第7回:国民民主党がまとめた国民投票法改正案(南部義典)

9つの特長

 国民民主党の憲法調査会は10月30日、国民投票法の改正案(以下、「国民民主党案」と略します)を独自にまとめました。

 国民民主党案の特長を一言で示せば、「現行法にはない、国民投票の公正さの重視」です。具体的には、①政党CMの禁止、②運動資金の透明化、③運動資金の上限設定、④ネットの適正利用、⑤投票当日運動の禁止、⑥広報財政の強化、⑦投票環境の整備、⑧多様な意見に接する機会の確保、および⑨国政選挙との重複回避、の9項目を内容としています。いずれも現行法の不備を埋めるもので、有益な示唆を与えます。憲法改正の是非を論ずる以前の問題として、ぜひ多くの方に知っていただきたい内容なので、当連載でも早速取り上げることとしました。

 以下、順に解説します。

特長① 政党CMの禁止

 第4回で解説しましたが、憲法改正の発議の後、国会には国民投票広報協議会が組織されます。協議会は、憲法改正案に関する広報放送(選挙時の政見放送・候補者経歴放送に似たもの)、広報広告(新聞広告)を行うことになっていますが、この際政党は、憲法改正案に対する賛成意見、反対意見を無料で放送させたり、掲載することができます。そのための手続きとして、政党は国民投票広報協議会に届出をしなければならないところ、国民民主党案は届出の翌日から投票当日までの間、政党CMを禁止することとしています。

 ここで禁止されるCMは、憲法改正案に対して賛成・反対の投票を呼びかける、いわゆる国民投票運動CMのほか、そのような投票勧誘の表現を含まず、単純に賛成意見、反対意見を表明するだけのCM(意見表明CM)も広く含まれます。協議会による広報放送、広報広告が行われる間は、政党は、それらの広報活動に専念させるわけです。資金力が潤沢である側が、協議会の広報活動とは別に、一方的にCMを流し続けるという不公正を回避するための措置です。

特長② 運動資金の透明化

 国民民主党案は、国民投票運動、憲法改正に関する賛成・反対の意見表明(以下、これらを総称して「国民投票運動等」といいます)を行うための支出が1千万円を超える団体について、国民投票広報協議会への届出と収支報告書の提出を義務付けることとしています。この団体のことを「特定国民投票運動団体」と呼ぶこととし、団体の届出、収支報告書の内容をネット上で公表するとしています。さらに、特定国民投票運動団体が寄付を受けるときは、その旨の公表または寄付者への通知をしなければならないとしています。

 選挙とパラレルに国民投票運動等の収支報告の制度を設ければ、資金の「入」と「出」の部分について、事後的なチェックが可能となります。出処が不明の多額の資金が、特定の国民投票運動等に使われ、国民投票の公正さを歪めるという事態は、この制度の導入によりほとんど避けられることになるでしょう。もっとも、運動をするすべての個人、団体に届出等の義務を課すことは過重な負担になるので、支出が1千万円を超える団体に限って行うこととするわけです。

特長③ 運動資金の上限設定

 特長②に関連し、特定国民投票運動団体が国民投票運動等のために支出することができる金額は、5億円が上限とされます。

 現行法は、運動のための支出金額に何の制限も設けていないことから、国民民主党案はこの点に明確な上限を設けるものです。

特長④ ネットの適正利用

 特定国民投票運動団体は、ウェブサイトを利用して国民投票運動等を行う場合、その画面上に、団体の名称、主たる事務所の所在地、連絡用メールアドレス、その他国民投票広報協議会が定める事項等を表示しなければなりません。ネット選挙運動と同様の措置が求められています。

 また、特定国民投票運動団体以外の者(個人、団体)も、連絡用メールアドレス等を表示しなければならないものとされます。

 さらに、一般のインターネット利用者に対し、虚偽の事実を記載する等表現の自由を濫用して国民投票の公正さを害しないよう、適正な利用に努めなければなりません。これに関連して、国民投票広報協議会は、国民投票運動等に関するインターネット等の適正な利用のための「指針」を作成するものとされます。フェイクニュース対策の一つと解されます。

特長⑤ 投票当日運動の禁止

 国民民主党案は、何人も、投票当日に国民投票運動をすることを禁止するとしています。有権者が冷静な環境で投票することができるよう、選挙と同様の措置を取るものです。

特長⑥ 広報財政の強化

 国民民主党案は、憲法改正案の広報について、これが憲法改正案に関する国民の理解と関心を深めるとともに、正確な情報に基づく多様な意見を踏まえた国民の議論、投票人の賛成・反対の判断の基礎となることを踏まえ、国民が国民投票公報の配布、国民投票広報協議会による広報放送と新聞広告、説明会の開催、ウェブサイトの開設等の多様な手段を通じた憲法改正案に関する広報に接する機会を十分得られることとなるよう、必要な財政上の措置その他の措置が講ぜられなければならない、としています。一つの政治的な指針として、国に命じるものです。

特長⑦ 投票環境の整備

 特長⑥に関係しますが、国民民主党案は、国民投票の管理執行を行う側(総務大臣、中央選挙管理会、都道府県・市区町村の選挙管理委員会)が、国民投票が憲法改正案について広く国民の意思を問うものであることを踏まえ、有権者が投票しやすい環境の整備に努めるとともに、投票の意義と重要性を投票人に周知させなければならない、としています。こちらは、現行の国民投票法に念押しする項目です。

特長⑧ 多様な意見に接する機会の確保

 国民民主党案は、国民投票の実施に当たって、あまねく全国において、かつ、それぞれの地域における様々な場において、憲法改正案に対する賛成意見と反対意見が公正かつ平等に紹介されること等を通じて、国民が憲法改正案に関する多様な意見に接する機会を得られることとなるよう配慮されるものとする、としています。こちらも、現行法に念押しする項目です。

特長⑨ 国政選挙との重複回避

 国政選挙(衆議院議員の総選挙、参議院議員の通常選挙)と国民投票を、同じ日に実施することができるかという問題について、政府は許容されるとの立場を取っています(当然、選挙運動期間と国民投票運動期間が重なります)。また、現行の国民投票法も、国政選挙と国民投票の投票日が相異なっているとしても選挙運動期間と国民投票運動期間が重なる可能性を排除していませんが、国民民主党案は明文を置いて、その重複を回避することとしています。

 まず、国民投票運動期間(憲法改正発議の日から最長で180日の期間)が、衆議院議員の任期満了の日前42日に当たる日から任期満了の日後44日に当たる日までの間(選挙運動期間は12日間)、また、参議院議員の任期満了の日前47日に当たる日から任期満了の日後44日に当たる日までの間(選挙運動期間は17日間)にかかる場合には、憲法改正発議の日から起算して60日以後240日以内の期間と、さらに60日間延期した中で、国会が投票日を議決するものとします。

 また、衆議院の解散によって衆議院議員の総選挙と重複することも回避されます。

 まずは、国民投票の投票日の延期です。国会が憲法改正を発議した日から国民投票の投票日前15日に当たる日までの間に衆議院が解散されたときは、国民投票の投票日は、すでに告示された期日(前記の重複回避が前提です)の後42日(つまり6週間後)に当たる日に延期するものとされます。

 さらに、国民投票の投票日前14日に当たる日から国民投票の投票日までの間に衆議院が解散されたときは、総選挙は、解散の日から34日後40日以内に行うこととされます。

内容上の問題点は?

 以上が、国民民主党案の9つの特長ですが、まったく問題なしというわけでもありません。次の5点を指摘しておきます。

 第一に、特長②のところで、支出が1千万円以上の団体のみを特定国民投票運動団体と名付け、収支報告等を義務付ける内容になっていますが、個人を対象としなくてよいのかが問題となります。資金の影響力を行使するのは団体に限らないからです。この場合、「特定国民投票運動者」という名称になるでしょうか。また、外国人による団体の設立を認めてよいかも問題です。

 第二に、収支の透明性の確保という点からすると、特定国民投票運動団体の間での資金移動を許容してよいかどうか、検討すべきです。とくに、支出上限額5億円という制限を抜けようと、他の特定国民投票運動団体に資金を融通するとか、そうした行為を認めてよいのかどうかが問題です。

 第三は、半ば机の上での議論になってしまいますが、同一の投票日に複数の憲法改正案についての国民投票が実施される場合、特定国民投票運動団体の届出等をどうするかという問題があります。もちろん、憲法改正案ごとに届出させるという手法もありますが、ある団体が「〇月〇日の投票日、憲法改正案に賛成しよう!」とだけ記したチラシを作製した場合、どちらの憲法改正案の運動のチラシなのか客観的に判断がつかず、不透明な会計処理を許してしまうおそれもあります。

 第四に、特定国民投票運動団体に対しては寄付の公表等が義務付けられていますが、金銭の「借入」についても、同様の措置を講じなくてよいのかが問題です。この点、2015年にEU離脱の是非を問う国民投票を実施したイギリスでは、寄付に関する規制はあっても借入に関する規制がない点を選挙委員会が指摘し、次回の国民投票までに法整備を行うよう提言を行っています(2017年3月)。イギリスの教訓も拝借したいところです。

 第五は、特長⑥のところですが、国民投票広報協議会の役割として、「説明会の開催」が加わっている点です。2006年から07年にかけて、国民投票法の法案審議が行われていた頃には、「説明会の開催」も必要と考えられていましたが、当時、教育改革や司法制度改革をテーマにした政府主催のタウンミーティングで、「やらせ質問」が行われたことが発覚し、政治問題化したことがありました。そんな事件もあって、そもそも、場所、時期、参加人員など、公的セクターが主体となって公平に実施することは困難ではないかとの与野党の共通認識が生まれ、「説明会の開催」は最終的に法案から削除された経緯があります。国民民主党案はこの限りで議論の蒸し返しになるので、相当な根拠付けが必要です。

法改正が実現する見通しは?

 国民民主党案は、予算を伴わない法律案です。国会法の規定(56条1項本文)によって、予算を伴わない法律案は衆議院では20名以上、参議院では10名以上、それぞれの議員の賛成を以て、提出をすることができます(提出者1名と考えれば、衆議院議員21名、参議院議員11名で足ります)。国民民主党は現在、衆議院では37名、参議院では23名の議員が所属しているので、極端な話、単独でも提出することはできます。

 しかし、野党提出の法案を成立させるためには、与党第一党である自民党の賛成が不可欠です。衆議院憲法審査会では現在、自民、公明、維新および希望の4党が共同して提出された国民投票法の改正案が審議中ですが(第6回で解説済み)、こちらの4党提出案の審議を促進する目的で、いわば「呼び水」的に利用されることには注意が必要です。

 立憲、共産など主要野党はこの臨時国会の会期中に4党提出案の審議を進めること自体に一貫して反対しています。国民民主党案は法制上、有益な内容が揃っているのは確かですが、「野党分断」を導き、憲法審査会の場を自民党案の説明の場と貶める事態をもたらさないよう、当分の間、慎重な対応を求めたいと思います。法改正を実現させたいのであれば、あくまで全会一致による成立を目指すべきです。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。専門は、国民投票法制、国会法制、立法過程。主な著書に『図解 超早わかり国民投票法入門』(C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー no.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日 ――国民投票とプロパガンダCM』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック ――制度改革と教育の課題』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2018年10月現在)(写真:吉崎貴幸)