第6回:ここがポイント!国民投票法の改正案(南部義典)

国民投票法改正案の提出

 1月22日に召集された第196回国会(通常国会)は、会期が1カ月間延長となり、7月22日まで(会期182日間)となりました。国会法の規定によって、通常国会は会期の延長が一回までと限られます。あさって20日(金)が実質的な最終日となります。

 会期の延長を受け、成立の可能性を見いだしたのか、6月27日、自民、公明、維新、希望の4会派が共同して、「日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律案」(国民投票法改正案)を衆議院に提出しました。7月5日、衆議院憲法審査会で、改正案の趣旨説明が行われています。今回は、改正案の内容とこれからの課題について解説します。

7つの改正内容とそのポイント

 改正案は、主に7つの内容から成り立っています。

 ひと言で、大雑把に特徴づけるならば、「国民投票の投票環境を向上させるための改正」です。いずれも、選挙(国・地方)においてはすでに実現している項目ばかりです。国民の政治参加という点で、選挙も国民投票も同類であり、その投票環境で較差があっては不合理なので、選挙制度のレベルにまで引き上げようというものです。

 第1は、国民投票の有権者名簿(投票人名簿、在外投票人名簿の2種類があります)の内容確認手段について、抄本の閲覧制度を創設することです。個人情報保護の観点から、従来の縦覧制度を廃止し、閲覧できる場合が法律上明確化、限定化されます。

 改正法は、有権者が市区町村選管において有権者名簿の抄本の閲覧ができる場合として、①「特定の者が有権者名簿に登録された者であるかどうかの確認を行うために、抄本を閲覧することが必要であり」(目的の明確化)、②「当該確認に必要な限度において」(範囲の限定化)、という二つの縛りを掛けています。そして、閲覧事項を不当な目的に利用されるおそれがある、閲覧事項を適切に管理することができないおそれがある、その他閲覧を拒否する相当な理由がある場合には、市区町村選管は閲覧を拒否することができるとしています。

 抄本の閲覧を申し出た者は、名簿に登録された本人の事前の同意を得ないで、閲覧した事項を利用目的以外の目的のために利用し、または第三者に提供してはならないことも明確化されました。申出者が、偽りその他不正の手段によって抄本を閲覧した場合や、目的外利用、第三者提供をした場合で、登録された者の権利利益を保護する必要があると認めるときは、市区町村選管は申出者に対して、勧告、措置命令をすることができます(命令違反をした者は、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます)。申出者に対し、目的外利用や第三者提供が行われないための措置を講ずることについて、必要な報告をさせることもできます(報告拒否、虚偽報告をした者は、30万円以下の罰金に処せられます)。また、偽り不正の手段によって有権者名簿を閲覧した者、閲覧事項の目的外利用や第三者提供をした者は、30万円以下の過料に処せられます。

 第2は、国民投票の有権者名簿のうち、在外投票人名簿の登録についての改正です。

 現在、選挙について外国で投票を行う場合には在外選挙人名簿という別の名簿があり、在外選挙人名簿に登録されれば、自動的に在外投票人名簿にも登録されるシステムになっています。この点、有権者が日本を出国する時に市区町村の窓口で在外投票人名簿への登録を申請できる制度が設けられていますが(出国時申請)、国民投票の投票日50日前に当たる名簿登録基準日の直前に出国した場合に、在外選挙人名簿には登録されても、在外投票人名簿には登録されないという場合が生じうるので、この隙間を補うことを内容としています。

 文章だけでは分かりづらいので、次の図をご覧ください。

 (ケース1)、(ケース2)の違いは、出国時申請のタイミングによって、有権者が在外選挙人名簿に登録される日と、在外投票人名簿に自動的に登録される登録基準日との間に先後関係が生じる点です。(ケース1)では、登録基準日の前に在外選挙人名簿に登録されているので、在外投票人名簿にも登録され、無事、国民投票の資格を得ることになります。しかし、ケース2では、登録基準日の後に在外選挙人名簿に登録されているので、基準日を過ぎ、在外投票人名簿には登録されず、国民投票の資格を得られないことになってしまうのです。今回の改正では、(ケース2)を救済することとしています。

 第3は、いわゆる共通投票所の設置です。市区町村内のいずれの投票区に属する投票人も投票することができる投票所です。

 私が居住するさいたま市には、最近の選挙で共通投票所が設置されています。中央区にある「イオン与野ショッピングセンター」の1階で、中央区、大宮区、西区、桜区の有権者が期日前投票を行っています。前回の衆議院議員総選挙(2017年10月22日投開票)では、19日から21日まで、それぞれ午前11時から午後7時まで開かれていました。本来、期日前投票に行こうとすれば、それぞれの区役所や期日前投票施設まで足を運ばなければならなかったものが、買い物ついでに投票ができるわけですから確かに便利ですし、投票率の向上にも一定の効果が期待されます。

 第4は、期日前投票に関する件です。

 まず、期日前投票の事由に、「天災、悪天候により投票所に到達することが困難であること」を追加することです。前回の衆議院議員総選挙でも、投票日に台風が接近する予報があり、かなり多くの方が期日前投票を済ませました(中には、期日前投票所の激しい混雑のため、投票を断念した方もいました)。この事由を、国民投票についても明記します。

 また、期日前投票所における投票時間の弾力的設定を可能にすることです。具体的には、投票の開始時刻(午前8時30分)を2時間以内で繰り上げることと、終了時刻(午後8時00分)を2時間以内で繰り下げることです。

 さらに、市区町村選管が期日前投票所を設ける場合には、人口、地勢、交通等の事情を考慮して、期日前投票所の効果的な設置、期日前投票所への交通手段の確保その他の有権者の投票の便宜のため必要な措置を講ずべきことが明文化されました。

 第5は、洋上投票の拡大です。

 現行では、洋上を船舶で航行している船員は、船内に設置されたファックスを用いて、不在者投票を行うことができますが、その対象を、①いわゆる便宜置籍船(指定船舶以外で総務省令で定めるもの)の船員、②洋上実習を行う学生、生徒に拡大します。

 ちなみに、初めて「18歳選挙権」が国政選挙に適用された第24回参議院議員通常選挙(2016年7月10日投開票)では、選挙制度としての措置がなされておらず、たまたま実習中であった7つの水産高校で、82名の生徒が投票できませんでした(法律上、生徒は「船員」ではないためです)。この事実を受け、公職選挙法がその後速やかに改正されています。

 第6は、繰延投票の期日の告示に関する件です。

 専ら実務的な話で、必ずしも投票環境の向上とはいえない項目です。改正法は、天災が発生した場合で投票を行うことができないとき、または更に投票を行う必要があるときに行う繰延投票の期日の告示の期限を延ばします。少なくとも「5日前」までとされているものを、「2日前」までに行えば足りるとされます。

 第7は、投票所に入場することができる子どもの範囲を拡大することです。幼児に加えて、児童、生徒その他の18歳未満の者も入場が可能になります。

 改正内容は以上のとおりです。成立した後に、公布という手続きが執られますが、改正法は公布の日から3カ月を経過した日に施行されます。

年内成立がやっと

 改正法案は衆議院で審議中という状態で、この国会で成立する見通しはありません。あさって20日(金)、衆議院本会議で閉会中審査の手続が取られるでしょう。次に召集される国会(2018年秋の臨時国会)でその成立を期することになります。年内成立がやっと、というところです。

 閉会中審査の手続に、立憲、国民、共産、自由、社民の各会派が賛成するかどうか、もポイントです。反対ということであれば、次期国会でも「自公維希」という改憲賛成勢力による、改憲賛成勢力のための法改正という意味合いが抜けず、対立状態が続くことになります。

 まして、2019年7月には参議院議員通常選挙が予定されているので、年明け以降、憲法改正論議が有意に進むとは到底考えられません(自民党は一生懸命、議論を前に進めているフリをするでしょうが……)。国民投票法改正を実現したからといって、「その次」の議論が約束されているわけではないのです。

●第2回「市民自治《憲法》講座」のご案内です。

第2回「市民自治《憲法》講座」
『憲法って誰がどうやって変えるの?』

日時:2018年8月22日(水)午後5時~7時30分
会場:生活クラブ館地下1F・スペース1(小田急線経堂駅徒歩3分)
参加費:1,000円(学生500円)・定員50名
講師:山花 郁夫 立憲民主党憲法調査会長/衆議院議員
   南部義典 シンクタンク「国民投票広報機構」代表
コメント:坪郷實 早稲田大学名誉教授
進行:金子匡良 法政大学教授
→イベントの詳細、お申込みはこちら

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)