第101回:初夢は「悪夢」ではなく……(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 このコラム、先週で100回目だった。だから「101回目は新年からでいいんじゃね?」と思っていた。今週は、ぼくも「スタッフが選ぶ『わたしの三大ニュース』」という特集に、ちょっと悲しい原稿も書いたことだし。
 でも、編集部からは「それとは別に『言葉の海へ』の原稿もいただきたいです。よろしくお願いします」と丁寧だけど、厳しいお言葉。まあ、合併号だから、頑張りましょうか。

もし、あの時……を考えると

 安倍首相の得意のフレーズは、少し前までは「戦後レジームからの脱却」だった。けれど、最近はそれをあまり言わなくなった。
 「戦後レジーム」というのは、まさに(安倍得意語)、日本国憲法を基盤とした平和国家の体制のことだ。それを安倍首相は、次々と引っくり返し、壊し、メチャクチャにして来た。もう「戦後レジームの破壊」は完成したとでもお思いらしい。だから、この言葉を使わなくなったのだろう。
 それに代わって最近の安倍語でしきりに使うのが「民主党時代の悪夢」だ。悪夢とは、醒めて汗びっしょりのイヤな夢……ということだろう。ならば、少なくともぼくにとっては「安倍の悪夢」のほうが「民主党の悪夢」よりもずっとイヤな汗びっしょり、である。

 歴史を語る上で“if(もしも)”は許されないけれど、ぼくはどうしても考えてしまう。「もし、あの東日本大震災の際、自民党政権だったらどういうことになっていただろう?」と。
 福島第一原発の連鎖的なメルトダウンと、それに続く放射性物質の大量飛散。その中で安倍首相なら、いったいどんな手を打てたか?
 「桜を見る会」は言うに及ばず、「森友学園」「加計学園」などでの対応、自身に不利な証拠や書類は一切出さず、出さないどころか片っ端から廃棄してしまうという、今の安倍内閣のやり方を見れば、原発事故対応など、菅直人内閣には到底及ばないだろう。だって、都合の悪い資料や証拠を次々に破棄してしまうのだから、対応策の立てようもない。
 事実、原発事故に関しては「アンダーコントロール」という世界に向けて、アッパレなウソをついて、東京五輪を招致したではないか。
 どこがアンダーコントロールか。
 汚染水の「処理」はグダグダ。トリチウムだけではなく、少量だけれどストロンチウムやセシウムなどが処理しきれず残留したままだといわれている。だから、「処理水」ではなく、「処理しきれない汚染水」というのが妥当だ。しかも、それらを溜めておくタンクの容量はすでに限界に達し、これ以上の設置場所もない。もはや「薄めて海洋投棄」するしかないと、原子力規制委員会も言い出したし、安倍政権はそれを容認する方向だ。
 科学的見地からの安全性は確認されていない。海洋投棄を始めれば、世界各国から訴えられる可能性だってある。
 一部の人たちは、韓国の原発などを例に挙げて「なぜ韓国の原発の汚染水は問題にしないのか。日本の原発ばかりを批判する“反日”だ」と言い募る。これも言いがかりだ。
 むろん、どこの国の原発だって、ヤバイものはヤバイ。日本の反原発団体が、韓国の反原発団体などと連帯して抗議を行っている、という事実があることは書いておく。

今も、ぼくは「悪夢」を見る……

 少なくとも、当時の菅直人首相は自らが決断して浜岡原発(静岡県・中部電力)を停めた。浜岡が近未来に想定される南海トラフ大地震の震源域内だといわれているからだ。当然、経産官僚や原子力ムラからの猛批判を受けた。しかし、その判断は正しかったと、ぼくは思っている。
 そんなことを、安倍首相は考えたこともないだろう。むしろ当時、野党にあった安倍晋三氏は、ひたすら菅直人首相の原発に対する言動を、揶揄や悪意を交えて批判するだけだった。
 もしあの時、自民党政権で安倍氏が首相であったなら、原発事故による混乱は悲劇的な様相を呈していたのではないかと思う。「原発が爆発した」と聞かされて「アッチャー!」と悲鳴を上げて頭を抱えたという班目春樹原子力安全委員会委員長(当時)と同じようなものだったろう。菅元首相はすぐに怒鳴るといわれていたが、原子力ムラのトップに頭を抱えられては、怒鳴りたくもなっただろう。
 歴史に“もしも”はない、とは分かっているが、あの時の不安な日々を、いまだに夢に見るぼくにとって、それこそが「安倍の悪夢」である。だが、果たして「夢」か?
 実際には、モニタリングポスト撤去や子どもたちの甲状腺がん調査も縮小され、逆に避難区域への住民の帰還政策が強引に推し進められている。それらは「夢」ではなく現実だ。
 福島原発事故被害を、なんとか小さくし、見えなくしようという安倍政権による「悪夢の現実化」にほかならない。

「工期10年」という嘘八百!

 民主党政権当時、掲げた「コンクリートから人へ」というスローガンは、極めて優れたものだったと、ぼくは思っている。安倍自公政権が進める政策は、人を大切にしているか? まあ、大切にしているのだろうな、「安倍お友だち」だけは。
 膨大な金を投じて米製兵器(けっして「防衛装備品」なんかではない)の爆買いをする。
 イージス・アショア2基、F35を147機も購入するという。F35は1機約110億円、しかも整備費等でさらに価格は上昇する。イージス・アショアだって、最初は1基800億円とされていた価格が、あれよあれよと米側の言うがままに高騰、すでに2基で6千億円ともいわれている。まさに爆買い。
 一方で、消費税は10%になってしまった。消費税はまさに低所得者いじめの税制で、金持ちにも貧乏人にも同じ税率がかかる。本来なら税制は累進課税であるべきで、高額所得者には高率に、低所得者は低率にするのが当然だが、安倍政権は裕福な者には優しく、貧乏人には冷たいのだ。

 人よりもコンクリートを優先する政策の典型が「沖縄・辺野古米軍新基地建設」である。沖縄県民は「辺野古反対」の意志を、選挙のたびに何度も示し続けている。安倍政権にとって沖縄は「日本民主主義の範疇」には入っていないらしい。今日も辺野古の海へ土砂を投げ入れる。
 しかし、投入予定の土砂量は、工事開始から1年経った現在、やっと全体の1%に過ぎないという。それは政府も認めている。1年で1%なら、100%には100年かかるということになる。小学生だって分かる計算だ。安倍政権は、これまで「工期は5年」と言ってきたものを、急に「工期は10年」だと訂正した。だけど、これも嘘八百。
 10年で基地工事が終わるというリクツ、だれか分かる人は説明してくれい!

 もうじき年が明ける。
 安倍首相は、結局“桜吹雪”にまぎれて逃げきるのか。逃げきれば、「安倍の悪夢」は続くだろう。悪事を見逃してはいけない。悪人を取り逃してはいけない。
 「悪人ばらめ、そこへ直れっ! この桜吹雪が目に入らねえかっ!」という「遠山の金さん」の大見得を検察に期待するのは無理だろうから、せめてマスメディア一体となった安倍疑惑追及を期待したい。
 遅くとも、2020年内に解散総選挙はあるだろう。国中あげて東京オリンピックで大騒ぎを演じているうちに、すべての悪事がうやむやにされ、またしても自民大勝なんてことになったら、それこそ「悪夢」がこの国を覆い尽くしてしまうに違いない。
 それだけは勘弁してほしい。

 「初夢」は「悪夢」ではなく、静かで明るい「夢」がほしい…。

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。