第37回:原発再稼働を阻止するために(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 今回は、私的なことを書く。
 ぼくの地元の「府中革新懇」というところから原稿を頼まれて、小論を寄稿した。これは多分、地元に人の目にしか触れないだろうから、少し手直しをして、もっと多くの人に読んでもらおうと思った。
 というわけで、以下のような話です。

我が家は「再エネ」を選んだ

 この6月から、我が家の電気は「パルシステム」という生協の「再生可能エネルギー」に切り替わった。
 実は我が家は、いわゆる「電力自由化」が始まってすぐに、それまでの地域独占であった東京電力との契約を止め、新規参入した「新電力会社」のひとつである東京ガスの電力に切り替えていた。福島第一原発事故についての東電の対応のひどさに、ぼくは頭に来ていたからだ。
 しかし、東京ガスにも多少の不満があった。ここの電気は液化天然ガスがほとんど。原発由来の電気も含まれている可能性もある。さらに、環境への影響が懸念される石炭火力発電所の新設計画があるという。
 そんなことを思っていた時、我が家が加入している生協のパルシステムが再生可能エネルギー電力100%を目指して電力供給を始めたという話を、パルの配達員さんが教えてくれたのだ。さっそく、資料をもらって調べてみた。
 難しい手続きはまったく不要だった。電力メーターの取り換えも持要らない。東京ガスからの切り替えも、すべてパルが代行してくれる。ぼくはただ、お願いすればOKだった。
 というわけで、我が家の電気は、いまやほぼ「再生可能エネルギー電力」なのである(現時点では約80%)。
 これをお読みのあなたが、もし生協に加盟していなくても、せめて東電(関東以外の地域の方は、それぞれの電力会社)からの離脱をお薦めする。これも、実に簡単なのだ。
 ぼくが東電から東京ガスへ切り替えたときでも、ただ東京ガスの支社に電話しただけ。すべての手続きは東京ガスでやってくれた。東電との面倒な切り替え交渉など、何もなかった。メーターも、知らない間に取り換えてくれていた。電気料金も、さほど変わらない。うまくいけば、多少は安くなることもある。

柏崎刈羽原発再稼働をめぐる県知事選

 ではなぜ、東電の電力からの切り替えが必要なのか? それは、新潟県の東電・柏崎刈羽原発の再稼働と密接に関連しているからだ。むろん、東電以外の電力会社での原発再稼働についても、同じことが言える。
 6月10日の新潟県知事選では、花角英世氏が当選した。
 この人は、かつて運輸省官僚で、自民党の二階俊博氏が運輸大臣時代の秘書を務めたこともある。その後、新潟県の副知事を経て海上保安庁次長に就任。米山隆一新潟県知事のスキャンダル辞任に伴う県知事選に出馬した、という経歴である。
 選挙戦では徹底的に「原発争点隠し」に終始した。
 新潟では最近、野党統一候補が自民公明推薦候補を破るという傾向が続いており、自民公明は、まったく表には出ず「県民党」を名乗り、建設会社を中心に裏での活動に注力した。そのすごさは、期日前投票の凄まじい増加にはっきりと表れていた。大量動員された建設関係者が、列をなして期日前投票所に並んだのである。そこには利益誘導という、これまでの自民党の得意の選挙戦術があった。
 一方、「原発再稼働反対」を真正面に掲げた野党統一候補の池田千賀子氏は、原発の是非を争点化しようとしたけれど、花角氏は「前県政の方針を踏襲する。県民の意見を尊重する」というだけで、柏崎刈羽原発の再稼働問題にはほとんど触れようとしなかった。
 結果は、僅差での花角氏の勝利に終わった。
 むろん、東京電力は大喜びした。これで柏崎刈羽原発の再稼働に目鼻がついた、というわけである。

電力会社がいちばん困ること…

 選挙からたった5日後の6月15日、花角氏は新潟県選出の与党議員らとの懇談会に出席、その場で「原発再稼働は、慎重に審査した結果としてあり得る」と、微妙な言い回しながら再稼働容認の考えを示したという。
 東京電力と安倍首相官邸、その意を受けた経済産業省が、原発に関しては花角氏と合意の上で県知事候補に推したのだから当然だろう。
 東電は、これまで渋っていた「福島第二原発4基の廃炉」を、6月14日、ようやく表明した。なぜここまで廃炉表明を延ばしてきたのか。それは、柏崎刈羽再稼働との引き換え、という意味があったに違いない。福島での原発再稼働など、福島県民の感情の傷をまるで紙やすりで逆撫でするようなもの。それでも、廃炉の決断を先延ばしにして来たのは、この新潟での再稼働との取引材料にしたかったからに違いあるまい。それが、花角氏の当選で、ようやく実現可能性が出てきたとうことだ。
 こんな東京電力の“汚い電気”を使い続けることはない。
 東電に対する抗議は「電力切り替え」がもっとも効果的だ。世論は今でも、圧倒的に「再稼働反対」が強い。だが、どれほど声を挙げても、安倍官邸も経産省も電力会社も、その世論を無視し続けている。
 だが、世論は無視できても、具体的に契約者数が激減すれば、電力会社も考え直さざるを得なくなるだろう。電力会社は送電網の使用拒否とか、利用料の値上げなどで「新電力」への圧力を高めるだろうが、どんどん契約者数が減っていけば、考え直さざるを得なくなる。
 消費者の手で、原発再稼働に待ったをかけることができるのだ。あなたのほんの小さな行動が、原発を止める力になる。
 ぜひ「電力切り替え」を!

沖縄へ行きます

 個人的な話のついで。
 これを書いているのは6月26日だ。明日から1週間、ぼくは沖縄へ旅してくる。
 最初は、久米島へ行く予定だ。たくさんの離島を訪れたけれど、久米島は初めてだ。実は、ここには大田昌秀元沖縄県知事のお墓がある。ぼくは大田さんにはほんとうにお世話になった。たくさんのお話を聞かせていただいた。たくさんのことを学ばせていただいた。大田さんの本も作った。
 だから、お礼の墓参りをしたいのだ。
 大田さんのご子息から電話をいただいた。病気療養中なのだが、とても喜んでくれた。ただ、お墓は畑の中にあって、見つけにくいところですよ、と仰っていた。頑張って探しますよ……。

 むろん、本島へ戻ってからは、辺野古へも行く。辺野古へは、昨年6月に行ったきりだ。今回は、しっかりと現状を見てきたい。できれば高江にも足を伸ばしたい。沖縄のジャーナリストたちとも会ってお話を聞いてきたい。
 その上で、きちんとした報告を書きたいと思う。闘いの現場へも行かずに、やたら悪口ばかりのネット右翼の方々にも、ぜひ読んでもらいたい。

 ほんとうは1週間では足りないのだが、ぼくの体力と資金がそれ以上は……と悲鳴を上げるだろう。
 ぼくは絶対の晴れ男。
 旅程を組んでいた時は、梅雨の真っ最中だったけれど、やっぱり行く日の数日前には「沖縄は梅雨明けしました」と。
 少しは海辺にも出て、久しぶりの魚たちとの再会も果たしてきます。そんな土産話も含めて、次回のコラムで。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。