第127回:パスポートなしで出入国できる人々(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

沖縄米軍基地で感染者集団が発生!

 沖縄の米軍基地で、新型コロナウイルス感染症のクラスターが出現している。沖縄県は7月11日、普天間飛行場(宜野湾市)とキャンプ・ハンセン(金武町など)の海兵隊の基地内で、すでに61人の感染者が出ていると発表した。基地の中でクラスター(感染者集団)が発生したと見られている。
 情報によると、6〜8月は米軍の異動時期で、それに伴うパーティなどが多く、さらに7月4日の「アメリカ独立記念日」の前後に基地の中や基地外の公園などでは、独立記念日を祝って大がかりな「バーベキュー・パーティ」が開かれており、そこから感染が広がったのではないかとみられている。この時期は、自粛要請がやや緩和されていたこともあって、若い海兵隊員たちが羽目を外して大いに盛り上がったらしい。 
 米兵の感染者数はその後も増え続け、14日には100人を超えたという。
 問題なのは、これを米軍はなかなか沖縄県に伝えず、伝えたとしても“非公表を前提”としていることだ。
 朝日新聞(7月12日付)は、こう伝えている。

(略)11日昼過ぎに米軍から県に概要が伝えられ、夜になって玉城デニー知事と在沖米軍トップのクラーディー四軍調整官が電話会談した。県によると玉城氏は、「米軍の対策に強い疑念を抱かざるを得ず、極めて遺憾」と伝え、感染者の公表などを申し入れた。米側は、(非公表を前提に県に伝えている)感染者数を県が公表することを妨げないなどと回答したという。
 県内では今月、海兵隊内での感染が相次ぎ確認された。県は基地内外で日常的に接触がある県民にも感染が拡大しかねないと警戒を強めている。だが、米軍は、運用に影響を与えかねず詳細を非公表にするとの米国防総省の方針に沿い、感染者数を県に伝えながらも非公表とするよう要求。県は「公表すれば情報が得られなくなる」として応じていた。感染者の属性や行動履歴など、住民の感染対策に必要な情報も十分得られていないという。

 つまり、米軍は感染者数だけは県に伝えるが、それは非公表にしろ。感染者がどんな地位にある者かどこで感染したか、さらには沖縄県民との接触はなかったか……などという詳しい情報はこれからも明かさない、というのだ。
 これでは、県内の感染者増加を防ぎようがない。
 感染米兵は、多分、感染後も基地の外で遊んでいただろうし、その行動履歴を追跡できなければ県としてはお手上げだ。こんな米軍の姿勢に対抗するには、沖縄県内のすべての米軍基地をロックダウンして、ひとりの米兵も基地の外へ出さない、というくらいの強い対抗策が県には必要だろう。とても採れる策とは思えないけれど。

納得できない在日米軍の姿勢

 その上、腹立たしいことは、在韓米軍当局は、兵士のコロナ感染状況を積極的に公表しているという事実だ。
 前述のように、日本では詳しい情報はなんら米軍からは発表されない。これは、日本と韓国の政府の姿勢によるものだろう。韓国政府はきちんと米軍に文句を言うけれど、日本政府は米軍の言いなり。それじゃ、詳しい情報を公開することもあるまい、と米軍は高を括っているのかもしれない。
 この米兵のクラスターは、沖縄だけではなく、他の日本各地の米軍基地でも発生している可能性がある。

 もうひとつ、ぼくには納得できないことがある。米軍はコロナ対策として、基地の外の民間ホテル(北谷町)を借り上げて、人事異動に伴って沖縄へ来た米兵らの2週間の隔離施設として使用していた。これは大批判を受けたためか、今週(18日まで)で終わるが、以後も異動で国外や県外に向かう米兵の滞在施設として使用するという。
 これが一般の人たちだったら、その理由も分かる。だが、沖縄を訪れた人なら誰にでも(いや、日本本土の横田基地や三沢基地、岩国基地などをご存知の方なら誰にでも)分かるだろうが、広大な面積を誇っているのが在日米軍基地だ。ことに沖縄では、一等地といっていい広大な場所を米軍基地が占めている。異動者の隔離施設に不自由するはずがない。足りなければ、自国のカネで増設すればいいではないか!
 考えるほどに腹が立つ。

世界最悪の感染国から検疫なしで日本に入国できる集団

 それにしても、どうしてこんなひどいことになったのか。むろんそれは「日米地位協定」という沖縄(に限らず、日本全国の米軍基地の自治体)に絡む、これ以上はないという最悪な不平等協定によるものだ。
 その中でも、ぼくには大きな疑問がある。もしこの疑問に明解に答えられる方がいたら、ぜひお教え願いたいのだが、米兵の日本入国に関する疑問である。
 外務省のホームページに、「日米地位協定Q&A」というのが載っている。その中に、こんな一節がある。

問7:米軍人やその家族は、パスポートを持たずに自由に日本に出入りできる特権を与えられているのですか。

(答)米軍からの命令があれば米軍人が円滑に日本への出入国を行えるようにしておくことは、米軍が日本と極東の平和と安全を維持するための活動を行うためにも必要なことですが、この点につき日米地位協定は、米軍人が日本に出入国する際には、米軍の身分証明書と旅行命令書を携帯しなければならず、要請があるときは日本の当局に提示しなければならないと規定しています。一方、軍属及び家族が日本に入国するためには、パスポートが必要です。

 これをどう読み解けばいいのだろうか?
 米兵は、「米軍の身分証明書と旅行命令書」を持っていれば、日本での入国手続きをする必要はないということか。パスポートなんか持たなくても、米軍人であれば審査なしで日本へ入国できるということか。
 「要請があるときは日本の当局に提示しなければならない」とはあるが、日本当局(ってどこだ?)が、米軍に対しそんな要請をしたことがあるなんて、ぼくはまったく聞いたこともない。
 身も蓋もない言い方をすれば、米軍人は審査なしで日本へ入国でき、日本国内を好き勝手に移動することができるわけだ。それを堂々と、日本政府がホームページで認めているのだから何をかいわんや、である。
 そんなバカな、と思うだろうが、実はそれは、以下の条文に依っているのだ。

日米地位協定第九条
 1.この条の規定に従うことを条件として、合衆国は、合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族である者を日本国に入れることができる。
 2.合衆国軍隊の構成員は、旅券及び査証に関する日本国の法令の適用から除外される。合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される。(以下略)

 普通に読めば、「米国軍人は、日本へは何の制約も受けずに勝手に出入りすることができる」ということだろう。
 事実、穀田恵二議員(日本共産党)の調査によれば、コロナ感染が世界的な問題になった後でも、米軍チャーター機が頻繁に在日米軍基地にやってきているという。
 穀田氏が示した米航空機動軍団(AMC)などの資料によれば、3月13日~5月12日の2カ月間に、米本土やハワイ、グアムなどから、日本の三沢(青森)、岩国(山口)、嘉手納(沖縄)などの各基地に、計86回の米軍チャーター機が飛来したというのだ。その飛来によって、いったい何人の米兵が日本へ入ってきたのか、その数は公表されていない。これでは日本の「水際作戦」など、まったくの“尻抜け”だろう。
 米軍基地内に日本の税関はないのだから、米軍機(やチャーター機)で日本国内に降り立った米兵たちは、そのまま日本に滞在することになる。基地から外へ遊びに出るのは、若い米兵たちにとっては日常茶飯である。つまり、正規の手続きを踏まずに入国した外国人たちが、日本国内を大手を振って歩き回っている、そう解釈していいのだろうか?
 この辺の法律や状況に詳しい方、ぼくの理解はそれでいいのでしょうか、どうかご教授ください。
 今やアメリカは、世界最悪の新型コロナウイルスの蔓延国である。日本は一応、アメリカを入国拒否国に指定してはいるけれど、実はそんな国から検疫もなしで、どんどん人が入ってきているということ。
 感染予防など絵に描いた餅だろう。

やはり「日米地位協定」の改定が急務だ

 沖縄タイムスも社説で次のように述べている。少し古いが(4月5日付)引用しよう。

(略)外国人が入国する時には、自国政府が発行する旅券を所持し、査証を受けた上で、上陸時に検疫を受けなければならない。しかし米軍基地から入国する際には検疫について地位協定に定めはない。
 日本政府は、世界最多の感染国となった米国を新たに入国拒否対象に指定。水際対策を強化している。
 米軍が検疫し、日本側は関与できない。検疫がなされたのかさえ知ることができない。入国も出国も米軍の意のままで日本の防疫体制の「抜け穴」になっているのだ。
 嘉手納基地は、感染者は地元住民と接触はなかったとしている。ならば行動履歴を示すべきだ。履歴なしで同意するわけにはいかない。
 日米両政府は2013年1月の合同委員会で感染症が基地内で発生した場合、米軍の医療機関が日本の保健所へ通報することで合意。今回の感染者は米海軍病院が保健所を所管する県保健医療部に通報しているが、一報はフェイスブックだった。日米合意に沿っているか検証が必要だ。
 県が民間地居住者か否かを問い合わせても回答はない。最小限の情報を一方的に流し質問に答えないでは情報共有とはいえない。日本各地の米軍基地でも感染者が出ている。政府は合意を厳格化し、やはり地位協定の改定が必要だ。

 日米地位協定という、まったくいびつな取り決めによって、アメリカという今や世界最悪のウイルス感染国からの、パスポートも持たない人間たちの入国を許してしまっている国、それが日本という国である。
 新型コロナウイルスの蔓延という出来事が、特定外国人集団の日本への無検疫での出入国可能という「抜け穴」をあからさまにしてしまった。

 あなたは、パスポートなしで日本への入国が許されている外国人の存在を、知っていましたか?

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。