第2回:ここが問題! 国会で審議される憲法改正原案(南部義典)

何が違う?「憲法改正原案」と「憲法改正案」

 今回から各論に入ります。まず、取り上げるテーマは「憲法改正原案」です。前回「国民投票までの流れを知ろう」でお示しした(表1)をご覧ください。

 表のなかには、(3)「憲法改正原案の起草」や(18)「憲法改正案の公示」など、「憲法改正原案」と「憲法改正案」の2つが出てきます。どちらかが誤植ではないか、と思われたかもしれません。

 実は、(16)憲法改正の発議の前後で、呼び方が変わるのです。議員が提出し、国会で審査、審議をするものが「憲法改正原案」、国会発議の後、国民が国民投票運動の対象とし、投票の対象とするのが「憲法改正案」です。「憲法〇〇条改正原案」は、国会発議の後、「憲法〇〇条改正案」へと呼び方が変わります。

 憲法改正権を有している国民こそ、憲法改正に関して最終的な決定を行うことができます。国民による最終的な決定(国民投票)が行われるまでは、「案」のままです。(20)国民投票の期日において、投票総数の過半数の賛成が得られれば、「案」ではなくなり、「憲法改正」が成立します。

憲法改正原案は、誰が作成するの?

 (3)憲法改正原案の起草、のところで、「衆議院法制局が担当」と記しました。衆議院議員自ら憲法改正原案を書いても問題ありませんが、通常の議員立法と同じく、衆議院法制局が担当することになります。法令上の用語遣いは独特のものがあり、その文章(条文)には高度の論理性、整合性が求められることから、立案の専門家である法制局スタッフの能力にすがるしかないのです。

 他方、参議院側(議員)が憲法改正原案を提出しようとする場合には、参議院法制局がその立案を担当することになります。この場合、(表1)とは逆に、参議院、衆議院の順で、憲法改正原案の審査、審議が行われることになります。

憲法改正原案は、議員1名でも提出できる?

 憲法改正原案も、通常の議員立法と同じく、提出者の人数には制限がありません。理屈の上では、議員1名でも提出することができます。

 しかし、仮に提出者が1名しかいない場合、(6)衆議院本会議における趣旨説明、質疑から(13)参議院憲法審査会における採決の直前までのすべてのプロセスにおいて、答弁をすべて1名でこなさなければならなくなります。それは物理的(体力的)に無理でしょう。

 現実問題としては、衆議院、参議院で揃って、単独で3分の2以上の議席を持つ政党(会派)は存在しないことから、(5)のように憲法改正原案を複数政党(会派)で「共同提出」することが議論の前提となります。提出者も、共同提出に合意した政党(会派)からそれぞれ選ばれることになり、通常は複数名いることが想定されます。

 例えば、自民党、希望の党、公明党、日本維新の会が共同して、憲法改正原案を衆議院に提出したとします。この場合、提出者の内訳は、自民党4名、希望の党2名、公明党1名、日本維新の会1名といったように、大政党(会派)からは複数名選ばれることになります。繰り返しますが、提出者が1名しかいないと、その政党(会派)に対する質疑のさい、答弁の負担がすべてその人だけに掛かってしまいます。おそらく、自民党ではベテラン1名、中堅1名、若手2名くらいでポジショニングを行い、答弁を分担するはずです。

 もっとも法律上は、提出者とは別に、一定数以上の賛成者がいることが要件です(国会法第68条の2)。衆議院議員が憲法改正原案を提出する場合には、その提出者とは別に100名以上、参議院議員が提出する場合には、その提出者とは別に50名以上の賛成者が、それぞれ必要となります。賛成者の人数要件を充たさない憲法改正原案は、衆・参の事務局に受理されません。

憲法改正原案は、どんなイメージ?

 そもそも、憲法改正原案とは、どんな内容でしょうか。あくまでイメージですが、簡単な例として、自民党「日本国憲法改正草案」(2012年4月)より(A)臨時国会の召集要求があった場合、その召集に期限を設ける案、(B)政党に関する規定を新設する案を取り出して、憲法改正原案の形式に整えてみたいと思います(その内容は、自民党『日本国憲法改正草案Q&A』52頁、54頁および55頁をご参照ください)。

(具体例A)臨時国会の召集要求があった場合、その召集に期限を設ける案

   日本国憲法改正原案

  日本国憲法の一部を次のように改正する。
 第53条中「国会の臨時会」を「臨時会」に、「いづれか」を「いずれか」に、「あれば、内閣は、その召集を決定し」を「あったときは、要求があった日から20日以内に臨時国会が召集され」に改める。

   附 則
 (施行期日)
 この憲法改正は、公布の日から施行する。

   理 由
 第53条は、臨時国会の召集要求に関する規定であるところ、要求があった場合の召集の期限についての定めがなく、これを明確にする必要がある。これが、この憲法改正原案を提出する理由である。

(具体例B)政党に関する規定を新設する案

    日本国憲法改正原案

   日本国憲法の一部を次のように改正する。
  第64条の次に次の一条を加える。
 (政党)
  第64条の2 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。
  2 政党の政治活動の自由は、保障する。
  3 前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

     附 則
  (施行期日)
  第1条 この憲法改正は、公布の日から1年を経過した日から施行する。ただし、次条の規定は、公布の日から施行する。
(施行に必要な準備行為)
  第2条 この憲法を施行するために必要な法律の制定及び改廃その他この憲法改正を施行するのに必要な準備行為は、この憲法改正の施行の日よりも前に行うことができる。

     理 由
  政党は、現代の議会制民主主義にとって重要かつ不可欠の存在となっている実態に鑑み、その根拠となる規定を憲法に設ける必要がある。これが、この憲法改正原案を提出する理由である。

 いかがでしょうか。実際の憲法改正原案は、法律案の原文と同じで、「タテ書き」で「漢数字」が用いられますが、ここでは、とりあえずイメージだけ掴んでください。

 (A)(B)いずれも、「日本国憲法改正原案」との表題があり、その次に、具体的な改正内容が示されます。(A)は現行の条文を書き改めるものですが、(B)は新規の条文を挿入しようとするものであり、その書きぶりは若干異なります。

 本文の次に「附則」との見出しがあります。まず、憲法改正が成立した場合の施行期日がいつになるのかが明記されます。また、(B)では附則第2条「施行に必要な準備行為」との項目がありますが、憲法に政党条項が新設されることを受けて、政党法(改正後の憲法第64条の2第3項の「法律」)の整備を、公布から1年後の施行日までに行うことになります。

 最後に「理由」との見出しがあります。この憲法改正原案を提出する理由が簡潔に述べられます。

「内容関連事項」ごとに分けることの意味

 表の(5)憲法改正原案を共同提出、のところに、「内容関連事項ごとに区分」と記しています。私が考えるに、これが憲法改正原案に関する最も重要なルールですが、法律では「(議員が憲法改正原案を提出するに当たっては)内容ごとに関連する事項ごとに区分して行うものとする」としか定めていないので(国会法第68条の3)、何が内容関連事項に当たるのか、その判断基準を明確にする必要があります。

 まさに、憲法改正原案の大きさ(サイズ)を決める問題ですが、有権者には憲法改正案ごとに1枚の投票用紙が与えられ、投票することになっているので、「投票単位の問題」にも直結しているのです。

 内容関連事項をどう判断すべきか、国民投票法(案)が国会で審議されていた2006年~07年当時も議論になりました。法案の提出者は「①個別の憲法政策ごとに民意を問うという要請、②相互に矛盾のない憲法体系を構築する要請、のバランスである」と繰り返し答弁していました。①を重視すれば、できるだけ細かく区分することが必要になりますが、あまり細かく区分しすぎると憲法体系に矛盾が生じることから、ある意味、当然のことを述べているにすぎません。具体例を以て、当てはめていくしかありません。

 先ほど、憲法改正原案の例として(A)(B)を挙げました。臨時国会召集要求に係る具体的な召集期限を設ける件と、政党条項を新設する件は、①の憲法政策というレベルでは「別物」であるという点で異論はないでしょう。議員が仮に、同じタイミングで憲法改正原案を提出するとすれば、(A)(B)と分けて行う必要があります。

 逆に、

  日本国憲法改正原案

 日本国憲法の一部を次のように改正する。
 第53条中「国会の臨時会」を「臨時会」に、「いづれか」を「いずれか」に、「あれば、内閣は、その召集を決定し」を「あったときは、要求があった日から20日以内に臨時国会が召集され」に改める。
  第64条の次に次の一条を加える。
  (政党)
 第64条の2 国は、政党が議会制民主主義に不可欠の存在であることに鑑み、その活動
の公正の確保及びその健全な発展に努めなければならない。
 2 政党の政治活動の自由は、保障する。
 3 前二項に定めるもののほか、政党に関する事項は、法律で定める。

  附 則(略)
  理 由(略)

 といった具合に、(A+B)と内容を一本化した憲法改正原案を提出することはできません。前記、国会法第68条の3「内容ごとに関連する事項ごとに区分して行うものとする」の違反になるからです。

 一方で、憲法改正原案の内容を細かく分けすぎると憲法体系に矛盾が生じる例として、緊急事態条項が挙げられます。

 もう一度、自民党「日本国憲法改正草案」で考えてみましょう。こちらから、まずは改正草案の第98条と第99条を読んでみてください。

 第98条は「緊急事態の宣言」、第99条は「緊急事態の宣言の効果」という見出しが付いています。簡単に言えば、それぞれは緊急事態の〈要件〉と〈効果〉を規定しています。もし「緊急事態の宣言」の規定がなければ、「緊急事態の宣言の効果」を規定しても意味がないので、論理的に両者は一体で機能します。〈要件〉だけ、〈効果〉だけでは機能しません。

 しかし、緊急事態条項を新設しようとする場合、仮に〈要件〉と〈効果〉が別々の憲法改正原案として提出され、国民投票に付されたとしましょう。その結果、両方が成立もしくは不成立であれば論理的には問題ないのですが、一方につき成立し、残り一方が不成立となると、どうでしょうか。

 こうした問題を避けるため、緊急事態条項の〈要件〉と〈効果〉は一体である必要がありますが、それでも〈効果〉の面は議論の余地を残しています。

 すなわち、改正草案にあるような、(ア)内閣が法律と同一の効力を有する政令を制定できること、(イ)内閣が自治体の長に対して必要な指示を出せること、(ウ)国民は、国民の生命等を守るために行われる措置について発せられる国の指示に従わなければならないこと、(エ)衆議院の解散は制限され、両議院の議員任期に特別の定めが置かれること、をすべて一つの憲法政策として括って国民投票に付してよいかどうか、立ち止まって考える必要があるのです。

 〈要件〉+〈効果〉の一体性は維持しなければなりませんが、〈効果〉の内容は個別に問うこと、つまり憲法改正原案として区分することが当然の判断となるのが常識的です。そうなると、(ア)~(エ)をすべて明記しようとすれば、国会発議を何回かに分け、国民投票をそれぞれ行う必要があるのです。

 なお、国会法第68条の3は、「内容関連事項ごとに区分」と定めているので、「条文ごと」「逐条ごと」に分けるルールにはなっていないことに注意して下さい。内容関連事項の判断として、憲法改正原案がたった1本の条文から成り立つ場合もあれば、2本以上の条文が含まれる場合もあります。

「法律」の中身も明らかにする必要がある

 先ほど、(B)の中では、「法律」という単語が一度出てきました。自民党「日本国憲法改正草案」第98条、第99条(緊急事態条項案)には7回も出てきます。

 憲法改正原案の提出に際して注意しなければならないのは、その条文中に「法律」が出てくる場合、その概要について、国会発議までに、およその骨格が示される必要があるということです。憲法改正の実質的な内容を委ねられることになる「法律」の内容が分からないままで、有権者はその憲法改正案に対する賛成・反対の意思表示を正確に行うことはできません。憲法改正が成立すれば、立法権を有する国会にフリーハンドを与えるだけになってしまいます。

 さらに言えば、憲法改正原案の提出者(複数名)の間で、「法律」の概要に関して、およその意見が一致している必要があります。(B)の政党法の例では、それほど意見がばらつくことはないでしょうが、緊急事態条項案に関して、提出者間でその「法律」のイメージが異なり、憲法審査会の審査段階でバラバラの答弁を繰り返すようでは、有権者も混乱します。

 「憲法改正の後、国会はいったいどんな法律を制定するのか分からない」といった不安を招き、むしろ反対に向けた世論を強くするでしょう。

今回のまとめ

 いずれにせよ、国民投票においては、国民の意思ができるだけ正確に反映されることが肝要です。あまりにも多くの内容が盛り込まれた一本の憲法改正(原)案は、国民の多数意思の所在をあいまいなものとし、国民主権侵害に値します。

 内容関連事項ごとの区分は、最後は“政治判断”になります。もし、どこかの政党(会派)が、内容ごちゃまぜの憲法改正原案を提出しようとした場合、その周りの政党(会派)が、「いや、待って。議論を詰めて、細かく分けたほうがいい」と歯止めを掛けたり、「そんな憲法改正原案は、国会法第68条の3違反である」と、世論の力で押し戻す(撤回させる)ことが重要です。国会が発議してしまっては、手遅れなのです。

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〇申込み方法など、こちらでご確認ください。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)