第155回:暗黒ニュースショー(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 先週は、いろいろな用事が重なって、このコラムを休載してしまいました。ごくごく少数の読者のみなさん、どうもすみませんでした。こんなコラムでも、ときどき「今回は面白かったよ」とか「もっとガンバレ!」などと反応をいただくことがあります。それを励みに、もう少し書き続けます。

「いいニュース」が思い浮かばない

 ぼくは「マガジン9」のほかに、「デモクラシータイムス」という市民ネットTV局にも協力している。そこでは、毎週土曜日に「ウィークエンドニュース」という討論番組をオンエアしているが、ぼくは同番組で、毎月第4土曜日の司会進行役を務めている。 
 この番組は、直近に報じられた主なニュースを取り上げて、3人の出演者たちが討論するというスタイル。討論のテーマとして、進行役が「最近の主な出来事」をピックアップする。2月27日の番組で、ぼくが取り上げたのは、以下のような項目だった。一画面に収める必要上、ピックアップしたのはこれだけだが、ほんとうはもっとたくさん重要なニュースがあったが、あまりに多すぎて書ききれなかった……。

最近の主な出来事

◎大坂なおみさん、全豪オープン優勝
◎東京五輪組織委会長に橋本聖子氏、自民党離党
後任の五輪担当相に丸川珠代氏
◎総務省官僚「首相長男は利害関係者」と認める
◎山田真貴子内閣広報官、7万円超の接待発覚
◎入管法改正案を閣議決定
◎ミャンマー反軍政デモ、数百万人規模へ、4人死亡
◎愛知県知事リコール署名不正、県警が署名簿を押収
◎ワクチン高齢者接種、大幅に遅れる可能性
◎福島第一原発、2月13日の大地震で格納容器の水位低下
◎米軍機、沖縄で超低空飛行が問題化
米軍ヘリ、東京都心でも超低空飛行常態化
◎米最高裁、トランプ氏に納税証明書開示命令
◎大阪地裁森鍵一(もりかぎはじめ)裁判長、生活保護基準引き下げは違法と判断
◎総務省幹部11人処分、農水省幹部も接待で処分へ
◎首相記者会見、突然取り止め、山田隠しか
◎関西と中部圏、福岡県の緊急事態宣言解除へ

以上、2月26日までのニュースから

 とまあ、こんな感じである。まさに「暗黒ニュースショー」だ。
 他にも取り上げなければならないニュースが山ほど報じられているけれど、どれをとっても楽しくなるようなものじゃない。

原発、ミャンマー、司法判断…

 例えば福島第一原発1、3号機では、先日の大地震で格納容器の水位が低下、デブリ(溶け落ちて固まった核燃料)の冷却水が漏れ続けている。しかも3号機では、地震計が故障したまま放置されていたことも判明。したがって2月13日の地震の震度は記録できなかったというずさんさだった。これが、安倍晋三氏が強調した“アンダーコントロール”の現在の実態なのだ。原発災害は終わってなどいない。

 ミャンマーでは市民による必死の反軍政デモが続いているが、軍部の焦りが暴虐を極め始めた。すでに20人以上の市民が国軍によって殺されたという。むろん国際世論は国軍クーデターに批判的だが、隣国中国は自国の圧政批判に火が付くのを恐れて中途半端な態度に終始している。
 その中で、ミャンマー国連大使のチョー・モー・トゥン氏は2月26日、まさに命を懸けて「ミャンマー国民の願いを踏みにじった国軍のクーデターには断固反対する」と総会の場で訴え、大きな称賛を浴びた。むろん、国軍はすぐさまチョー氏を罷免。多分、チョー氏は亡命せざるを得なくなるだろう。自身の信ずるところに従って、不正なものには反対する。まさに官僚の鑑だ。忖度という文字しか知らない日本の官僚たちは、彼の爪の垢でも煎じて飲むがいい。

 嬉しいニュースは「大坂なおみ全豪オープン2度目の優勝」くらいか。
 それと、少しほっとしたのは「大阪地裁が生活保護基準引き下げは違法と判断」である。司法がまともな判断を下したと言える。
 この森鍵裁判長は、昨年12月4日「大飯原発(福井県)3、4号機について「新規制基準に適合するとした原子力規制員会の判断は誤り」として、設置許可を取り消すという画期的な判断を下した裁判官だった。
 なかなかの気骨ある人だとは思うけれど、実は那覇地裁当時、沖縄・辺野古をめぐる裁判では「裁判の対象にならない」として、沖縄県の訴えを門前払いした人でもあったのだ。なぜ沖縄裁判だけは、訴えの内容に踏み込まなかったのだろう?

「男女共同参画担当」の名ばかり大臣

 一覧表では取り上げなかったけれど、「丸川珠代氏の『夫婦別姓反対』要請」というのも、ぼくは重大ニュースだと思っている。
 丸川氏は橋本聖子氏の後任として、五輪担当相に起用されたのだが、同時に男女共同参画担当大臣も兼任することになった。その丸川氏が、実は“トンデモ要請文”に名を連ねていたことが判明したのだ。
 自民党議員有志が「選択的夫婦別姓制度」に反対する文書を地方県議会議長あてに送りつけていたのだ。地方議会への国会議員たちの露骨な介入に他ならない。その文書に丸川珠代男女共同参画担当大臣も名を連ねていた。呆れて開きっぱなしのぼくの口を、誰か閉ざしてくれないか。
 男女の平等を推進すべき大臣が選択的夫婦別姓反対の急先鋒となっている。しかも、それが判明して批判が巻き起こると、妙な釈明をする。「これは一議員としての考えではあるが、役所には無用な忖度をしてほしくない」だと。つまり、私の考えには従わなくていいよ、と部下の役人たちに告げたわけだ。ん、ん、ん?
 さらに疑問なのは、丸川さんの戸籍名が「大塚珠代」であるということだ。どうしてそうなのか、じっくり丸川(大塚)珠代大臣に訊いてみたいものだ。

さまようコロナ対策

 コロナ対策はどうなるのか、皆目見当もつかない。なにしろ、やたらと船頭が多くて船は山の中をさまよっているありさまだ。全体のコロナ担当は西村康稔経済再生相、医療関係は田村憲久厚労相、そこへワクチン担当に河野太郎行革相、さらに大学病院関係には萩生田光一文科相、むろん加藤勝信官房長官も口を出す。
 極めつけは菅義偉首相で、最近は専門家分科会の意見にはほとんど耳を傾けない。何でも自分で判断する、と言えばカッコいいけれど、もう妄想と思い込みで疾走中。緊急事態宣言を首都圏以外の6府県は2月28日に1週間前倒しで解除する、という挙に出た。
 なぜそんなに急ぐのか。分科会では異論続出だったというのに、たった1週間の前倒しを急ぐ理由とは何か、ほとんど理解不能。まあ、政権ヨイショ政党に成り下がった大阪維新に気を使ったとしか思えないけれど。
 グフフと笑みを漏らすのは小池百合子都知事のみ。
 いやはや、政界魑魅魍魎。

自民党、風前の灯

 それにしても、菅さん、頭が痛いだろう。長男はもはや頭痛のタネでしかないが、山田真貴子内閣広報官の突然の辞任が追い打ち! これだって、菅首相自身は「辞めさせない」と言っていたのに山田氏が逃亡を図った。政権のガバナンスがもう機能していない「証」ではないか。それにしても「結末はやはり“入院”か」と田舎芝居にはガッカリする。
 菅首相の一つ覚えのセリフ「コロナに打ち勝った『証』としての五輪開催」がどんどん遠のいていくばかり。
 菅首相、記者会見は逃げまくったものの、3月1日、さすがに「ぶら下がり会見」には応じざるを得なかった。そこでのやりとりで逆ギレ、記者を睨みつけ「もう同じような質問ばかりじゃないですか、これで終わりです」と、質問を途中でさえぎって逃げるように立ち去った。痛いところを突かれると、怒る、キレる、逃げる。とてもじゃないが、首相の器とは思えない。
 自民党内からも「もう終わりだな、菅さんも」の声が出ている。しかも、菅担ぎ出しの二階俊博幹事長も妙な発言を連発して、側近がその後始末に追われるばかり。政府と党のトップがふたりとも末期症状を呈しているのだ。
 それに輪をかけているのが、自民党が独自に行った「選挙調査」だ。これは2月末に行われたというが、結果は衆院選で自民党は45~50議席減という厳しいものだったらしい。安倍チルドレンといわれる「魔の3回生」たちは、軒並み大苦戦の様相。「菅首相とのツーショットのポスター」を希望する候補者は皆無だとも聞く。
 菅政権、どう考えても長くはない。
 五輪の命運が菅政権の命運を決めることになるのだろうが、どう見ても「東京五輪開催」は風前の灯。五輪の灯と共に、菅政権の灯も消えようとしている。

 だが、菅政権の灯などどうでもいい。
 それよりも、機能不全に陥った自民党政権の灯を消すことが先決だろう。
 この国の人々の暮らしと命を守るために「暗黒ニュースショー」の幕を下ろそう。

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。