第437回:高円寺一揆!! 〜またまた多国籍なマヌケ祭り〜の巻(雨宮処凛)

 「ありがとう! カムサハムニダ! 謝謝! テレマカシー!」

 出演者の多くが、ライブの終わりにそう口にした。

 ライブハウスのステージ、そして客席には、日本、韓国、台湾、香港、インドネシアなどなどの多国籍な人々。2月2日から4日まで開催された「高円寺一揆」では、またしても様々な国、そして日本中からマヌケな人々が押し寄せ、大変な騒ぎとなったのだった。デタラメに楽しくて、脳が溶けそうな3日間だった。

 さて、「高円寺一揆ってなに?」という人に説明したいところだが、ちゃんと説明できる自信はない。チラシには「独立マヌケ地下文化の祭典」とだけある。それ以外にある説明っぽい文言は「抵抗の都市 高円寺」「ライブ 上映会 DJパーティー 48時間BAR 等等」というものだけ。あとはライブなんかの予定があるだけだ。

 気になる人は、一昨年の9月、東京で開催された「NO LIMIT 東京自治区」(コラム第388回第389回)や昨年9月、韓国・ソウルで開催された「NO LIMIT ソウル自治区」(コラム第425回)について書いた原稿をぜひ一読してほしい。

 一言でいうと、東アジアのマヌケな人々の祭典である。多国籍な人々がこの数年でやたらと仲良くなりまくり、一緒に飲んだり遊んだりイベントしたりデモしたりということを、国境を越えてやらかしまくっているのだ。

 一昨年、一週間にわたって開催された「NO LIMIT 東京自治区」にはなんと海外から200人もが東京(というか高円寺)に押し寄せ、「アジア永久平和デモ」を皮切りに連日路上で大宴会を繰り広げ、様々なイベントが開催され、最終日には「世界大バカ集結記念 鎖国反対パレード」なるデモでフィナーレを飾った。「とりあえず高円寺に辿り着けば無一文でも大丈夫」という噂を信じて本当に無一文でやってきた台湾人(ホームレスでバイオリニスト)もいれば、初めてデモに参加するという中国人もいた。

 そんな「国際マヌケ大交流」に味をしめ、昨年9月には韓国・ソウルで「NO LIMITソウル自治区」が開催される。この祭りに参加しない手はないと、今度は日本から大勢がソウルに飛び立ち、もちろん私も参加。日本以外にも中国や台湾や香港やネパールやシンガポールから人々がソウル入りし、やはり「アジア永久平和デモ」を皮切りに、今度は10日間ほどに渡って交流しまくった。

 参加しているのは、本当に様々だ。それぞれの国でバンドをやってるミュージシャン、アーティスト、原発反対、再開発反対の運動をしてる人、オルタナティブスペースをやってる人、戦争が嫌な人、レイシズムに反対する人、祭り好きな人、酒好きな人、音楽好きな人、交流好きな人。

 この祭りの言い出しっぺは、高円寺の愉快な貧乏人の集まり「素人の乱」の松本哉氏。数年前からアジア各地に繰り出し、酒の力で言葉の壁を突破して現地のマヌケな人々と友達になりまくるという彼の地道な努力(?)によって東アジアに今、ワケのわからない繋がりが確かに生まれているのだ。そうして、この2度の「NO LIMIT」参加によって、私自身もやたらとアジアに友人が増えた。参加した全員がそうだと思う。そんな人たちが再び高円寺に集ったのが、このたび開催された「高円寺一揆」なのである。

韓国からロリータ・パンチのキムさんも来日

 2日夜、前夜祭の会場に駆けつけると、すでにそこにはいろんな言語が飛び交っていた。台湾や香港のミュージシャンがライブをし、インドネシア人がDJをする。3日も4日も多国籍なバンド入り乱れてのライブだ。言葉が通じないので、とりあえずライブで盛り上がる。そうすれば、そのあとの飲み会でも言葉が通じないまま盛り上がる。その上、韓国からは「盛り上げる天才」のYAMAGATA Tweaksterが来ている(興味のある人は各自YouTubeで検索)。3日のライブでは、なんと最後の曲でライヴハウスから歌いながら飛び出していった。数十人が、追いかけっこのようにそんなYAMAGATAを追いかける。商店街を歌い踊りながら走り抜けるYAMAGATA。子どものように歓声をあげながら追いかける私たち観客。高円寺の商店街で繰り広げられる追いかけっこ。一体なんのために? というのは愚問だ。なぜなら、「独立マヌケ地下文化の祭典」なのだから。

 が、そんなYAMAGATAはライブで「アジアの平和のために連帯しよう」と呼びかけ、福島についての曲「福島ラバー」を歌い、2020年東京オリンピックに反対し、「沖縄米軍基地反対!」とシャウトする。いろんな国のいろんな人たちが集まっているけれど、「マヌケ」以外にもいろんな思いを共有しているのだ。

韓国のYAMAGATA Tweaksterのライブ

 

ライブハウスから飛び出して走りながら歌うYAMAGATA

突然YAMAGATAに抱きつく人々

 そうして散々歌って踊って走って酒飲んで交流して、「高円寺一揆」は終わった。

 最後に書いておきたいのは、高円寺一揆で上映されたドキュメンタリー映画『NO LIMIT東京自治区 アジアを騒がせた7日間』だ。タイトル通り、一回目の「NO LIMIT東京自治区」についてのドキュメンタリーなのだが、どのようにアジア各国の人々が連帯し、ともに「祭り」を作り上げていったかが詳しく描かれた、あまりにも貴重な記録となっている。中国、台湾、香港など、松本哉氏を追って各国ロケも行いつつ、日本で受け入れる側の手作り感溢れるおもてなしもとらえている。

 ちなみに来る方も受け入れる方もどちらも等しくお金がないので日本側が資金調達を企ててフリーマーケットをしたりするのだが、それが「落ちてた名札を道端で100円で売る」とか「石を10円で売る」(結局売れない)とかの間違いっぷりなのも素晴らしい。

 「怒る警官! 一瞬で空になるビール瓶! その辺を無意味にうろつくアジア人! いきなり自治区を作られた首都、東京!」という映画の宣伝文句がすべてを現している。

 この数年、ずっと「憲法改正」や「戦争」というキーワードが私たちの頭上に浮かんでいる。10年前、20年前と比べて、分断や対立を煽られるような空気は、確実に濃厚になっている。そんな中、東アジアの人々で仲良くなりまくっているこのよくわからない動きは、平時だったらただの「マヌケ」の飲み会だ。だけど、みんなが国境を超えて交流しまくっているこの動きって、実はものすごく大切で貴重な取り組みだと思うのだ。

 世界中に友達を作ること。そこから見えてくる景色を、私はもっともっと見てみたい。

インドネシアのバンド「Kelelawar Malam」(夜のコウモリ)のメンバーたちと

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。