『弁護人』(2013年韓国/ヤン・ウソク監督)

 1980年の釜山。高卒ながら猛勉強の末に司法試験に合格したソン・ウソク(ソン・ガンホ)は、ソウル大学卒をはじめとする高学歴の同業者が手をつけなかった不動産に着目し、税務弁護士として成功する。

 下積みから成り上がって、それなりにお金も儲けるようになった彼は、首都ソウルで行われている学生たちの民主化要求デモに批判的だった。「デモで世の中が変わるか」「学生は勉強をしろ」というように。

 そんな言葉には彼のコンプレックスも混じっていたのかもしれないが、行きつけの食堂のおばさんの息子、パク・ジヌが開いていた読書会が、韓国公安から「共産主義を扇動し、国家転覆を図る行為」とみなされ、突然拘禁されたことを機にウソクは変わる。惨い拷問を受け、嘘の供述書を強制されたジヌの無罪を勝ちとるため、弁護を引き受けるのである。

 裁判所は、有罪か無罪かを決める場ではなく、量刑の程度で落としどころを探る、そんな出来レースを演じる場であった。それに抗うウソクは、裁判官や検事、他の弁護士から、出過ぎた真似をするなと釘を刺される。自宅には「お前の子どもがどこの学校に通っているのを知っている」という脅迫まがいの電話もかかってくる。

 韓国の軍政下を描いた映画で、同じくソン・ガンホが主演した『大統領の理髪師』をかつてこのコーナーで紹介したことがある。この作品で彼は、政治とは無縁の生活を送っていた庶民が権力に巻き込まれるさまを演じた。『弁護人』は『大統領の理髪師』の時代を率いた朴正煕政権を「再び軍人がクーデタによって転覆させて誕生した」全斗煥政権下の物語であり、ソン・ガンホは真っ向から権力に対峙する人物に扮した。

 『弁護人』のなかで、われわれは戦争にならないよう犯罪を予防するのだ、と地元の公安当局のチャ警監(※日本の警部に相当する、韓国警察の階級)はいう。その考えは、かつて特高警察に務めていた父から学んだのだと。

 ジヌに対する拷問は、わずか30年前の韓国の現実である。かの国の人々が受け入れざるをえなかった苛烈な時代に、「もし自分がその場にいたら、どんな選択をするか、せざるをえないのか」を自問していた。

 他人事とは思えなかったからだ。

(芳地隆之)

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