第105回:なぜ私たちが「盾」にならなければいけないのか? ~奄美大島自衛隊配備リポート~(三上智恵)

「なぜ私たちがアメリカの“シールド“、盾にならないといけないのか、憤りを感じますし、日本政府もそれを知りながら着々とそこに向かっていることに強い危機感を覚えます」

 奄美大島に住む60代の男性は、悔しそうに訴えた。奄美大島では6月26日から、沖縄嘉手納基地のアメリカ軍パトリオット部隊も奄美に入り、自衛隊と軍事訓練するとあって、その前日、日米合同訓練に反対する集会が開かれていた。

 6月18日から7月11日まで、陸上自衛隊はアメリカ陸軍と共に実動訓練「オリエント・シールド」を実施。訓練の舞台は奄美だけではなく、伊丹駐屯地、矢臼別演習場など国内7カ所。「東洋の盾」というタイトルで1985年から毎年実施してきたものだが、35回目の今年の参加人数は自衛隊1400人、米軍1600人の合わせて3000人規模で過去最大。日米軍事連携強化を内外にアピールした。東洋の盾、とはアメリカにとっての盾であることは言うまでもない。私たち日本列島が中国の太平洋への進出を睨んだ『西側諸国』にとっての『最前線の盾』に位置づけられているのだ。

 奄美市街地の交差点では集まったのは30人余り。決して多いとは言えないが、普段穏やかな奄美の島民性を考えると、その危機感は十分に伝わって来る。

 「おととし春から自衛隊が来て、皆さん、奄美の生活は豊かになりましたか? 自衛隊はいいが米軍はダメと言ったって、自衛隊のいるところに必ず米軍は来て訓練をやるんです!」
 マイクを握る男性は声を荒らげた。参加した女性は言う。

 「平和な島だったのに、空気が変わってきた。新しい自衛隊の基地を見に行ってみる? と子どもに聞くと、怖いから行かない、という。のびのびと暮らしていたのに……」

 日米合同軍事訓練が奄美で定例化するのは許せないと、50代の男性は怒りを込める。

 「奄美市長は、自衛隊は受け入れるが米軍は入れないとはっきり言った。ならこの訓練に反対を表明すべきだ。明らかに中国をにらんで、自衛隊もアメリカ軍もこの島に来てミサイルを構える。ここは攻撃対象になってしまう。何もなければ標的になる心配もなかったのに」

 翌26日、普段は静かな名瀬港にアメリカ軍の大型輸送船が着岸。中からミサイルの発射台を搭載した大型軍事車両が次々と姿を現した。迷彩服姿のアメリカ軍人が闊歩する港には、カメラを構えた歓迎ムードの島民の姿も若干見受けられたが、明らかな抗議行動はなかった。おととし開設された自衛隊の二つの駐屯地に対しても、奄美の人々の抵抗は少なかった。同じミサイル部隊の配備に強く反対してきた宮古島・石垣島とはかなり様相は異なる。

 普段、奄美で自衛隊問題が話題になることはあまりないそうだ。あわせて宮古島駐屯地の面積の約5倍に当たる規模の奄美駐屯地(50.5ha)・瀬戸内駐屯地(48ha)ができてしまったというのに、奄美に住む私の友人は基地が新設された事も知らなかった。反対が少ない、と言うよりも関心が薄いまま、ここまで来ていると言った方が正確かもしれない。それは、両駐屯地が山の上にあり日常生活で視界に入らないことや、街から離れているということも大きい。鹿児島ローカルの新聞やテレビの中で自衛隊報道が少ないのも大きな要因だろう。

 私は沖縄にいるので、日米の軍事連携がどう変遷してきたのかを肌で感じているから、南西諸島の自衛隊による要塞化が大変なことだとわかる。けれど、奄美までなかなか取材の手が回らなかった。しかし奄美が直面している危機の正体は、他府県にいるとかなり見えにくいだろう。だから遅きに失した感は否めないが、少しでも現状を伝えようと奄美に飛んだ。まずは、市の中心部から北に15分ほどの大熊地区に向かう。もともとゴルフ場で、山道のガードレールの上に登らないと見えないような場所に奄美駐屯地はあった。

 見ると、横に250mはあろうかという建設途中の屋内型射撃場が目を引く。横にはピラミッド型の弾薬庫、その隣には地対空ミサイル搭載車両がズラリと並ぶ。手前にはミサイルの「掩体」(えんたい:装備や物資、人を敵の攻撃から守る施設)がある。沖縄戦で軍用機を格納した掩体壕は天井があるが、こちらはない。ミサイルを撃ちながら、攻撃を受けた時の爆発の影響を局限するためのものだと、同行した軍事ジャーナリストの小西誠さんの説明を受け、ぞっとした。やはり当然ながら、ミサイル発射地点が敵からの標的になることは確実なのだ。

 「南西諸島に配備される自衛隊のミサイル部隊の役割は、第一列島線と呼ばれる島々を結ぶラインから中国海軍を出さないため。アメリカの海峡封鎖作戦の一環です。だが、奄美の場合は兵站拠点としての役割の方が大きいのではないか」

 この問題の取材を続けているジャーナリストの小西誠さんは、軍事衝突が想定されている宮古島と石垣島方面に軍事物資や弾薬・燃料などを補給する最前線の集積拠点として、奄美が重要な役割を果たすとみている。米軍のFCLP(陸上離着陸訓練)のために防衛省が確保したとされる大隅諸島の馬毛島も、同様に先島の軍事衝突に備えた自衛隊の兵站拠点として活用されるという。

 「瀬戸内駐屯地には、トンネル型の奥行250ⅿもある弾薬庫が5本も掘削されている。近くにヘリパッドがあるので、ミサイルや弾薬をここからどんどんヘリで空輸するんですね」

 今回の取材は石垣島で自衛隊基地建設に反対してきた「おばあたちの会」の山里節子さんも同行していた。節子さんが表情をこわばらせて聞いた。

 「ミサイルの行先は南西諸島の中の沖縄……?」
 「行先は宮古島や石垣島です」

 小西さんは即答した。軍事衝突が想定されているのは先島(宮古群島・八重山諸島)。兵站拠点は主に奄美と馬毛島。米軍に守られた形の沖縄本島には、本部機能を持ったミサイル部隊が勝連半島に配置されると発表されたばかりだ。つまり、陸自のミサイル部隊は奄美・沖縄本島・宮古島・石垣島の4カ所に配備されるが、沖縄本島の基地を叩けば直接米軍に喧嘩を売ることになるので、仮に中国が第一撃を加えるとしたら、米軍のいない島だろう。

 それで先島が戦場になると懸念されているわけだが、奄美は中継拠点だから安心かというとそうはいかない。「事前集積」という軍事用語がある。島嶼部での戦闘は事前にどれだけ武器弾薬・燃料・食糧と兵員を「集積」しておけるかに掛かっている。空も海も敵に制圧された後は「事前集積」の量で勝負は決まる。だから沖縄戦では軍事物資の集積場所は真っ先に狙われ、事前集積船も悉く沈められた。兵站拠点を叩いておけば自国の兵士を上陸させ死なせずに済むのだから、真っ先に標的になるのは戦争のセオリーだ。奄美は尖閣や台湾から遠いと言っても、先に攻撃対象になってしまう可能性すらあるのだ。

 しかし、そんな危機感は地域の住民は全く共有されていない。奄美駐屯地がある大熊町の町内会長は、奄美の人は自衛隊にいい感情しかもっていないですと断言した。

 「隊員は、海に向かう道の雑木伐採とか地域行事も手伝ってくれるんですよ。一番は災害の時ですね、2010年の豪雨の時もずいぶん助かったんです。災害に対処してくれるというのが住民にとっては一番大きいです」

 奄美では、地元の団体が自衛隊誘致を国に働きかけ、要請を受けて防衛副大臣が来島し、自衛隊配備が進んだという話になっている。宮古島や石垣島でも、自衛隊に協力的な団体が先に作られ、防衛省はそれに応えたという形を取っていたので、その話は鵜呑みにはできないが、大熊地区も誘致したんですか? という問いに関して町内会長は強く否定した。

 「町は誘致に一切絡んでいない。それは市や県のほうで。お金が入ることも、直接町にはないです。まあ、いろんなものを作ってくれるということは今後、あるかもしれませんが……。ただ、米軍が入ってくるとなると、賛成できないですね。沖縄の苦しみは聞いてますから」

 有事には宮古・石垣に運び込むミサイルを格納する、巨大なトンネル型弾薬庫があるという瀬戸内駐屯地に向かう。こちらは奄美市中心部から南に50分ほどだが、風光明媚な奄美の山々を走り抜けながら、トンネルが多いことに気づく。この地形も、車載型ミサイルを撃ってすぐにトンネル退避することができるため有利だという。今年、世界自然遺産に登録されたばかりの、生物多様性に富んだ山々。そこに隠れながら戦争をするという想定に、頭がついていけない。

 その自然遺産エリアのすぐ隣に瀬戸内駐屯地はあった。今回の動画には、標高の高いところを削って斜面に広大な駐屯地が建設されていく様子をドローンの映像で入れているが、実際にゲートの前に立っても、敷地の周りを走っても、目視では規模も何もわからない。最大の軍事機密であろう弾薬庫のトンネルも、当然見えない。

 瀬戸内駐屯地のゲートには、ライフル銃の引き金に指をかけて縦に構えている隊員がいてぎょっとした。しかし奄美駐屯地では撮影も止められたのに対し、こちらでは比較的丁寧に応対してもらえたので、いくつかカメラを回しながら質問させて頂いた。

Q.「宮古島、石垣島と違う奄美大島の自衛隊の役割はなんですか?」
「それは防衛省の方に聞いていただいた方が正確にお答えできると思います」

Q.「ミサイル自体の搬入は終わっているんですね?」
「それについてもこちらでお答えすることはできません」

Q.「奄美の人たちを守るために来たんですか?」
「奄美というより、もともと国を守るために我々はここにいますので、奄美のためだけというよりは……」

Q.「有事の際の、住民の避難とか安全確保の訓練やマニュアルはあるんですか?」
「防災訓練は警察や消防の方々と一緒にやっています」

Q.「それは災害時ですよね。有事の際に、住民の避難のために人員を割くことは?」
「避難だけのために割くことはないんですが……。危険なところにいる方を外に出したりっていうことはあります」

 危険地域から脱出させる訓練は、邦人救出プログラムとしてあるのだろうが、奄美大島およそ5万8千人を安全に避難させる任務は、隊員の答え通り、自衛隊にはない。島民の生命財産を守るのは自衛隊ではなく自治体と警察・消防の役割で、国民保護計画に基づいた避難計画を策定することになっている。では、戦場になってしまった島からどうやってそれだけの人数を安全な場所に逃がすのか。宮古・石垣も奄美も、今のところ避難所の設置や医療の提供など、災害支援のようなマニュアルは作られているものの、全住民を島外に退避させ得る具体策は全くない。沖縄県でも、「国との調整」「在沖米軍との連携」という文言があるだけで、危険になった離島から脱出する「国民保護」計画はないに等しい。

 瀬戸内駐屯地に近い節子地区や嘉徳集落から、基地は見えない。一見、何も変わっていない穏やかな暮らしがそこにあるようにも見える。しかし、奄美一の美しさを誇る嘉徳湾にも暗い影が忍び寄る。護岸一つない湾に注ぎこむ嘉徳川の澄んだ水が、今年何度か白濁した。

 嘉徳川は世界自然遺産の山を流れる清流で、わざわざ川を遡って滝の水を汲んで飲むほどに美味しかったそうだが、上流の弾薬庫建設地からの排水が流れ込むようになり、それもできなくなってしまった。沈砂ダムのようなものを設置し、セメントの粒子を沈めるケミカルを混ぜているのだが、その化学物質もセメントと共に川に流出してしまっていると、嘉徳に住むジョンマーク高木さんは言う。

 「ぼくは平和アクティビストじゃないけど、自衛隊が結局は自然を破壊している。嘉徳川は今回指定された世界自然遺産に含まれているし、この嘉徳湾もバッファゾーン(緩衝地帯)なのに、自然遺産に登録されても誰も守ってくれない」

 ジョンさんはフランスで生まれ育ったが、父の故郷である日本の海岸線をグーグルでつぶさに見ていく中で、自然のままの海岸が残っている嘉徳浜を見つけて早速島を訪ねた。そして実際の川と浜の美しさに狂喜乱舞し、ここはジュラシック・ビーチだ! と名付けたそうだ。

 「基地も、開発も、みんな賛成? と聞かれたら、ああそう言わないといけないのかな、と、隣の人を見て、そうね、と言ってるだけ。同じことを言わないといけないと思ってるだけで、自分の意見を言える人はほんの一部だと思う。みんな、怖がって生きているよね」

 みんなと違う意見を言ってはいけないと怖がっている。フランス育ちのジョンさんにはそれがかなりおかしなことに感じるのだろう。沖縄では戦後米軍の支配に抵抗しながら生きるしかなかった分、粘り強く闘う知恵も経験も積みあがっている。でも奄美は、戦後一時期は米軍統治を経験したものの早々に復帰したので、国のやることに異議を唱えるのはとてつもなく大変なことと感じるかもしれない。でも自衛隊に反対しなかった島として、さらに負担が増えるとしたら、どうだろうか。

 米軍は、中国軍の能力増大を受けて、第一列島線上に地上発射型の中距離ミサイルを構築する計画だ。候補地は、奄美大島か沖縄本島のどちらかと言われている。核弾頭も搭載可能な中距離ミサイル配備には、沖縄本島では相当な反発が予想されるので、奄美になるのではという見方もある。自衛隊基地も日米合同訓練も受け入れてくれた奄美大島は、沖縄本島よりずっと都合のいい島と映ってはいないか。

 しかし沖縄本島も米軍基地問題だけにかまけていられない状況だ。地対艦ミサイル部隊をまとめる連隊本部機能も勝連に置かれることになったのは先に書いたが、先島の有事を想定した軍事物資の集積場も併設される。勝連分屯地は、今後急速に自衛隊の重要拠点になっていくであろう。しかし一連のミサイル網は一体だれを守る「盾」なのか。「盾」を持つつもりでたくさんの「槍」を並べて自分の首を絞めてはいないだろうか。

 加えて、9月15日から11月まで、陸上自衛隊はかつてない10万人を動員した大規模演習に入った。これは南西諸島の軍事衝突を想定して、全国の拠点から素早く島嶼防衛のための部隊を送り込む訓練だけでなく、人員・軍事物資の輸送体制や後方支援の課題を探る狙いがある。今、北朝鮮や中国の強硬姿勢を伝えるニュースが声高になる中で、民間の輸送機関なども巻き込みながら有事への即応体制の構築が日々進んでいく日本。私の脳裏に悪夢がよぎる。

 兵站拠点として攻撃対象になった奄美で、戦闘員も逃げ場のない民間人も犠牲になったあとも、山深いトンネルに守られたミサイルだけは残る。それは「島嶼奪還作戦」で再上陸した「日米合同の軍事組織」が、取り出して使うためのもの。兵站拠点は「有効」だった。あの5本のトンネル型弾薬庫の計画図が私に想像させるのは、そんな最悪のシナリオだ。

 

三上智恵監督『沖縄記録映画』
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標的の村』『戦場ぬ止み』『標的の島 風かたか』『沖縄スパイ戦史』――沖縄戦から辺野古・高江・先島諸島の平和のための闘いと、沖縄を記録し続けている三上智恵監督が継続した取材を行うために「沖縄記録映画」製作協力金へのご支援をお願いします。
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三上 智恵
三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移住。同局のローカルワイドニュース番組のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。14年にフリー転身。15年に『戦場ぬ止み』、17年に『標的の島 風(かじ)かたか』、18年『沖縄スパイ戦史』(大矢英代共同監督)公開。著書に『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)、『女子力で読み解く基地神話』(島洋子氏との共著/かもがわ出版)、『風かたか 『標的の島』撮影記』(大月書店)など。2020年に『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社)で第63回JCJ賞受賞。 (プロフィール写真/吉崎貴幸)