第519回:いのちとくらしを守るなんでも相談会〜全国から上がる悲鳴〜の巻(雨宮処凛)

 受話器を置いた瞬間、呼び出し音が鳴り響く。会場にいる間中、ずーっとその繰り返しだった。

 それはコロナ経済危機を受けて開催された「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも相談会〜住まい・生活保護・労働・借金etc.〜」の電話対応の場でのこと。

 今、新型コロナ感染拡大によって収入が減少し、生活資金が尽きる事態が全国で起きている。それだけではない。コロナによる営業不振を理由に雇い止めされた、家賃が払えない、さまざまな支払いができない、使える制度を教えてほしいなど、多くの悲鳴が上がっている。そんな人たちの不安に応えるため、4月18日、19日の午前10時から午後10時まで、大阪や東京など全国にいる相談員が電話を受けたのだ。2日間で、全国から5000件以上の相談が寄せられた。これは相談員が電話をとれた数だけで、2日間でフリーダイヤルには42万件のアクセスがあったという。電話をとった瞬間、「やっと、つながった!」と言われることもあった。

 このホットラインで2日間、短時間だが相談員をした(感染防止のため、相談員は短時間の入れ替わり制が推進されていた)。相談員をつとめたのは、全国の弁護士、司法書士、労働組合、諸団体。全国25都道府県に会場が設置され、125回線で対応した。このホットラインに参加した相談員はのべ468人。もちろん全員がボランティアだ。

 電話に出て、さまざまな声を聞いた。どれもすぐに対応が必要なほどに深刻なものだった。また、相談してくる人があまりにも多岐にわたっていることに驚いた。

 フリーランス、居酒屋店主、派遣などの非正規、アルバイト、正社員、生活保護を受ける人、無職などなど。自分が電話を受けたケースについて、自分の知識では対応できないときは、事務所に待機している弁護士さんや司法書士さんに代わってもらった。

 全体の集計を見ると、相談してきた中でもっとも多かったのは「無職」の874件(以下の数字は、4月20日時点での集計をもとにした。今後、集計が進むと増える可能性がある)。ついで「自営業」459件、「業務請負・個人事業主」325件、「パート・アルバイト」220件、「正社員」163件、「派遣社員」110件、「他」134件となっている。

 相談の中で一番多かったのは、「生活費問題」で2091件、ついで「労働問題」で505件、そこから住宅問題、健康問題、債務問題と続く。

 相談してきた人たちの月収を見ると、もっとも多いのは10万円以下で484件、ついで20万円以下。10万円以下であれば、一刻も早く生活保護を利用した方がいいだろう。私が電話を受けた中にも、すでに残金が2万円、あるいはほとんど0円という人もいた。

 そんなホットラインに参加して改めて驚いたのは、窮地に立たされている自営業やフリーランスの多さだ。

 特に痛感したのは、多くのフリーランスがなんの補償もないままに放り出されているということだ。例えば何件か対応したり他の相談員から聞いたりしたのは、ジムのインストラクターなどのフリーランスの人たちが、コロナ不況を受けてあっという間に仕事を失い、会社から「持続化給付金」というものがあるのでそれを使ったらというアドバイスを受けた、それについて教えてほしいと電話してきたケースだった。

 持続化給付金とは、経産省が新型コロナウイルス感染拡大を受けて作った制度で、コロナによって売り上げが前年同月比で50%以上減っている中小企業やフリーランスを含む個人事業主などに支給されるお金だ。法人には200万円、個人事業主には100万円支給される(昨年の売り上げからの減少分が上限)。

 つまり、フリーランスを使っていた会社側は、本人に「こういうのがあるから自分で手続きして」とアドバイスするだけで放り出しているのだ。

 本人も、フリーランスだから仕方ない、会社が親切に教えてくれたけれどどうやって使ったらいいのかわからないから電話している、と語るのだった。

 話を聞きながら、フリーランスという立場の弱さにため息が出そうになった。同時に、リーマンショックや派遣村の教訓が全然生かされていない、と悲しくなった。

 リーマンショックで大量の人が派遣切りされ、寮を追い出されて住む場所も失い一気にホームレス化してしまったことについて、私たち反貧困運動をする側は、ずーっと「働く人を保護する方向での法改正」を求めて、さまざまな取り組みをしてきた。しかし、あれから12年。それは遅々として進まず、非正規で働く人は2008年の1737万人から19年には2165万人へと、428万人も増えた。それだけではない。「働き方改革」の名の下に、副業・兼業が推進されてきただけでなく、フリーランスで働く人も増えたし、政府もそれを推進する方向で来た。内閣府の19年の推計によると、フリーランスで働く人は300万人以上。この12年間は、いわば、「ひとつの企業が責任を持たなくていい人」が増やされてきた年月でもあったのだ。

 が、フリーランスが推進されてきたわりには、そのような形態で働く人たちの「保証」に関する制度はまったく作られてこなかった。それが今回のコロナ不況で、最悪の形で露呈してしまったのである。

 コロナがいつ収束するかわからない中、100万円程度の持続化給付金は「ないよりマシ」程度で、多くのフリーランスにとってはおそらく「焼け石に水」だ。日々のランニングコストもかかる中で、持続化給付金がいつ、手元に来るのかもわからない。現在、役所の様々な融資の手続きに人が殺到しているが、役所の3割が感染予防のために在宅ワークを推進されている中、面談の予約が「5月、6月にならないととれない」なんて話もザラに聞く。その間に生活費が尽きる人も多く出るだろう。

 フリーランスも自営業者も非正規も、そして多くの正規も、このままでは生活が破綻するのは時間の問題だと思う。貯蓄額によって多少の差はあれど、今現在、すでに貯金を切り崩して生活をしているという人は、生活保護制度を視野に入れておいた方がいい。ざっくり言うと、今、残金が6万円以下で収入のあてがない、他の資産もない状態であれば受けられる。年金をもらっていても、ホームレス状態でも受けられる。働いていても収入が少なければ受けられる。車があるとダメ、持ち家があるとダメと思っている人も多いが、一律ダメというわけでは決してない。

 コロナが落ち着き、また仕事ができるようになって収入が生活保護費を上回ったら生活保護利用をやめればいいだけの話だ。今まで頑張って働いて税金を納めてきたのだ。こんな時の「安心」のために税金を払っているのだ。

 ちなみに役所に行ったものの、生活保護申請ができなかったなどのことがあったら、「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」【048-866-5040】まで連絡するといいだろう。また、生活保護だけでなく仕事を切られた、休業補償は? などの相談には、日弁連が5月19日まで無料相談をしている。【0570-073-567】まで電話してほしい。

 さて、そんなふうに相談員として電話を受けた私も、2月から講演やイベントの中止で収入が半減しているフリーランスの一人である。そして収入半減がいつまで続くのかは闇の中。当初思っていたよりかなり長い間、収入半減で暮らすことになりそうだ。

 しかし、私にはあまり不安はない。それは14年間、反貧困運動に関わってきたおかげで、「貧困」に対するノウハウがやたらとあるからだ。使える制度のことは一通り頭に入っているし、それでもわからなかったら周りの人に聞けばいい。私の周りには、生活保護をはじめとして、労働、債務、各種社会保障制度やそれにまつわる法律などなど各分野で日本一くらいの知識のプロが揃っているのである。これほど心強いことはない。

 そんな安心感を、ぜひみんなにもお分けしたい。ということで、この連載でも生活保護制度などについていろいろ書いてきたが、これからも書いていきたいと思っている。また、生活保護問対策全国会議のサイトでは、「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るQ&A」も公開されているのでぜひチェックしてみてほしい。

 この機会に、何がどうなっても生きていけるノウハウを、一人でも多くの人に習得してほしい。あなたが制度や支援団体に詳しくなれば、自分のみならず、周りの人を助けられる。そしてその知識を生かして、ゆくゆくはホットラインのボランティアなんかに参加してくれると、もっともっと多くの人を助けられる。

 あとになって「コロナも悪いことばかりじゃなかった」と言い合えるような、そんな機会にできたらと、今、心から思っている。

 とにかく、生存ノウハウを習得して、生き延びていこう。お金のことだったら、絶対になんとかなる。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。