第11回:憲法改正以外の一般的国民投票(南部義典)

 今回は、憲法改正以外の案件に関する一般的国民投票の制度についてです。

 憲法第96条は、憲法改正の国民投票について定めています。国会が憲法改正の発議をした場合には、国民投票が必ず実施されます。そして、その国民投票の結果は、国及びその機関(国会、内閣、裁判所、地方自治体など)を法的に拘束します。したがって、憲法改正国民投票は、「必要的・拘束的国民投票」と分類することができます。

 一方で、憲法改正以外の案件に関する一般的国民投票は、憲法にその根拠となる規定がありません。とはいえ、憲法が全面的に禁じているとまではいえません。憲法は、「間接民主制」を国政の原則として採用していることを考慮する必要がありますが(前文、第43条)、通常の政治のプロセスでは国民の意思を集約することができない重要な問題が顕在化した場合など、補完的な意味で一般的国民投票を実施する意義が認められるといえます。憲法自体、一般的国民投票を許容していると解されます。
 
 仮に、一般的国民投票を制度化する場合には、当該国民投票の結果に国及びその機関が法的に拘束されないことが前提条件となります。この意味で、一般的国民投票は、「任意的・諮問的国民投票」と分類することができます。

カテゴリーの整理

 国民投票の対象に関して、憲法改正とそれ以外と分けて、後者に係る国民投票を一般的国民投票と呼ぶことに誤りはありませんが、図のように、一般的国民投票には(広義)と(狭義)があり、国民投票法との関係では「憲法改正問題予備的国民投票」という独自のカテゴリーがあることを知ってください。いずれにせよ、制度化するためには別に法律を定める必要があります。

 狭義の一般的国民投票としては、原子力発電所の再稼働の是非を問うものなどが考えられます。まもなく「令和」を迎えますが、将来再び、天皇の生前退位が行われる場合には、内閣が確定した新たな元号案(複数案から一つ)を選択する国民投票を実施することも不可能ではありません。外国では近年、国旗の選択に関する国民投票(ニュージーランド、2015年12月、2016年3月の2段階)、EU離脱の是非に関する国民投票(イギリス、2016年6月)などの実施例があります。

投票結果をどのように政策に反映させるか?

 憲法改正国民投票とは異なり、一般的国民投票はその投票結果に法的な拘束力がありません。先の沖縄県民投票(2019年2月)がそうであったように、民意と政策の乖離が縮まらないのであれば、法的な拘束力のない国民投票など実施しても仕方ないのではないかという疑問を持たれる方も多いでしょう。

 この点は、一般的国民投票に関して、法的な拘束力を正面から認める立法ができない以上、運用上の工夫を考えるしかありません。案件にもよりますが、国民投票を実施する前に、①投票結果を尊重するか否か、②投票結果を尊重するとした場合、どのような施策を進めるか、といった点について各党に意見表明をさせ、国民投票のマニフェストと位置づけてその約束を遵守させるといった方法です。

 与党の賛成がなければあらゆる立法はできないわけですが、与党、野党を問わず、投票結果を「尊重しない」と宣言した政党はもちろん、事前の約束と違った施策を実行ないし打ち立てている政党も、国民投票の後に行われる最初の国政選挙において、有権者から厳しい審判、非難を受けることになります。厳しい審判、非難を受けたくなければ、投票結果を尊重するしかないのです。

過去に提出された法律案

 過去には、一般的国民投票制度に関する法律案が提出されたことがあります。

 まず、衆議院会派「民主党・無所属クラブ」は2006年、「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」(第166回国会衆法第31号)を提出し、2007年には、同案の修正案を提出しています。参議院会派「民主党・新緑風会」も2007年、衆法の修正案とほぼ同じ内容の法律案を提出しています(第166回国会参法第5号)。「憲法改正国民投票+国政問題国民投票」というダブルの制度設計を行う法律案でした。

 その中では、国政問題国民投票の対象となる案件として、①憲法改正の対象となり得る問題、②統治機構に関する問題、③生命倫理に関する問題、および④その他の国民投票の対象とするにふさわしい問題として別に定める問題、の4項目が例示されていました。国政問題国民投票の制度設計は、憲法改正国民投票に関する手続規定を準用しつつ、その結果は、国及びその機関を拘束しないことが明文で定められていました。

 また、参議院会派「みんなの党」は2011年、「エネルギー政策の見直し及びこれに関する原子力発電の継続についての国民投票に関する法律案」(第177回国会参法第22号)を、2012年には「内閣総理大臣の指名に係る国民投票制度の創設に関する法律案」(第180回国会参法第17号)を提出しました。ただし、第177回国会、第180回国会における同会派の所属議員数は11名であり、一会派で予算を伴う法律案を提出できる員数要件を充たしていなかったため(国会法第56条第1項但書の規定により、提出者とは別に20名以上の賛成を要する)、両法律案は国民投票の実施法と呼べるものではなく、枠組法ないし理念法としての内容にとどまっています。

 残念なことに、これ以後は、狭義の一般的国民投票に関する法律案が提出された例はありません。国会内の議論は、低調なままです。

憲法改正問題予備的国民投票

 国民投票法は2014年に一度、大きな改正が行われています。その附則5項は、「国は、この法律の施行後速やかに、憲法改正を要する問題及び憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票制度に関し、その意義及び必要性について、日本国憲法の採用する間接民主制との整合性の確保その他の観点から更に検討を加え、必要な措置を講ずるものとする。」と定めています。

 先に図示したとおり、①憲法改正を要する問題の国民投票、②憲法改正の対象となり得る問題についての国民投票は、狭義の一般的国民投票と区別されるところの憲法改正問題予備的国民投票と呼ばれます。①②は「憲法改正」が共通のキーワードになっており、制度としては、憲法第96条の周辺に位置しているといわれることもあります。

 ①憲法改正を要する問題についての国民投票とは、例えば、国の立法権の一部を移譲することなどを含む道州制を導入しようとする場合、このような制度を検討することの是非を含め、あらかじめ国民の賛否を問うケースが考えられます。道州制の導入に関して、国会が直に憲法改正の発議を行えば、その通りに国民投票が実施されることになりますが、①はそうではなく、その前段階として、国民の多数が道州制の導入に賛意を有しているかどうか、いわば「世論調査的な国民投票」として実施されるものです。

 ②憲法改正の対象となり得る問題とは、近年では、天皇の生前退位に関する根拠規定の整備の問題が挙げられます。直ちに、現行憲法の改正を要する問題であるとはいえないものの、将来、憲法上の制度として明確にすべき必要性が否定できないものです。この場合も①と同様、天皇の生前退位に賛意を有しているかどうか、世論調査的な国民投票を実施することになります。国は、その結果を尊重しつつ、将来の憲法改正の発議に向けた議論を継続したり、当面の法整備に対応したりすることになります。

 ①②を特徴的にまとめれば、「世論調査」であることです。賛意が多ければ憲法改正の発議につながる可能性が認められ、賛意が少なければ、本番の憲法改正国民投票でも「否決」されるおそれが高いことが予想されるので、常識的に考えれば、国会は憲法改正の発議を控えることになります。いわば、予備的な「世論調査」によって、「ぶっつけ本番を回避する」わけです。

 何より、憲法改正問題国民投票は、狭義の一般的国民投票と区別して論じられるべき制度ですが、こちらは法案提出の実績は一度もありません。

憲法審査会の議論を始めるべき

 2014年、国会で国民投票法の改正案が審議されていたときは、憲法審査会が開かれる4〜5回に1回のペースで、一般的国民投票制度のあり方について議論を深めたいとの議員答弁がなされたことがあります。

 しかし、かれこれ5年になりますが、憲法審査会でテーマになったことは一度もありません。そしてまもなく、国民投票法が制定されて12年を迎えつつありますが、国民投票を実施するのであれば、初回は憲法改正ではなく、憲法改正以外のテーマで、という声をいまだによく耳にします。国民の間にどういうニーズがあるのか、それを調査し、深彫りするために、まずは時間をかけて憲法審査会で議論すべきでしょう。

南部義典
なんぶ よしのり:1971年岐阜県生まれ。衆議院議員政策担当秘書、慶應義塾大学大学院法学研究科講師(非常勤)を歴任。現在、シンクタンク「国民投票広報機構」代表。主な著書に『図解 超早わかり18歳成人と法律』、『図解 超早わかり国民投票法入門』(以上、C&R研究所)、『Q&A解説 憲法改正国民投票法』(現代人文社)、『9条改正論でいま考えておくべきこと(別冊法学セミナー No.255)』(共著、日本評論社)、『広告が憲法を殺す日』(共著、集英社新書)、『18歳成人社会ハンドブック』(共著、明石書店)、『18歳選挙権と市民教育ハンドブック[補訂版]』(共著、開発教育協会)、などがある。(2019年1月現在)