第482回「#MeToo」フラワーデモ、再び。の巻(雨宮処凛)

 「男性の皆さんへお願いです。性暴力やセクハラをネタにしないでください。男同士の会話でネタにされた時、できれば笑わないでください。真顔で『それ面白くない』という反応をしてください。最後に、できたら、でいいので、セクハラや性暴力をネタや冗談で話す男性がいたら、止めてください」

 5月11日、2度目のフラワーデモで、マイクを握った女性はそう言った。4月11日、性暴力への無罪判決が4件続いたことを受け、性暴力と性暴力判決に抗議するフラワーデモが開催されて一ヶ月。そうしてこの日、メイン会場を大阪として、再びフラワーデモが開催されたのだ。同時刻、東京や福岡でも開催された。

 どのような判決に抗議しているかなどは第一回目のときの原稿(第480回)を読んでほしいが、急な告知だったにもかかわらず、東京では200人ほどの人々が東京駅の行幸通りに集まった。手に手に花や「#MeToo」のプラカードを持って。

 この日も飛び入りでいろんな女性たちが話をしてくれた。それぞれが経験してきた被害。差別。女性だからこその生きづらさ。

 実の父親から13歳から20歳まで性被害を受けていた山本潤さんもスピーチした。現在は性暴力被害者支援の活動をする彼女は、「無罪判決を聞いた時は、とても苦しみました」と声を震わせた。そうして4人の女性を思って4本の花を持ってきた、と花束を掲げた。それぞれの花言葉は「希望」「愛」「思いやり」「見守っていく」。

 小学2年生の時、見知らぬ男性に襲われたという女性もマイクを握った。その時は大声で叫んだことで「大事には至らなかった」ものの、心に刻まれた深い傷。以来、学校で、会社で、道端で、居酒屋で、テレビの中、漫画の中で見てきた女性差別。

 「どうして女性がレイプされると、自衛が足りないと世間から責められるのか」

 「どうして女性が訴えると、すぐに『感情的になる』『わがまま』と言われるのか」

 「今まで私たちは、おかしいことにおかしいと声を上げることさえ奪われていました。おかしいことにおかしいと怒ることは、何も悪いことじゃない。声を上げることで世界は変えられる。その可能性を心から信じています」

 力強い言葉に、大きな拍手が辺りに響いた。

 昨年、姪が産まれたという女性は、「この子が制服を着て電車に乗る時に、絶対に私のような経験をしてほしくない。夢を持って仕事を選ぼうとした時に、絶対に私のような経験をしてほしくない」と話した。学生時代に痴漢に遭い、目指していた職業では女性だからこそのハラスメントを受けて進路を変えたという女性。この社会に生きているだけで、「お前の居場所はない」「お前に尊厳はない」と言われ続けてきたような気がするという言葉には、心から共感し、涙ぐみそうになった。

 職場でのセクハラに抗うことができたという報告もあった。接客業で派遣として働くという20代女性の話だ。本社の上司に、過剰な接客を求められた時。

 「それはしたくない、と声をあげることができました」

 女性がそう言うと、集まった人々から拍手が上がった。

 自分一人ではなく、一緒に働く女性、男性も声をあげてくれたのだという。そうして彼女は、自分が黙らずにいられたのは、大学で4年間法律を学んでいたからと話した。そんな自分を「支えた条文」は、日本国憲法14条。彼女はゆっくりとそれを朗読した。

 「すべての国民は法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 華族その他の貴族の制度は、これを認めない。
 栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴わない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する」

 彼女が憲法14条を読み上げると、再び大きな拍手が起きた。憲法14条、「法の下の平等」が、私の中で初めて息を吹き込まれた気がした。そうして彼女は、続けた。

 「みなさん、差別なんてされていいわけないんです。男性と女性で扱いが違う、女性であるだけで男性にサービスしなさいと暗に言ってくる人がまだまだいます。それに『おかしい』って声を上げていいのか迷う人、たくさんいると思います。傷ついている人に、『あなたは間違ってない』って伝えるだけでもできたらと思います」

 小学生の男の子もマイクを握った。

 「どうしたらレイプ事件が減るかについて話したいと思います」。小学3年生くらいだろうか、男の子はそう言うと、たくさんの人がフラワーデモに参加すること、と続けた。では、どうすれば参加する人は増えるのか。それについては「学級新聞に出すことかなと思います」と語った。そうすれば、姉妹や兄弟、両親も知るところになる。そんな可愛らしい、だけど精一杯の提案に、拍手と「学級新聞に載せてー」という声があちこちから上がった。

 微笑ましい思いでその様子を見ていたものの、多くの女性がその男の子と同じ小学生で最初の被害に遭っているのだ。痴漢、学校帰りにあとをつけられる、触られる、襲われるなど。しかも、大の大人の男から。実際その日も、小学2年生で見知らぬ男に襲われたという告白があったことは前述した通りだ。男の子の小さな身体を見ながら、そのことの異様さに、改めて戦慄した。

 ずっと「男性不信だった」という女性もマイクを握った。

 父親が母親に精神的肉体的に暴力をふるい、働かない上ギャンブル好きという「典型的なクズ男」だったという。そんな父親の友人は、6歳だった彼女にいつも「パンツ何色?」と聞き、それを隣で聞いていた父親は爆笑するばかり。中学生で痴漢に遭うと、母と祖母は「男は狼だから仕方ないよね」と言ったという。成長するにつれ、被害も増えていく。被害を訴えるたび、周りの男友達など男性から言われたのは、「お前のこと魅力的だと思ってるからだよ」という言葉。しかし、そんな言葉はなんの慰めにもならないどころか問題の本質をまったく理解していない。

 「私は痴漢されて、ブチ切れて、警察に訴えて逮捕してもらいました。それを(男友達に)言ったら、『お前はやりすぎだ』って言われました」

 は? なんで? 思わず声をあげそうになった。そして、今までの自分の経験を思い出した。痴漢や露出、あとをつけてくるなどの人々の中には、それが「逮捕」に結びつく「犯罪」だなんてまったく想像もしていないだろうっぽい男性も少なくなかった。ちょっとしたイタズラ。そんなふうに思っているようだった。

 そういえばこの日、レイプ、性暴力を「乱暴」や「イタズラ」に言い換えるな、と主張した女性もいた。たぶん、女性と一部の男性で、同じ行為を指す言葉が、その意味が、まったく違うのではないだろうか。この日、改めて思ったことだ。女性の多くが性暴力と思う行為を、一部の男性は、「ちょっとしたイタズラ」に過ぎないと思っている。だからこそ、「なんで逮捕までされるの?」と思っている。「警察に訴えた」と口にする女性に「やりすぎだ」と思う。彼らは本気で本当に、理解できないのではないか。そう思うと、ゾッとした。

 しかし、そんな彼女も信頼できる男性に出会ったことで、男性不信がなくなったという。性差別に憤り、女性に寄り添ってくれる男性がいるということを、その男性が教えてくれたという。

 この日、最後にマイクを握ったのは男性だった。

 Twitterでこのデモを知ってやってきたという男性は、訥々と感想を口にした。

 「ずっと発言を見ていて、自分はモノではなくて人間なんだ、怒りを口にしていいんだ、権利を侵害されたら声をあげていい個人なんだって初めて知った気がします」

 この日は多くのメディアが取材に来ていた。現地では、性犯罪における刑法改正を求める署名も集められていた。すでに多くの人がネットで署名していたようだった。

 次回のフラワーデモは、6月11日、福岡で開催されるそうだ。

 もう、誰も泣き寝入りしなくてもいい社会。被害に遭った自分を責めたり恥じたりしなくてもいい社会。それが今、ほんの少し、近づいてきている気がする。生まれて初めて。
  

5月11日のフワラーデモの様子

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。