第446回:「ロスジェネ」、その10年後〜「非正規・単身・アラフォー女性」を徹底取材。の巻(雨宮処凛)

 「今まで、一生懸命頑張ってきたわけですよ。就職も厳しくてようやく掴んだ仕事で、だんだん認められてきて。仕事でようやく『認められた』って思ったのが30過ぎ。結婚なんてまだまだ考える余裕なくて、突っ走ってきて…。じゃあ結婚しようかなって思ったら、『いや、もう40代の女性なんて枠ないですよ』って…」

 この言葉は、5月17日に出版される私の新刊『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)のまえがきから引用したものである。思いを吐露してくれたのは、結婚相談所に登録する40代の女性。彼女だけでなく、心からの叫びのような声を、多くのアラフォー女性たちから聞いた。

 自分たちが社会に出る頃には就職氷河期で、それでもなんとか働いてきた。「35歳定年説」なんて言葉もある派遣の仕事も、率先して人の仕事を手伝ったりして契約更新のため頑張ってきた。結婚や出産なんて、考える余裕がそもそもなかった。アラサーの時にはリーマンショックがあって、とにかくクビを切られないよう必死だった。

 そうして気がつけば、アラフォー。「結婚してないのか」「子ども産んでないのか」なんて心ない言葉をぶつけられ、時に憐れみの目で見られたりする。「結婚も出産もしていない人間は社会を支える義務を果たしていないから年金を減額すべき」なんて暴論を振りかざすオッサンまでいる。別に結婚しないって決めて生きてきたわけじゃない。仕事一筋のバリバリのキャリア女性を目指してきたわけでもない。かと言って、今のままでいいとは思えない――。

 どれもこれも、単身、非正規のアラフォー女性であれば他人事とは思えない言葉ではないだろうか。

 さて、そんな私もフリーランスで単身のアラフォー女性。1975年生まれなので、今年の1月、43歳となった。自分の世代は、一言で言って「受難の世代」だと思っている。

 団塊ジュニアでもあるので、数が多いことから過酷な受験戦争を経験するも、自らが社会に出る頃にはあっさりとバブルが崩壊。そこから長い長い就職氷河期が始まり、多くの同世代が正社員になれず、「とりあえず景気回復まで」とフリーターや派遣という非正規人生を歩み始めたのが90年代。が、すぐに回復すると思った景気は一向に回復の兆しを見せず、97年には山一證券が廃業したり拓銀が破綻したりと本気で雲行きが怪しくなってくる。世にはリストラの嵐が吹き荒れ、98年には年間自殺者が初めて3万人を突破。

 不況の中、企業は非正規に頼るようになり、労働法制もどんどん規制緩和され、00年代には非正規雇用率は3割を突破。そして現在、それは4割に迫っている。

 そして受難は、現在進行形だ。この20年間の経済的停滞を指して「失われた20年」と言われるが、現在のアラフォーは20歳から今までが「失われた20年」ときっちり重なっているのだ。

 20歳から40歳と言えば、一般的に就職したり仕事を覚えたり、結婚したり出産したりローンを組んで家を買ったりとライフイベントが集中する時期である。が、その20年間がまるまる「失われていた」ことによって、就職も結婚も出産もすべて経験していない、という層が少なくない。しかし、同世代の中には、それらすべてを手に入れている層がいることもまた事実で、その落差を思うたびに「社会のせいにするな」という言葉が誰に言われるでもなく、内側から湧き上がってもくる。一方で、女性には、今まさに「出産可能年齢」という新たな壁も立ちはだかっている。

 さて、そんなアラフォー世代に関するデータを見ていこう。

 まずはアラフォー女性の未婚率。15年の国勢調査に基づくと、35〜39歳の未婚率は23%、40〜44歳の未婚率は19%。05年の調査と比較して、35〜39歳の未婚率は5ポイント、40〜44歳の未婚率は7ポイント上昇している。

 次に、非正規雇用率。

 現在、全世代の非正規雇用率は37.3%だが、35〜44歳という働き盛りの世代の非正規雇用率は28.6%。が、男女比を見ていくとあまりの違いに言葉を失う。17年の労働力調査によると、男性の非正規雇用率は35〜44歳で9.2%。かたや女性は同じ世代で52.5%が非正規雇用なのだ。ちなみに女性の非正規は年収100万円未満が44.3%もいるという。

 国税庁のデータを見ても、非正規女性の過酷さは浮かび上がる。16年の非正規の平均年収は172万円なのだが、非正規男性は227万円。非正規女性は148万円。日本の貧困ラインは122万円だから、非正規女性だと年収ベースで貧困ラインと26万円しか変わらないのだ。

 でも、非正規女性の中には主婦パートとか、自分で生計立ててるわけじゃない人もたくさんいるんでしょ? という声もあるだろう。が、15年の労働力調査によると、35〜44歳の独身女性のうち、非正規で働く人は41%。アラフォー独身女性の4割が不安定雇用なのである。

 さて、そんな非正規単身女性の中には、低賃金ゆえ、実家暮らしを続けている層も多くいる。が、アラフォーの親となると60〜70代。このまま行けば、実家を出られないままに、親の介護になだれ込む可能性も高い。そうなると、場合によっては介護離職する人もいるだろう。

 年間10万人と言われる介護離職者に対し、国は「介護離職ゼロ」を打ち出しているものの、介護離職をした人の8割が女性だという。独身、女性、そのうえ親と同居という状況であれば、家族親戚一同、誰もに「介護要員」として期待される可能性大だ。

 ちなみに、高齢者一人の介護をまっとうするのに必要な金額の目安はいくらくらいだと思うだろう? 答えは546万1000円。生活費は別である。介護期間は平均で4年11ヶ月。約5年だ(『介護破産 働きながら介護を続ける方法』より)。

 2025年には、すべての団塊世代が後期高齢者となる。私の親も団塊世代。今のところ元気だが、親の「老い」は、時限爆弾並みの恐怖でもある。

 このように、非正規・単身・アラフォー女性には、仕事やお金、結婚、出産、病気、老後、親の介護などなど悩みの種が、叩き売りたいほどに山積している。

 本書では、「非正規という働き方」「アラフォー女性と婚活」「生きづらさを抱えながら」「親の介護、その時どうする?」というテーマで、8人の女性にじっくり話を聞いた。

 「感情を鈍麻させる薬」を飲みながら非正規で働く女性。乳がんとなったことで派遣の仕事を切られた女性。日雇い派遣を含めてなんと237社で働き、怒涛のスキルアップを成し遂げ、今や「スーパー派遣」と呼ばれるまでになった女性。

 「このまま行ったら老後は刑務所しかないのでは?」という不安から婚活を始めるものの疲れ果てた女性もいれば、婚活でうまくいきかけた相手に対し、「この人のおむつを換えられる」という覚悟が持てる相手かどうかが決め手になると語ってくれた女性もいた。同世代の婚活男性は、女性への希望年齢を「35歳くらいまで」としていることが多く、40代女性の相手として現れる男性は還暦近くの人も多いからだという。婚活と、「おむつ」。もっとも遠く思えるキーワードだが、なんだか妙にリアルだ。

 一方、現在のアラフォーは、10代の頃にいじめなどの問題に直面し、不登校やひきこもり、あるいはリストカットなどの形で「生きづらさ」の問題が表面化した第一世代でもある。そして不登校やひきこもりなどで教育、仕事から遠ざかる時間が長ければ長いほど「社会復帰」には時間がかかる上、企業社会は体力だけではなく、「メンタルの強さ」も求めている。そんな中、不登校やひきこもりの経験がある女性たちが今をどう生きているか、「小卒フリーター」の女性と、いわゆる元「メンヘラ」の女性に話を聞いた。

 また、介護問題については、自らが「おひとりさま」で、同居する母親の介護を経験してきたジャーナリスト・村田くみさんに取材した。さらに巻末では、「女性と貧困ネットワーク」「働く女性の全国センター」などで活動してきた単身・アラフォーの栗田隆子さんと対談。

 10年ほど前に「ロスジェネ」と名付けられた私たちは、それから10年経ち、中年となった。25〜35歳だったロスジェネは今や35〜45歳となり、「若者」でなくなった途端、政策の優先順位は一気に下がり、そして問題としても忘れられた。しかし、忘れられようとも、私たちの人生は続く。

 未婚率が上がった今、単身アラフォー世代にとって、親世代の生き方はモデルにもならなければ参考にもならない。そして社会を見渡せば、様々な制度から単身アラフォー女性は弾かれていることがよくわかる。年金など各種社会保障制度を見ても明らかなように、「単身で生きていく中年女性」はもともと想定されていないのだ。

 だからこそ、私たちは前人未踏の地をひた走るトップランナーである。バブル崩壊後の、急激に格差が進行する社会の中、試行錯誤し、満身創痍になりながらも、とりあえずここまで生き延びてきた。

 そんなアラフォー世代が「生き延びる」モデルを作ることができたら、それは必ずや、下の世代に継承できる。

 多くのヒントが詰まった一冊になったと自負している。ぜひ、手にとってみてほしい。

『非正規・単身・アラフォー女性 「失われた世代」の絶望と希望』(光文社新書)
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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。