第534回:「役所用語」のバリアフリー化を! 各種制度の説明文、日本語おかしくないですか? の巻(雨宮処凛)

 あと少しで、東京に緊急事態宣言が出された4月7日からちょうど半年となる。

 「新型コロナ災害緊急アクション」には、今も連日のように緊急度の高いSOSが寄せられている。

 それもそのはずで、コロナ解雇は6万人。また、7月の労働力調査によると、非正規で働く人は前年同月と比較して131万人の減少。

 一方、この夏は「給付金が尽きた」という声をあちこちで耳にした。持続化給付金や特別定額給付金でひと息つけたものの、それが尽きた人たちからの悲鳴が絶えないのだ。

 また、今になって「なんとか貯金を切り崩しつつやってきたけれど、それも尽きた」という声も届いている。そもそも、コロナで仕事を失うなどしても全員がすぐ困窮に陥るわけではない。貯金が数百万円あれば当面の心配はないが、数万円の人はすぐに路頭に迷う。このように人によって「時差」があるので、今後、「貯金が尽きた」という声は増えることはあっても減ることはないだろう。

 そうしてこのまま行けば、年明けには、住居確保給付金(収入が減って家賃が払えない人に家賃が支給される制度。上限あり)の支給が切れる人が続出する。その数、3000世帯以上。この制度の支給は最長9ヶ月で、4月から受給を始めた人は1月に期限を迎えてしまうからだ。このままでは、年明け早々に大量ホームレス化が起きてもおかしくない状況だ。

 そんな事態を受け、9月25日、つくろい東京ファンドや住まいの貧困に取り組むネットワークが、厚労省に「住居確保給付金」の延長などを求めて申し入れを行った。

 厚労省にはぜひ対応してほしいと思っているが、同時に求めたいのは、住居確保給付金をはじめとした各種制度の「使い勝手の悪さ」をなんとかしてほしいということだ。

 例えばこの半年間で、多くの人がさまざまな公的制度を使ったり調べたりしたと思う。企業が申請する雇用調整助成金、個人で申請できる休業支援金、また社会福祉協議会の貸付金や中小企業やフリーランスのための持続化給付金などなど。

 が、それらの制度を使ってみて、あるいは使おうとして、「この制度は使いやすかった!」「わかりやすかった!」「申請が簡単だった!」と即答できる人はどれくらいいるだろうか。

 住居確保給付金はリーマンショックを受けて作られたものだが、あまりの使い勝手の悪さに、これまで使う人が滅多にいない制度だった。というより、「支給要件」を満たすことが奇跡に近かった。コロナ以前は「65歳未満」「離職・廃業から2年以内」「ハローワークに登録して求職活動をすること」をすべて満たしていなければならない上に、他にも細かい条件がいくつもあった。「65歳未満」などの要件はコロナで撤廃されたのだが、例えば厚労省のサイトには、「対象要件」として以下のような記述がある。

 「主たる生計維持者が離職・廃業後2年以内である場合 もしくは個人の責任・都合によらず給与等を得る機会が、離職・廃業と同程度まで減少している場合」

 「直近の世帯収入合計額が、市町村民税の均等割が非課税となる額の1/12(以下、「基準額」という)と、家賃(但し、上限あり)の合計額を超えていないこと」

 この記述を見て、「あ、自分は対象だな/対象外だな」とピンとくる人などいるだろうか?

 住所確保給付金に限らず、このような「役所用語」満載の記述は、コロナ禍で途方に暮れる人々を苦しめている。こういう言葉、私はもう法律で禁止するくらいにしてほしいと常々思っている。なぜなら、難解な説明によって、あえて制度利用から人を遠ざけているようにしか思えないからだ。この記述自体が、思い切り「バリア」として機能してしまっている。各種制度を使おうとしても、この難解な記述を目にした途端、かなりの割合の人が諦めているという確信が私にはある。

 このような「役所用語」は生活保護の領域でも使われていて、例えば自治体によっては「生活保護のしおり」が難解すぎるという問題もある。そんな状況に対して、反貧困運動はこの10年ほど声をあげてきた。生活保護を受ける中には、お年寄りもいれば、教育課程から排除され続けてきたために読み書きできない人もいる。障害がある人も多い。そんな人たちのための「しおり」のはずなのに、ほとんどの人が理解できないような専門用語に満ちているという無神経。

 この「しおり」問題、各自治体に問題点を伝えるなどして改善されてきた歴史がある。だからこそ、その教訓をコロナでも生かしてほしいのだ。でないと、「やっぱり制度を使わせたくないから難解にしてるの?」と思われてしまう。これを機に「すごく探せばいい制度はあるけれど、できるだけ使わせないようにする」という役所の慣習を根底から取り払ってほしいのだ。

 説明だけでなく、制度自体もわかりやすく、手続きも簡単にしてほしい。

 というか、私は、そもそもコロナのために作られたのではない「住居確保給付金」が、制度の微調整を繰り返して半年以上使われていることにも違和感がある。

 なぜ、半年以上経つのに、誰もが使いやすい「住まいを失わない制度」が新たに創設されないのだろう。これでは「制度の迷子になれ」と言っているようなものではないか。

 民間企業であれば、「利用者目線」は基本中の基本だ。が、役所にはその視点がない。だからこそ起きている「役所用語」バリア。この「翻訳」こそが、喫緊の課題だと私は思う。だって、困り果ててやっとのことで「こういう制度がある」とわかって、その制度の名前で検索して、真っ先に出てくる説明が「主たる生計維持者」とか、嫌がらせかよ? って感じではないか。少なくとも私だったらこの時点で心が折れる。

 コロナ禍で様々な立場の人が困っている今、役所言葉の「バリアフリー化」を、切に求めたい。

 これって地味なようで、ものすごーく重要な問題だと私は思う。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。