第104回:コロナ早期治療のための体制を作れ。作らぬなら総選挙の争点にせよ。(想田和弘)

 コロナ禍が始まった頃、新型コロナウイルスは人類にとって未知のウイルスであり、医療機関に入院できても治療は手探りだった。
 しかしあれから約1年8ヶ月の間に、治療法がかなり確立してきた。

 たとえば抗体カクテル療法を発症から7日以内に行えば、重症化を防ぐ効果がある(投与が早ければ早いほど効くらしい)。東京都の調査では9割以上の患者で症状が改善する効果が確認されたという。
 
 墨田区では抗体カクテル療法用の病床確保を含めた「墨田区モデル」で成果をあげ、第5波でも死者や重症者をゼロに抑えたという。

 つまりコロナは早期に治療する体制さえ整っていれば、重症化したり死んだりせずにすむ病気になりつつあるのである。

 問題は、これまでの日本のコロナ対策では、軽症者は医療を受けられずに自宅に放置されてしまい、したがって重症化を防げないということだ。

 実際、僕の身近な人が8月半ばに発症した際、発熱外来でPCR検査を受けて陽性判定されても、何日間も医師の診察も処方も受けられずに自宅で放置された。

 その人はその後、酸素飽和度が90台前半まで落ち込み中等症になったが、それでもなかなか入院できなかった。保健所からは「入院施設がいっぱいで、人工呼吸器につなぐ必要があるくらい重症でないと入院できないんです」と言われた。

 だが、重症化してから入院しても遅すぎる。そもそも入院施設がそこまでいっぱいになってしまうのは、重症化を防ぐための早期治療が行われておらず、重症化するのを待っているからであろう。

 いずれにせよ、重症化を防ぐための治療法があるなら、それを誰もが受けられるような仕組みと体制を今すぐ作るべきである。

 ちなみにこれまで抗体カクテル療法は入院しなくては受けられなかったが、外来や往診でも実施できるよう、厚労省が方針転換したという。 

 遅まきながら、早期治療の重要さに気づいたのだろう。

 しかし厚労省が方針を変えても、外来や往診でコロナ患者を診て、抗体カクテル療法を施してくれる医師や看護師がいなければ、絵に描いた餅になる。

 僕は先述した身近な人のため、往診してくれる医師を電話で探し回ったが、次々に断られた。医師や看護師もコロナ感染を怖がっているのである。

 だが、捨てる神あれば、拾う神あり。

 電話作戦の末、ようやく往診してくれる医師にめぐりあえた。そして即日酸素濃縮器と薬を処方され、遅まきながら治療が始まった。医師による保健所へのプッシュが効いたのか、往診を受けた翌朝、その人は入院することができた。

 しかし、その時点で抗体カクテル療法が有効な「発症から7日間」は過ぎていて、極めて無念なことに、重症化を防ぐことはできなかった。その後奇跡的に生還したが、現在かなり重い肺炎の後遺症を抱えて、酸素吸入器とともに生活している。

 せめて行政がコロナ患者を外来や往診で診てくれる医師や看護師のリストをまとめ、陽性判明と同時につなげてくれて、早期治療が受けられるようなシステムがあってくれたなら、その人は重症化せずにすんだのではないか。

 そんな気がしてならず、悔しくてたまらない。

 だから僕は声を大にして言いたい。

 コロナ早期治療のための体制作りを全国の自治体で早急に構築せよ、と。

 この秋には総選挙がある。

 政治が動かぬなら、総選挙の大きな争点にすべきだと思う。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。