ずいぶん長い間、このコラムを書き続けてきたけれど、楽しい文章は少なかったような気がする。
でも、今回はけっこう嬉しい。なんといっても、沖縄知事選で、ぼくも推していた玉城デニーさんが、大差で佐喜真淳氏を破って当選したのだから、こんな喜ばしいことはない。
ぼくにはこの選挙権はなかったけれど、ほんとうに息をのむ思いでパソコンにかじりついていた。東京のTVは沖縄に興味を示してはいけないと、まるでどこかからの指令でも受けていたのか、ほとんど報じない。だからビールを飲みながら、パソコンで地元からの報道を懸命に見ていたのだ。
「玉城当確」が出たときのビールは、ほんとうに美味かった!!
錯綜した情報
実は、30日(投開票日)のかなり早い段階から、ぼくは“玉城優勢”という情報を現地のジャーナリストから得ていた。だけど、どうにも安心できなかったのだ。
一方で、佐喜真氏の凄まじい追い上げが、期日前投票の激増ぶりに表れているという情報も、本土から沖縄入りしたジャーナリストから得ていたからだ。つまり、期日前投票の激増こそ、佐喜真陣営の業界団体や宗教団体による大動員の結果であり、そのほとんどが佐喜真氏へ投票しただろう、という予測もあったのだ。
確かに、同じような前例はあった。
今年の2月4日の名護市長選、かなり優勢とみられていた前職の稲嶺進候補が、自民公明の推す渡具知武豊候補にまさかの敗戦を喫した。
このときも期日前投票の激増が見られ、なんと総投票数の60%は期日前、投票日当日の投票は40%に過ぎなかった。そして、その期日前投票の出口調査では渡具知氏が稲嶺氏を圧倒、当日投票では稲嶺氏が勝ったものの、最終的な集計では、思わぬ大差で自民公明候補が勝利したのだ。この名護市長選では、とくに公明党による創価学会員大動員の選挙運動が功を奏した、という分析がなされている。
今回の県知事選でも同様のことが起きるかもしれない。なにしろ、5000人もの創価学会員が沖縄に送り込まれ、佐喜真陣営の尖兵となったといわれていた。例の「F(フレンド)票」の掘り起こし戦術というやつだ。
しかし結果は、玉城デニーさんが約8万票もの大差で、自公に維新・希望という右派政党が勢揃いで推した佐喜真氏を、まさに一蹴。現地のジャーナリストたちも想定外だというほどの圧勝だった。
玉城陣営で振られた“三色旗”
変化の兆しはあった。玉城デニーさんの集会には、三色旗(創価学会旗)を公然と振りながら応援に駆けつける創価学会員の姿が毎回見られた。公式には「辺野古の米軍新基地建設反対」を唱えながら、「辺野古のへの字も言わない」というあやふやな約束を信じたふりをして、佐喜真支持に回った公明党への根深い不信が、鮮明な形で現れたのだ。
実際、出口調査によれば、公明党支持者のうち30%ほどが玉城氏へ投票したという結果が出ている。強烈な締め付けと強引な動員で、各種選挙で力を誇示してきた公明党だったが、ここでほころびが出た。
公明党の「平和の党」というスローガンを、沖縄の公明党支持者たちが、かろうじて守ってくれたわけだ。山口那津男公明党代表以下幹部は、公明党の矜持を見せた沖縄の創価学会員たちに、足を向けては眠れまい。それともまだずるずると、安倍自民党とともに不信心の無間地獄へ堕ちていくのか。
デマとフェイクへの拒否反応
今回の選挙でもまた、デマと誹謗中傷が飛び交った。
とくに、ある陣営が流したとされる、いわゆる“フェイク”はひどかった。それを率先して広めたのは、SNSを駆使したネット右翼と呼ばれる一群だったが、これが逆作用を及ぼしたようだ。
物量と人員に勝る佐喜真陣営は、SNSやブログでも圧倒的な影響力を発揮しようとした。だが、それが裏目に出た。
「携帯料金を4割下げる」などという、何の権限もないスローガンを菅官房長官とともに平気で垂れ流す佐喜真氏。これはさすがに若い層から「いい加減なことを言うんじゃねえ」と猛反発を食らった。若い連中は、社会に疎いから、必需品である携帯料金を下げるといえば、ホイホイと飛びつくだろう、などと若者を見くびったのも致命傷になった。
名護市長選で10~30代の若年層が自民公明候補に流れたのは、基地問題よりも現実の生活密着政策が受けたからだ、という電通などの広告代理店の言辞に乗せられて、ついうかうかと「携帯料金値下げ」などというデマというしかない公約をぶち上げたのだから、呆れられたのも当然だろう。選挙戦後半では、佐喜真陣営が打ち出す公約は、ほとんど眉唾としか受け取られなかったという。
名護市長選で見られたような「基地反対よりも生活を」という若者票も、今回の知事選では玉城・佐喜真が拮抗する結果になった。前宜野湾市長選のときに「ディズニ―リゾート誘致」などと、まったく具体性のない公約を掲げていたことも問題視され、佐喜真氏の演説そのものが上滑りし始めたという。
その上、徹底的な「辺野古隠し」。これでは支持は広がらない。
右派色が嫌われた?
さらに、佐喜真氏の足を引っ張ったのは、日本会議という右翼団体との関係であった。彼は「日本会議には入っていたが、ずっと前に抜けている」と釈明していたが、実際に佐喜真氏が日本会議系の集会に参加して、教育勅語を暗唱する幼稚園児たちを称揚するという、あの籠池氏の森友学園と同様の極右ぶりを発揮していたことが、SNSなどで拡散された。
SNSに頼ってデマ戦術を駆使していた陣営が、逆にSNSによって危ない部分を暴露されるという皮肉。
また、注目すべきは、女性票の圧倒的な玉城支持。逆に言えば、佐喜真氏は女性層にまったくと言っていいほど人気がなかった。何が不人気の原因だったのか、佐喜真陣営は胸に手を当てて反省したほうがいい。
これらの結果、苦戦も予想された玉城デニーさんは、なんと沖縄県知事選史上の最高得票(396,632票)で、佐喜真氏(316,458票)を圧倒した。約8万票という大差だった。4年前の翁長圧勝の際の得票を、今回の玉城さんは約3万票も上回ったのである。
安倍政治の終わりへ
自民党幹部は「接戦をものにできなかったのは残念」などと述べているが、接戦なわけがない。誰がどう見ても、自民候補の大惨敗である。これほどの大差で負けるとは、さすがの自民党も公明党も予想していなかったようだ。
沖縄入りした創価学会員の活動はすさまじく、実は翁長雄志さんの樹子夫人のところへまで、佐喜真氏への投票依頼の電話がかかって来たほどだったという。それほどの運動にもかかわらずの大敗。
沖縄県連から出口調査の結果を聞かされた二階幹事長は、絶句して色を失ったといわれている。
ただ、いつも強気の菅官房長官が「県知事選で勝とうが負けようが、辺野古移設は粛々と進める」と話していたというから、かなり早い段階から、菅氏は“負け”を予測していたのかもしれない。
安倍首相が依拠するネット右翼系支持者の大いなる跋扈が、逆に今回の選挙では裏目に出たという事実。これは重大だ。
物量と大量動員とデマ攻撃が功を奏さない選挙もあるということを、まざまざと見せつけられたのだから、安倍氏が焦るのも当然だ。
来年(2019年)4月には、統一地方選があり、さらに7月までには参院選も控えている。
自民党が浮足立ち始めた。
先の総裁選での、安倍総裁の地方票での大苦戦。それに続く今回の沖縄知事選の惨敗。安倍首相では「とても選挙の顔にならない」という地方自民党議員からの悲鳴が聞こえる。
そして、杉田水脈議員の強烈な差別問題も尾を引いている。杉田氏を比例上位に押し込んだ安倍首相自身の責任問題も取りざたされている。むろん、いつものようにウソとゴマカシで頬っ被りして逃げようとするだろうが、果たしてそううまく行くか。
また、トランプ大統領に完全に小僧っ子扱いされて、ついにはTAG(物品貿易協定)という、経産省や外務省の官僚さえ聞いたことのないような協定をむりやり飲まされて帰って来た安倍首相に対し、今度こそそのデタラメを暴こうと野党が手ぐすね引いて待っている。なにしろ、自由貿易協定であるFTAとの違いを誰も説明できないのだから、安倍首相自らが説明できっこない。
ただでさえ、国連演説で「背後」を「せえご」と呼んでしまって、またも物笑いになっている人だ。こんな難しい話を自分の言葉で説明できるとはとても思えない。いったいどうするのだろう?
その上「高額な装備品(武器のこと)をこれからも購入する」と、トランプ大統領に約束して来てしまったのだから、もうわけが分からない。
安倍おろしが始まるだろう。
何かのきっかけさえあれば、それは火を噴く。
そのきっかけのひとつが、今回の沖縄県知事選であった。
沖縄の人たちの勇気と決断を、ぼくは敬意をもって讃えたい。
(画像:沖縄タイムスより許可を得て掲載)