第656回:「殺すな! ガザ地区停戦緊急行動」に1600人。の巻(雨宮処凛)

 10分に一人、子どもの命が奪われている一一。

 そう聞いた時、目の前が暗くなった。

 過去の話ではない。今この瞬間の、パレスチナ自治区ガザ地区での話だ。

 この原稿を書いている時点で、ガザ地区の死者は9488人。うち3900人が子どもだという。難民キャンプや救急車までもが攻撃され、日々、死者・負傷者、そして行方不明者が増え続けるのを世界は止められないでいる。

 正直言って、ニュースを見るのもSNSを開くのも怖い。あまりにも悲惨な映像に胸が押しつぶされそうになるからだ。

 そんな状況に声を上げようと、11月4日、「殺すな! ガザ地区停戦緊急行動」が開催された。呼びかけ人は鎌田慧氏、落合恵子氏、上野千鶴子氏、神田香織氏、佐高信氏、田中優子氏、永田浩三氏、そして私。少し前、鎌田さんよりお声がけ頂き、前のめりにふたつ返事でOKした。

 当日午後2時、イスラエル大使館がある麹町駅に着くと、すでにものすごい数の人、人、人。歩道を埋め尽くすほどの人の列が何百メートルにもわたって続いている。

 集まった人々が掲げるのは、「パレスチナ虐殺を許すな」「人を殺すな 土地を奪うな」「日本政府は静観をやめろ」「今すぐ停戦」「STOP GENOCIDE」「STOP KILLING」「ガザ攻撃を許さない」などのプラカード。

参加者が掲げるメッセージ

プラカード

 呼びかけ人からは鎌田慧さん、佐高信さん、神田香織さん、そして私がスピーチしたが、印象に残っているのは、今年8月までパレスチナに滞在していたという新土さん(27歳)の言葉だ。

 「今この瞬間も、死にそうになっている友達からメッセージが届いている」という新土さんは、パレスチナで見たことを話してくれた。分離壁の近くで、イスラエルの軍人ではなく、市民がパレスチナ人の子どもに発砲する光景。爆撃が子どもたちの命を奪う瞬間。そんな状況で、「NO HOPE! NO HOPE!」と叫ぶ青年。

 新土さんは、パレスチナの少女がくれたというひまわりの種を掲げながら、言った。

 「パレスチナの中で私から何かを奪った人は一人もいませんでした。みんなが何かを、大切な小さなものを手渡してくれました。だけど今、日本、そしてあらゆる西洋諸国は、ガザやパレスチナの人たちから、本当に最後に残された希望も奪っています。私たちは、どちらの側に立つんでしょうか」

 「遠い場所にいる大変な人」ではなく、新土さんにとって「家族と同じくらい大切な」人を思い浮かべながらのスピーチに、思わず涙ぐむ人もいた。

スピーチする新土さん

 その次にマイクを握った「武器取引反対ネットワーク」の杉原こうじさんは、岸田首相が国会で、山添拓議員の質問に答え、難民キャンプへの爆撃すら国際人道法違反だと認めなかったことに触れた。

 「日本はこうした戦争犯罪を裁く国際刑事裁判所にもっとも多くの金を出している国なんです。そういう国でありながら、これほどの大虐殺、ジェノサイドに対して国際法違反だということも言えない。そんな政府を私たちは抱えている」

 しかも11月3日、上川外務大臣はイスラエルを訪問して外相と会談したものの、この虐殺を正面から批判することもなかったのだからなんのために行ったのか。2日には、官邸前で「上川大臣はイスラエルに攻撃中止を迫れ!」と題された「ダイ・イン」も行われている。

 そうして杉原さんの口から、安倍政権以降進められてきた、日本とイスラエルの経済的・軍事的な協力についてが語られる。

 例えば今年3月、幕張メッセでは武器見本市が開催されたのだが、前回は3社しかなかったイスラエルの軍事企業は今回、なんと14社にまで増えていたという。その動きと提携する日本企業の名前も語られた。

 そんなスピーチの合間を縫って、呼びかけ人たちでイスラエル大使館に要請書を渡しに行くこととなった。が、大使館前には警察がずらりと並び、メディアの同行が「一人」しか認められないという異様な状況。しかも、要請書を敷地に置いていくことしか許されないというので、神田香織さんがその場で読み上げ。要請書では、即刻の停戦を強く求めたのだった。

 この日、イスラエル大使館前に集まったのは1600人。

 これを読む人の中には、パレスチナから遠く離れた日本で声を上げてなんになるの? と思う人もいるかもしれない。が、イラク戦争直前、現地で戦争反対を訴えるためにイラクに行った際、イラクの人々に言われた言葉を私は今も覚えている。

 「日本でも反戦デモをやっているとニュースで見た、ありがとう」と。

 もう20年前のことだ。9・11テロが起きてアフガン空爆が始まり、次はイラクかというあの時期、日本でも多くの反戦デモが開催され、私も参加していた。それを、イラクに住む人々が見ていたということ。あの時初めて、私は「デモには意味がある」と根拠を持って思ったのだ。これからは、「なんの意味があるの?」と言われても、胸を張ってこのことを伝えようと。

 今、世界中でガザ地区への虐殺に抗議の声が上がっている。それを現地にいる人たちに届けるくらいしかできることがないのは歯がゆいけれど、今は20年前よりはネットやSNSが発達している。私たちは、この虐殺を決して許していないことを今、あらゆる手段で発信し続けるしかないのだと思う。

呼びかけ人の鎌田慧さん、神田香織さん、佐高信さん、私。イスラエル大使館に要請書を私に行くものの渡せず。要請書を読み終えたあと

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。