第87回:廃業の危機にある映画館 補償なき自粛要請は感染拡大リスクを増大させる(想田和弘)

 全国の単館系映画館(ミニシアター)が廃業の危機に瀕している。

 理由は他でもない。新型コロナウイルス禍が深刻化するなか、観客の数が激減しているからである。自粛要請を受けて一時休館した劇場も多い。安倍首相による緊急事態宣言を受けて、指定地域となる1都6府県の映画館は休館を余儀なくされるだろう。

 観客が来なくても、休館しても、映画館は高い家賃を払い、従業員に給料を払い続けなければならない。ミニシアターはただでさえ経営が苦しいので、これで本当に息の根をとめられてしまうかもしれない。

 5月2日から新作『精神0』の全国順次公開を控えている僕は、ある意味でこの危機の当事者である。なぜなら『精神0』を含め僕の作品を公開してくれるのは全国のミニシアターであり、彼らの存在なしに拙作は成立しえないからだ。

 東京の渋谷と吉祥寺でミニシアター「アップリンク」を経営する浅井隆さんは4月4日、ツイッターで次のような悲鳴をあげた。ツイートは4月5日の時点で9000以上もリツイートされ、大きな反響を呼んでいる。

 このツイートからわかるように、休業補償なしに「自粛」だけを求めてしまうと、映画館が潰れるだけでなく、感染拡大に寄与しかねないという弊害がある。

 もちろん、厳しい換気基準をクリアした映画館で映画を鑑賞する行為は、消毒やマスクの着用、人数制限などを徹底すれば、比較的感染リスクは低いと言われている。浅井さんが言うような「ガラガラの貸切状態」では、リスクは更に低いと言えるだろう。しかし同時に、映画館と自宅との移動の際の感染リスクや、万が一のことを考えると、積極的には「映画館に来てね!」とは言いにくいところがあるのも事実だ。

 これが普通の経営危機であれば、「映画館にもっと人を呼び込む工夫と努力をしろ」と言えるのかもしれないが、今回の場合は、経営努力をして人を呼び込むこと自体がためらわれるという、前代未聞のジレンマがあるのだ。

 こうした状況下では、映画館が安心して休館できるよう、家賃や人件費の全部または大部分を政府が肩代わりするという政策が、どうしても必要であろう。

 これはもちろん、映画館に限ったことではない。レストランやバー、接客業、観光業、教育産業、美術館など、人が集まったり移動したりすることを伴うあらゆる業種に言えることだ。休業補償がなければ、生きるために営業せざるをえない。営業すれば、それだけ感染拡大リスクは高まる。休業補償は、営業自粛に実効性を持たせるために、どうしても必要不可欠なのである。

 ところが信じがたいことに、日本政府はそのことを全く理解していないように見える。

 厚生労働省は、一斉休校の影響で休職した保護者に対する休業補償制度から、ナイトクラブや風俗業の関係者を支給対象外とした。報道によれば、厚労省は「公金を投じるのにふさわしくない業種との判断だ」と説明している。

 これが許しがたい職業差別であると同時に、感染拡大を助長する愚策であることは、明々白々であろう。

 いくらコロナウイルスが蔓延しようと、なんら補償がないなら、経済的に苦しい人はリスクを冒して働き続けざるをえない。生きるために。家賃を払うために。子どもを食べさせるために。そのことを誰が非難できようか。政府は世論の批判を受けて方針を見直すようではあるが、あまりにもレベルが低すぎて卒倒しそうになる。

 自民党衆議院議員で国土交通省大臣政務官の佐々木紀氏は4日、「新型コロナで外出自粛でも『買い物・旅行』、60代が最も活発」というニュースのリンクに対して、次のようなツイートをした。

国は自粛要請しています。感染拡大を国のせいにしないでくださいね

 言うまでもないことだが、口で自粛を要請するだけなら、別に政治家でなくても誰でもできる。僕だってできる。

 しかしその要請に対して実効性を持たせたいのであれば、先述したように補償を用意することが絶対に必要であろう。そして、それを行えるのは、政府・行政だけなのである。

 激しい反発を受け炎上した佐々木氏は慌ててツイートを削除し、次のようなツイートに差し替えた。

 はい。しっかり取り組むだけでなく、明日にでも実現させてください。与党に所属する国会議員で、国土交通省大臣政務官を務めるあなたには、私たち民間人にはない権限や権力があるのですから。でなければクビだ!

 ……といっても佐々木氏は辞めないだろうし、たぶん自粛とセットの補償も実現もしない。与党がミニシアターを守る政策を打ち出すことも、残念ながら現時点では想像できない。

 であるならば、私たちは無能な政府を選んでしまったことを呪いつつ(僕は選んでないけど!)、座して死を待つだけなのか。

 いやいや、このまま共倒れするのは嫌なので、『精神0』の製作・配給・劇場チームはいま、「映画人みんなで生き残る」ためのちょっと斬新な策を模索中である。近々発表しますので、みなさん、応援をよろしくお願いいたします。 

※その後、「斬新な策」の告知が始まりました! こちらをごらんください。

想田さんや多くの映画関係者の呼びかけにより、ミニシアターへの緊急支援を求める署名キャンペーンも立ち上がっています。ぜひご協力を!

#SaveTheCinema 「ミニシアターを救え!」プロジェクト

想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ): 映画作家。ニューヨーク在住。東京大学文学部卒。テレビ用ドキュメンタリー番組を手がけた後、台本やナレーションを使わないドキュメンタリーの手法「観察映画シリーズ」を作り始める。『選挙』(観察映画第1弾、07年)で米ピーボディ賞を受賞。『精神』(同第2弾、08年)では釜山国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞を、『Peace』(同番外編、11年)では香港国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞などを受賞。『演劇1』『演劇2』(同第3弾、第4弾、12年)はナント三大陸映画祭で「若い審査員賞」を受賞した。2013年夏、『選挙2』(同第5弾)を日本全国で劇場公開。最新作『牡蠣工場』(同第6弾)はロカルノ国際映画祭に正式招待された。主な著書に『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)、『演劇 vs.映画』(岩波書店)、『日本人は民主主義を捨てたがっているのか?』(岩波ブックレット)、『熱狂なきファシズム』(河出書房)、『カメラを持て、町へ出よう ──「観察映画」論』(集英社インターナショナル)などがある。