第47回:「終わった」のは沖縄ではなく安倍政権だ(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 沖縄県知事選は、自民公明の政権与党(というより安倍政権)が全力を挙げて支援した佐喜真淳氏が惨敗、玉城デニー氏の圧勝という結果に終わった。佐喜真氏に8万票あまりの差をつけ、なおかつ沖縄県知事選史上の最多得票数だった玉城さんの勝利は、沖縄の民意がどこにあるのかを、はっきりと示したわけだ。

現役衆院議員のデマゴギー

 この選挙でのデマやフェイクは、選挙史上まれに見るひどさだったと言われている。しかも、現役の国会議員までが、このデマの流布に一役買っていたことが明らかになった。公明党沖縄方面本部長なる肩書を持つ遠山清彦衆院議員である。遠山議員は選挙期間中、さまざまなデマをツイッターなどで発信し続けた。一例がこれだ。

 小沢一郎氏が沖縄宜野座村に別荘を所有しているが、建設会社などに圧力をかけてむりやり便宜を図ったのが玉城デニー氏だった

 しかし、こんな事実は一切なかった。
 デマを指摘されると遠山議員は「ツイッターに流れていた情報をリツイートしただけ」と開き直った。ほかにも数々のデマを発信し続けたこんな男が現役議員、しかも“公明正大”を旨とする公明党の議員なのだから、呆れるしかない。玉城氏側は、刑事告訴の準備までしたという。
 公明党の今選挙での動きは、実働部隊であるはずの創価学会員たちの大量の離反を招いた。何度も動画で流れたが、玉城さんの演説会場にひるがえった三色旗(創価学会旗)が学会員離反の象徴だった。公明党幹部の自民党への醜悪なほどの粘着が、三色旗で払いのけられたのだ。
 公明党はこの事実をきちんと把握し、選挙戦の総括をしなければならない。同時に遠山議員の言動の調査も行い、結果を発表すべきである。そうしなければ、公明党の失速は沖縄だけでは終わらず、来春の統一地方選、さらには来年7月予定の参院選でも続くことになるだろう。
 公明党の正念場である。

 なお、今回の選挙で目立ったのは、沖縄タイムスや琉球新報など現地メディアによる徹底的な「ファクトチェック」だった。次々とデマやフェイクを暴いていった。
 だが、いくら事実を突きつけられても、ネット右翼の玉城さんへのデマ攻撃は絶えなかった。今回の沖縄県知事選での玉城デニー陣営の戦いは、実にデマゴギーとの戦いでもあったのだ。
 だが、沖縄の民意はデマには屈しなかった。

沖縄は安倍政権に刺さった棘

 デマゴギーの親玉のような人物が、選挙結果にボーゼンとしたのか「沖縄は終わった」とのツイートを流して炎上した百田某である。
 だが、終わったのはどちらか? 凄まじいほどのデマを飛ばし、玉城さんに悪罵を浴びせ、悪態をつき放題についてきた彼のほうが“終わった”のだ。終わった連中は、本当の意味で終わってほしい。もうこれ以上、沖縄にかかわらないでほしい。
 安倍支持者にとって沖縄は、ほぼ全国に行きわたった安倍一強支配の巨体に刺さった小さな棘なのだろう。もう怖いものなし、我が世の春の安倍万歳派ではあっても、沖縄だけは目の上の瘤。これをなんとかしないと、イライラがおさまらない。
 沖縄は終わってなどいない。玉城新知事が繰り返し言っているように、新しい沖縄が始まろうとしている。安倍体制に刺さった棘は、間もなく大きな痛みになって、安倍体制を揺るがすだろう。その予兆は現れている。

内閣改造の大失敗!

 「キズもの一掃内閣」とか「ワケあり商品内閣」などと揶揄されているのが、改造安倍内閣だ。なんともひどいメンツを集めてしまった。
 もはや安倍首相には、国民のためにきちんとした政策をやり遂げよう、などという考えは毛頭ないらしい。ひたすら、自分の言うことを聞くだけの茶坊主どもを集めて、虚仮(コケ)の一念“改憲”に突っ走る。だが、国民無視のツケはすぐに現れる。いや、すでに現れている。
 毎日新聞が今月6、7日に行った世論調査。通常なら改造すればそのときだけは内閣支持率が上がるものだが、今回はまったく上がらず37%のまま。しかも、内閣に対する期待が高まったか? という問いには、高まった8%、期待できず37%、変わらない47%という結果だ。なんと、期待度はたったの8%なのだ!
 まったく期待されていない内閣であることがよく分かる。改造直後でこの数字であれば、多分、後は下がる一方だろう。
 最初に書いたように、「終わった」のは、百田某が言うように沖縄ではなく、安倍内閣のほうなのだ。
 沖縄県知事選の結果の衝撃は、安倍首相には想像以上にこたえているはずだ。だが、これで「自らの非を省みる」などという殊勝な気持ちは、残念ながら安倍首相は持ち合わせていない。逆に、開き直ったように“改憲一直線”で突っ走りそうだ。だが、浅慮な安倍首相は、それが自分の首を絞めることになることに気づいていない。
 安倍麻生のAAコンビは、他人の言うことを聞く耳を、生まれた時からどこかへ置き忘れてきたような人物だ。聞くのは、自分の耳に気持ちのいいおべんちゃらばかり。だから、おべんちゃらマンばかりを身の周りに置きたがる。さすがに、有権者たちもそれに気づき始めた。これはヤバイ。それが沖縄県知事選であり、自民党総裁選での地方票の反乱だったのだ。
 「安倍政権の終わり」というのは、そういうことだ。

ついに、安倍政権の終わりが見えた!

 公明党の動きもカギになる。
 安倍悲願の“改憲”にまで、もし公明党が引きずられるとしたら、それは党の存続にかかわる重大な政策転換になる。さすがに、権力ベッタリの山口那津男代表ら幹部だって、そのくらいは気づいている。しきりに“安倍改憲”に牽制球を投げているのはそのためだ。
 国会が始まる。
 7日、ほんとうに愚かな加計孝太郎理事長が、まったく「自爆会見」としか言いようのない記者会見を開いた。知らない、記録にない、総理とは会っていない、事務局長の勇み足だ……。無内容もここまでくればリッパと言うしかないが、実際は、一度鎮火しかけていた加計問題に、また油を注いでしまったというお粗末。
 腹心の友(安倍首相は、これをバクシンの友と読んだらしい、相変わらずだ)の安倍氏を側面援護しようとして、目一杯足を引っ張ってしまった、愚劣の極み乙女である。
 国会では、またも「加計問題」が蒸し返されることになろう。

 安倍政権の終わりが見えている。
 見えているだけではなく、それを実現しなければならないと思う。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。