第4回:国民投票広報協議会の役割とは?(南部義典)

「発議でおしまい」ではない、国会の役割

 前回は、国民投票運動を扱いました。国会が憲法改正の発議をした日から投票日までの間(60〜180日間)、誰でも原則自由に、憲法改正案に対する賛成投票・反対投票を呼びかけることができます。

 国民投票運動というと、海外の事例がそうであるように、政党や政治団体のような大きな組織が率先して展開するものをイメージしがちです。もちろん、政党などが主体になることは間違いありませんが、個人どうしの関係の中で行われる国民投票運動も重要です。選挙とはまったく違った意味で、主権者意識が覚醒するでしょう。

 憲法改正の発議は、いわば、国民の側にボールが投げられた状態になります。もっとも、国会はボールを投げ終わったからといって、「後は、皆さんでどうぞ、ご自由に」と、「御役御免」になるわけではありません。国会には、憲法改正案の内容などの広報を行う重要な役割が待っています。その中心を担うのが国民投票広報協議会です。

 国民投票広報協議会は、憲法改正の発議があったときに初めて設置されます。改めて(表1)をご覧ください。「(19)国民投票運動」の右側、「国民投票広報協議会@国会」と白塗りになっている箇所です。

国民投票広報協議会の構成

 まず、国民投票広報協議会はどのような組織構成なのか、確認しておきましょう。

 国民投票広報協議会は、衆議院議員10名、参議院議員10名の計20名から成ります。国会の中に置かれる機関であって、衆議院、参議院それぞれに置かれるわけではありません。委員の選任は衆参における会派の所属議員数の比率により割り当てられます。うち1名、会長が互選されます。2018年4月現在の議席数に応じて割り当ててみると、次のようになります。

 国民投票広報協議会が設置されるのは、「各議院の総議員の3分の2以上の賛成」を要する、憲法改正の発議が終わっている状況です。つまり、この時点で、衆議院、参議院のいずれも、賛成会派:反対会派=2:1以上の「開き」が生じています。重要なことは、その比率が協議会委員の構成(20名)にもそのまま反映し、賛成会派:反対会派=2:1以上の「開き」があるということです。

 国民投票広報協議会が議事を進め、何かを決定する場合、会長を除く19名で単純な多数決(過半数)に拠ってしまっては、数の上では賛成会派が常に優位に立ってしまいます。これは、誰が見ても公正な運営ではありません。そこで、国民投票広報協議会の定足数(議事を開くために必要な最少の委員数)を衆議院側の委員7名、参議院側の委員7名とするとともに、表決数(議決に必要な最少の委員数)を「出席委員の3分の2以上の多数」としています。単純多数決ではなく、特別多数決のルールを置いています。

 委員19名で表決を行うとなると、13名以上の賛成がなければなりません。実際には、反対会派(=少数会派)の意見がないがしろにされることがないよう、「全会一致」で進めていくことを基本にその運用がなされるべきです(全会一致原則を先例として残すべきでしょう)。

国民投票広報協議会が行う事務〈1〉 「国民投票公報」

 選挙の際には「選挙公報」が配布されますが、国民投票では「国民投票公報」が発行されます(「広報」ではなく「公報」の字が当てられるので、注意してください)。国民投票公報は、投票日の10日前までに、各世帯に届くことになっています。また、役所など公共の施設内でも配布されます。

 国民投票広報協議会が行う事務の第一は、国民投票公報の原稿を作成することです。
 国民投票公報には、①憲法改正案、その要旨、②条文の新旧対照表、参考事項の分かりやすい説明、③賛成意見、④反対意見が記載されます。①と②は客観的かつ中立的に、③と④は公正かつ平等に扱われることになっています。頁割をイメージしたものをご覧いただきましょう。

 国民投票公報の全体の頁数は決まっていませんが、図のとおり、三等分(①②はあわせてひとつの扱い)されることをまずはイメージして下さい。先ほど、憲法改正の発議に当たっては、賛成会派:反対会派=2:1以上の開きが出来ていることを指摘しましたが、公報の上での扱いは平等になり、同じスペースが与えられます。極端な例を挙げますが、衆参の議長を除いて、賛成議員704名:反対議員1名で発議されたとします。この場合でも、公報のスペースは1:1と、対等に与えられます。

国民投票広報協議会が行う事務〈2〉 憲法改正案広報放送

 二つ目は、憲法改正案広報放送に関する事務です。国政選挙、知事選挙では「政見放送」「候補者経歴放送」がありますが、それに類似するものと考えて下さい。媒体は、テレビとラジオです。

 憲法改正案広報放送の内容は、①憲法改正案、その要旨の広報、②参考事項の広報、③賛成の政党等の意見広告、④反対の政党等の意見広告、から成ります。①と②は客観的かつ中立的に扱われ、③と④は同等の利便(同一の時間数、同等の時間帯)が提供されることになっています。

 憲法改正案広報放送の時間は決まっていませんが、仮に30分間とすると、次のようなイメージになります。

 時間は三等分されるイメージです。賛成意見、反対意見それぞれの広告には、同じ時間数(ここでは仮に10分)が与えられます。

 なお、賛成意見、反対意見それぞれの広告の一部は、指名する団体に行わせることができます。その手続きなど、詳細は決まっていません。

国民投票広報協議会が行う事務〈3〉 憲法改正案広報広告

 三つめは、憲法改正案広報広告に関する事務です。端的に、新聞広告と考えて下さい。

 憲法改正案広報放送の内容は、①憲法改正案、その要旨の広報、②参考事項の広報、③賛成の政党等の意見広告、④反対の政党等の意見広告、から成ります。①と②は客観的かつ中立的に扱われ、③と④は同等の利便(同一の寸法、回数)が提供されることになっています。
 新聞広告の頁割は決まっていませんが、仮に6段分を使うとすると、次のようになります。

 頁割は三等分されるイメージです。賛成意見、反対意見それぞれの広告には、同じ段数が与えられます。

 なお、賛成意見、反対意見それぞれの広告の一部は、指名する団体に行わせることができます。その手続きなど、詳細は決まっていません。

国民投票広報協議会が行う事務〈4〉 その他

 最後に、投票記載所に掲示される憲法改正案の要旨の作成です。投票記載所とは、有権者が投票所で受け取った投票用紙に、記載をする場所のことです。隣同士に仕切り版が設置してある、あの場所です。選挙であれば、候補者名、名簿届出政党名など記した文書が掲示してありますが、憲法改正国民投票の場合には、憲法改正案の要旨が掲示されます。その内容は、客観的かつ中立的に作成されます。

 さらに、憲法改正案の広報に関する事務として、ウェブサイトの運営が挙げられます(法律にはその規定はありませんが、選挙との比較上、当然必要になります)。ウェブサイト上では、憲法改正案の本文、要旨はもちろん、国会での審議経過など、様々な情報が提供されることが期待されます。その先、一般の有権者からの問い合わせに応じるコールセンターのような役割を担えるかどうかは、誰が対応するのか(賛成会派の議員、反対会派の議員がそれぞれ電話で応対するのか?)といった問題や、事務局体制のあり方など、その他多くの課題を残しています。

広報内容の途中変更の検討も必要

 個別に指摘しましたが、国民投票広報協議会が行う事務のいずれも(国民投票公報、憲法改正案広報放送、憲法改正案広報広告)、その詳細は決まっていません。どの政党(会派)も、公式に検討を始めたことさえありません。先例が何一つないことから、この点は非常に深刻なことです。

 法的には、国会が憲法改正の発議をすれば、その瞬間から国民投票運動は可能となります。国民が、賛成、反対の判断をするのには、国民投票広報協議会から発せられる各種の情報が頼りになります。国民投票運動が盛り上がろうとしているときに、国会側が広報のあり方を「これから考えます。しばしお待ちを」というのでは、時機を逸することは明らかです。本来、憲法改正の中身の話に深入りする前に、広報のあり方をどうするか、各党各会派で十分な合意を整えておくべきなのです。

 もう一つ、問題が残っています。選挙の際の政見放送、候補者経歴放送は、その期間中、同じ内容が流れ続けます。他方、国民投票は、期間が60〜180日間とかなり長いことから、同じ内容の広報放送が流れ続けたりすると、視ている有権者が飽きてしまったり、発議後に生じた新たな争点に対応できないなどの問題が生じます。国民投票運動期間の終盤で、役に立たない広報が続いては、国民投票そのものへの関心を薄めてしまいます。そこで、広報の内容を、期間の途中で変更することを検討すべきです。

 ちなみに、さいたま市議会は2018年3月16日、「国民投票制度の改善に向けた取組を求める意見書」を全会一致で可決しました。意見書の項目1は「国民投票広報協議会が行う憲法改正案に関する放送や新聞広告の運用については、実施回数のほか、国民投票運動の期間中における広報内容の変更の可否等も含め、十分な検討を行うこと」と指摘しています。

 発議の後、運用の問題に気付くようでは遅いのです。憲法改正の中身の話ばかりにエネルギーを注ぐのは、愚の骨頂といえるでしょう。

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南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)