第78回:れいわ新選組の人気と立ちはだかる「テレビの壁」(想田和弘)

 7月4日から参議院選挙が始まった。

 山本太郎参議院議員が4月に立ち上げたばかりの政治団体「れいわ新選組」に、5日の時点で2億5244万円もの寄付が、1万7731人から集まったそうだ。異例のことである。

 「3億円集まったら10人候補者を立てる」と公言していた山本太郎議員は、約束通り、次々に強力な候補者を立てていった。

 元東京電力社員で拉致被害者の家族でもある蓮池透氏。

 「女性装」の東大教授・安冨歩氏。

 重度障害者で自立ステーションつばさ事務局長の木村英子氏。

 元セブン‐イレブンのオーナーで本部から契約解除された経験を持つ三井よしふみ氏。

 沖縄創価学会壮年部に所属しながら、公明党を批判する野原ヨシマサ氏。

 環境問題の専門家である辻村ちひろ氏。

 元J.P.モルガン銀行資金部為替ディーラーの大西つねき氏。

 難病ALSの当事者で全身麻痺ギタリストのふなごやすひこ氏。

 元派遣労働者でシングルマザー、ホームレス経験者の渡辺てる子氏。

 山本氏はかねてから「当事者を候補者として立てたい」と述べていたが、まさに一人ひとりが日本を覆っている問題の中心にいる当事者である。

 れいわにこんなことができるのも、市民からの寄付のお陰だ。日本の選挙の供託金は世界一高く、選挙区では1人300万円、比例区では1人600万円かかる。大多数の主権者には払えない金額である。そういう法外な供託金を設定することで、日本の政治は普通の人が新規参入するのを見事に阻んでいる。しかしれいわ新選組は、まずはその壁を見事に乗り越えたのである。普通の人から集まった浄財によって。

 いずれにせよ、僕は候補者のラインナップが発表されるたびに、「その手があったか!」と膝を打つ思いであった。候補者自体が、れいわ新選組の強いメッセージとなっり、どんな政治を目指す集団なのかがよくわかるからだ。有名人を客寄せパンダのように擁立するのとはわけが違う。

 しかも山本氏は当確と言われていた東京選挙区から抜けて、代わりに野原氏を送り込むという奇策に出た。創価学会員である野原氏を公明党党首の山口那津男氏にぶつけ、「福祉」も「平和」も捨ててしまった公明党から票を奪うためだ。喧嘩の売り方がうまい。公明党に不満のある創価学会員がどう反応するのか、大変見ものである。

 そして山本氏自らは比例区から立候補。しかも優先的に当選する特別枠にふなご氏と木村氏を当て、最低3人当選しないと自分は落選という背水の陣を敷いた。新聞の調査では比例区から一人か二人しか当選しないと推定されているなか、正直無謀な策にも思えるが、山本氏は自分の議席と引き換えにしてでも、重度障害を抱える二人をなんとか国会に送りたいのであろう。

 実際、彼らが選ばれたら、それだけで国会は確実に変わる。変わらざるを得ない。なにしろ主権者によって選ばれた議員なのだから、彼らが自由に国会内を動き、質問をしたり、投票をしたりできる環境を作らなければならなくなる。それは国会のバリアフリー化を否応無く推し進めるだろう。そして福祉制度が少しずつ崩されていく中、彼らは全国にいる無数の障害者たちの視点と要求を国会に届ける強力な議員になるであろう。考えるだけで胸が熱くなる。

 また、比例区で得票率2%を獲得すれば、れいわ新選組は政党要件を満たすことになる。そうなれば山本太郎氏は、たとえ議員として落選したとしても党首として討論会等に参加し、引き続き政治をかき回してくれるに違いない。

 僕はれいわ新選組を見ていると、どうしても小林まことのコメディ漫画『1・2の三四郎』を思い出してしまう。実力はあるのに外れ者の東三四郎や西上馬之助、南小路虎吉などが、ラグビーや柔道、プロレスなどのスポーツで、馬鹿力を出してメインストリームの一流どころをギャフンと言わせていく。れいわ新選組の挑戦には、そういうアンダードッグ的な強烈な物語性がある。

 残念でならないのは、本来ならばいかにもテレビが飛びつきそうな物語を持つ彼らが、テレビ討論会に全く呼ばれず、ニュースでも取り上げられないことである。それは「現時点で政党要件を満たしていないから」「特定の政治団体を取り上げると不公平になるから」という杓子定規な理由によるものなのだろうが、それではいくら画期的で新しい政治現象が出てきても、テレビは一切無視するしかなくなる。

 れいわ新選組の街頭やネットでの勢いを「小泉フィーバーに匹敵する」と評する人もいるが、この点が小泉フィーバーとの決定的な違いだ。小泉純一郎が自民党主流派に反旗を翻した際には、その一挙手一投足をテレビが報じた。それは自民党という大政党の中での内紛だったからである。テレビは思う存分その「物語」を報じ、全国的な小泉フィーバーを作り出した。

 一方のれいわ新選組は、テレビ的には存在しないも同然だ。香港で巨大なデモが起きても、中国本土では全く報じられないのと同じだ。きちんと報じられていたら、政権にとって深刻な脅威になっていたであろう。というのも、年々テレビ離れが進んでいるとはいえ、人々が政治や選挙について知るうえで、テレビの影響力はまだまだ大きいからである。

 実際、公益財団法人「明るい選挙推進協会」が2017年に行われた第48回衆議院議員総選挙について全国で意識調査をしたところ、「あなたは政治、選挙に関する情報を主に何から得ていますか」という問いに対して、「テレビ」と答えた人が62.5%とダントツ1位であった。ちなみにラジオは1.4%、新聞は19.2%、インターネットは12.6%、家族や知人からの話は3%である。

 政治に対して最も影響力があるテレビというメディアは、「公平性」を装いながら、実は既成の勢力に味方し、真に新しい勢力の参入を阻んでいる。日本の政治に新しい血が入りにくく、マンネリズムで空気が淀んでいるのは、決して偶然ではないのだ。

 そういう政治に風穴を開け、新鮮な空気を入れるためにも、れいわ新選組にはなんとか複数の議席を確保してほしいと思う。

 僕自身は早々にニューヨーク総領事館で在外投票を済ませた。比例は山本太郎に、選挙区は野党統一候補に一票を入れた。野党もれいわ新選組を「自分たちの票を奪う脅威」とみなすのではなく、むしろ「野党全体を活性化させる起爆剤」として手を結び、うまく活用してほしいと願う。

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。