、その地域の連携なんかがあるのは市場とか銭湯、床屋などの立ち話で綿々と不穏な横の繋がりができていってるからだ。これは商店街などの街並みも同じだけど、防災上非常に重要な要素で、この防御力の復活は、災害対策上真っ先に取り組まなければならない喫緊の問題だ。
密集した深夜帯の飲食街の問題
次に古い街ならどこにでもある密集した深夜の飲食街についての問題に触れておきたい。小規模の居酒屋やラーメン店、バーやスナックなどが軒を連ね、その距離は非常に近い。そして店内も狭いにもかかわらず混み合っていて、全てが非常に密集している。すばらしい。これはいざという災害の時には非常に有効に力を発するので、このインフラは残しておくべきだし、なければ早急に建設を急ぐべきだ。
こういうところは木造が多く路地も狭いところが多く、火事になったら危ないというのはもっともだが、そのマイナス要因をはるかに凌ぐプラス要因がある。したがって、これを壊して安全を確保するなどという目の前の餌に釣られるマヌケみたいなことは控え、密集飲食街の維持を至上命題としつつ、その上でどう安全確保をするかっていう順番で考えていくべきだ。
まず、こういった小規模店の多い飲み屋街は、その街やエリアに謎の“呑んべえネットワーク”を形成する。毎回同じ店でしか飲まないという人は珍しく、だいたいはお気に入りの数軒を行ったり来たりするし、たまに人に連れられて他に行ったりもする。これ、ぐうたら人間の日常生活にしか見えないが、実はものすごい防災訓練も兼ねているのだ。
そういう地元呑んべえたちは事実上、街の情報屋の役割を果たすので、要するにリアルSNSとして、その街の中での情報共有がすごく活発になる。ただ、近所の人のゴシップみたいなどうでもいい話も急速に流れたりして、それはそれで面倒な時もあるんだけど、街の新店やイベント情報から巷で起こってる困った問題まで、重要情報も多く共有されるのでこれは貴重だ。特に災害時には、インターネットだって使えるかわからないし、実際の近所のネットワークがものを言う。例えば、いざ災害時に人助けとかで大きいハシゴが必要になったとして、すぐに「あの職人の家の裏にあるはず!」なんてのがわかってればすぐに取りに行けるし、どうしても電気が必要な時に「あの角の商店の倉庫には発電機あるはず。借りてこーい!」なんてこともできる。特に災害の初期状態では政府や行政はなにも助けてくれないと思っといて損はないので、こういう情報はとても重要だ。それに災害はなにも天変地異だけじゃなくて、政権の腐敗で無政府状態になったり、政府自身が起こす戦争だって起こりうるので、世界的に考えたら誰も助けてくれない状況はよくある話。やはり呑んべえたちによる飲み歩きで街の情報がくまなく伝達されているのはとても重要なことだ。飲み屋街を千鳥足で歩く呑んべえを見たら未来の救世主と思った方がいい。
さらにいうと、商店主というのは店から出られないけど、そこに集まる常連たちが行ったり来たりしてその店と店を繋ぐ役割もするので、飲んで醜態を晒すぐうたらな奴らに見えるけど、実は街にとって重要な役割も果たしているのだ。それが全てチェーン店の居酒屋やレストランになってしまったら、店主や店員との関係は希薄になるし、常連客同士が芋づる式につながってくるような状態も起こり得ない。これは危険すぎる。
そしてもうひとつ。こういう飲食街って夜の1時以降までやってるところも多く、これがまた重要なのだ。つまり終電以降まで呑気に飲んでられるということは、みんなその街に住んでるということだ。そして、その店主も近くに住んでるということ。諸君、この安心感を考えてほしい。その街に住んでる人がその街の中で遊んだり働いたりするということは、防災上とてつもなく威力を発揮する。いざ何かあったときにすぐに駆けつけられるし、いつもの顔が見えなかったら「○○さん大丈夫かな。見に行ってくる!」って走って見に行けばいい。そして、例えば地震で街が瓦礫の山になったとしても、いつもの心の拠り所にしていた飲み屋の前に行ってみれば、いつのもみんながワンカップでも片手に「うち全部燃えちゃったよ〜」とか言いながらマヌケな顔して途方に暮れてるはずだ。すぐに見知った顔に会うことができる。
もちろん、街は地元の人だけで構成されてるわけじゃない。昼は他の街に買い物に行ったり働きに行ったりするし、逆に遠くの街から来てる人もいる。でも、そんな他所の人たちが路頭に迷わないようにするためにも、近所の呑んべえたちの災害時の初動はとても力になるはずだ。
呑んべえネットワークの話を例に挙げたが、もちろん酒飲みカルチャー以外でもその街のネットワークづくりはたくさん形成されている。銭湯の脱衣場、喫茶店のモーニング、美容室や床屋、病院の待合室、犬の散歩ネットワークなどなど。それぞれに横の繋がりがあり、情報が伝達される。かなりの多層構造になっているけど、しかもそれが独立してるわけでもなくて、銭湯好きの呑んべえは二つの層の伝達役になるし、喫茶店モーニング界と犬の散歩界を股にかけて活動するやつもいるはずだし、その多層構造も実はいろんなところで繋がっている。
つまり、こういうところは絶対に壊してはいけないし、もし何らかの理由で市街地の再開発をどうしてもやらなくなければならなくなった場合、真っ先にやるべきなのは、個人店がギュッと詰まってて歩くだけで人がすれ違うような深夜飲食街(できれば「○○飲食街」みたいなアーチも欲しい)や、市場街。ここから始めれば、街の防御力が飛躍的にアップするに違いない!
さて、今回はひとまず、防災上の観点から近年の街の由々しき事態について述べてみた。いま日本各地、自民党やディベロッパー(開発屋)をはじめとする金に目が眩んだ人たちによって、再開発という危険行為が横行していることはもはや社会問題だ。
それも面白いのが、そういう厄災を呼ぶ迷惑行為である再開発をやろうとしている人たちが「防災」を掲げていることだ。これは、おそらく金に魂を売った自らのやましい魂胆を隠そうとするあまり、そういう正反対の大義名分を掲げてるんだろう。確かに街を壊し巨大な道路を作ったり区画整理をして雑多な個人店を一掃したら一定の延焼防止や防火には役立つ。でも、そのかわりにとてつもなく重要な防災上のインフラ(呑んべえとかタコ殴りとかステテコオヤジとかカーラー巻いたおばちゃんとか近所の噂話など)を失うことになる。一歩進んで二歩退がってる状態だ。
それよりは、今はロボット技術とかとんでもないことになってるので、どんな路地にでも入っていける上に火をも恐れない無敵の消防ロボットとか開発に注力していったらそのうちできるんじゃないのかね〜。確かに今のゴチャッとした街並みが危ないのはわかるんだけど、これはいきなり全部ぶち壊すんじゃなくて、それぞれが建て替えの段階でサイズ感も維持しつつも安全なものにしていくような、徐々にやっていくしかない。そうしないと重要な防災インフラを失うことになる。
それに、自分も高円寺で「なんとかBAR」という、火出したら一瞬で全焼しそうな建物で店やってるけど、それは覚悟した上でスタッフも客もみんなで頑張って気をつけてやってる。もし何かあったら酷い目に遭うのは自分たちか顔見知りの隣人なので気をつけるし、そういう店のある近隣達もみんなそうやってるはず。それはそのリスクを考えたとしても、それに変え難い居心地や文化や雰囲気があるからだ。
本当の「防災」というのは、そういう自分たちのカルチャーを守るための意識からくるものだと思うし、逆に金もうけのために魂を売ったやつらがいう言い訳の「防災」なんかはニセモノだと思う。
近年若者達の間で高まる意識と防災の試み
最後に、近年の防災意識の高まりを紹介してみよう。すでに挙げた、古い街を壊してきれいな商業施設を建てて、スタバやチェーン系居酒屋が入りユニクロや無印が入るようなパターンの開発に飽き飽きして、「それ、どこにでもある光景じゃねーか!」と嫌気がさす風潮がある。世間的には「多様化が大事」みたいなこと言われてるのに、街の光景だけどこも同じっておかしいじゃねえか〜、って話。
そんなわけで、いま再開発の波が忍び寄る高円寺で今年も「再開発反対パレード」が巻き起こった。これはまさに防災意識の高まり以外の何者でもない。特殊で個性あふれる街そのものの高円寺で、しょうもない人間味のない街にしてどうすんだということで、特に高円寺に住んでたり店やってたり遊びにきてるような若いやつらがやたら反応して、異常な盛り上がりを見せた。
高円寺以外でも近年は徐々に街の文化を守るという防災意識は高まっており、いろんなところで声が上がり始めている。
これからも少しでも危機意識・防災意識が高まって、金の亡者と化した政治家や開発屋による危険行為「再開発」を防いでいければと願っている。
高円寺で自発的に発生した防災への取り組み「高円寺再開発反対パレード」
高円寺のバンドやDJが多数登場。再開発反対を歌う
こちらはバンドカーを先頭とする第1グループ。DJカーなどの第3グループまであり、参加者は総勢約1000人ほどだった
毎度おなじみ“のんべえ号”も出動。今回はチビッコたちが缶ビールと引き換えに虫取り網で大人たちからカンパをむしり取るという新たな試み!