第575回:「今夜、泊まるところがない」、そんなピンチに対応する「せかいビバーク」〜支援業界の「オードリー・タン」に聞いた。の巻(雨宮処凛)

 突然だが、これを読んでいる人に問いたい。

 あなたがいつも帰宅するときに通る公園に、少し前からよく見かける人がいる。

 どうやら住まいを失った人のようだ。これから寒くなるので心配だけど、どうやって声をかけたらいいかわからないし、余計なお世話かもしれないという思いもある。仮にホームレス状態だったとして、自分にできることには限りがある。世の中には何やらそういう人たちを支援する団体もあるようだけど、どれを紹介していいのか、皆目見当もつかない。でも気になる。だけど、「行くとこがない」と言われてもどうしていいかわからない。自分のうちに来られても困るし、ホテル代を出すのもちょっと。うーん、だけど放っておくのは忍びない。

 長々と書いたのは、コロナ禍以降、私のもとにこのような声が多く寄せられているからだ。

 ちなみに昨年3月、貧困問題に取り組む40ほどの団体で「新型コロナ緊急災害アクション」が立ち上げられ、4月以降、メールフォームでSOSを受け付けて「駆けつけ支援」が行われているのだが(メインメンバーは瀬戸大作氏。瀬戸氏の駆けつけ支援についてはこちらに詳しいのでぜひ読んでほしい)、昨年から今に至るまで、ほとんど毎日「所持金ゼロ円」「アパート/寮を追い出されて住む場所がない」「何日も食べていない」といったメールが寄せられている。

 支援者らはこれまで700件以上のSOSに対応し、他団体からの要請も含めると、緊急宿泊費や食費としてこれまで約2500件に7000万円以上を給付してきた。原資は全国から寄付して頂いた「緊急ささえあい基金」。ちなみに支援は駆けつけて終わり、緊急宿泊費などを支給して終わりではない。後日、生活保護など公的支援の窓口につなぎ、場合によってはアパートに入るまで伴走する。そんな細やかな支援がこの2年近く、支援者らによって続けられている。

 そんな中、現場のニーズに応える「支援スキーム」を生み出してきた人がいる。

 つくろい東京ファンドの佐々木大志郎さんだ。人は彼を「困窮者支援業界のオードリー・タン」と呼ぶ。次々と新しいスキームを発明し、実用化させていくからだ。

 コロナ禍でまず注目を浴びたのは、昨年7月に運用が始まった「つながる電話」。携帯が止まった人にスマホを無料で2年間、貸し出すという取り組みだ。

 これも現場にいなければ決して気づかないニーズだが、コロナ禍で失業し、住まいを失ったりネットカフェ生活でSOSをだしてくる人の中には、携帯が止まっている人が非常に多い(もちろんコロナ禍前も同様だった)。よって、フリーWi-Fiのある場所から支援団体にSOSメールをしてくるのだが、本人がフリーWi-Fiのある場所にいないと連絡がとれないということが支援を難しくさせている。

 携帯が止まっていて困るのはそれだけではない。電話がなければなかなか仕事も見つからないし、アパートの契約をしようと思っても、不動産契約が難しいこともある。通話できる番号がないことは、あらゆる社会参加を難しくさせてしまうのだ。

 そこで佐々木さんは協力してくださるエンジニアの方と共に、通話アプリを開発。それをインストールしたスマホを無料で貸し出すという支援が「つながる電話」だ。

 この貸出サービス、一度目の緊急事態宣言が出てわずか3ヶ月の昨年7月から始まっている。現在まで、実に200台が貸し出されたそうだ。ということは、200人分の社会参加の「壁」を取っ払ったのだ。というか、そもそもこういうことは国こそが率先して技術者を集めてやるべきではないのだろうか?

 が、日本の場合、国が「感染対策の切り札」と位置付けていた接触アプリの「COCOA」が4ヶ月以上機能しないまま放置というお粗末さだから、期待するだけ無駄なのかもしれない。

 さて、佐々木さんが次に立ち上げたのは「フミダン」

 こちらはオンラインで生活保護申請書類が簡単に作成できるWebサービスで、昨年12月から運用開始。昨年末からは東京23区限定で、申請書類をオンライン上から直接FAXで送信することができるという、オンラインでの申請を可能にしたサービスだ。

 そうしてこの秋に新たに発表されたのが、「せかいビバーク」。これは詳しく話を聞きたいと思い、佐々木さんを直撃した。

 まず、「ビバークって何ですか?」と素朴な質問をぶつけると、佐々木さんは言った。

 「登山していて遭難しかけた時、一泊だけ緊急避難的に雪山を掘って野営することです」

 それを「ビバークする」というのだそうだが、「せかいビバーク」とは、まさに「今夜乗り切れない」という人が、緊急避難的に利用するものだ。

 例えばネットカフェで寝泊まりしていたものの、お金が尽きて今晩から泊まる場所がない、寮や友人宅を追い出されて行く場所がない、公的支援を受けたいけれど携帯も止まっているという時に、一泊分の宿泊、食事や相談機関への移動が可能となる「緊急お助けパック」がもらえる仕組みだ。携帯が止まっている人が支援機関などに無料通話できるQRコードもセットになっている。

 さて、使うにはどうしたらいいのだろう?

 「具体的には、レターパックと同じサイズのものに一式が入っています。これを、都内11カ所で受け取ることができます」

 飲食店や寺院、NPOの事務所など、受け取りスポット一覧はこちら。この中には、歌舞伎町の「深夜薬局」や新宿のカフェもある。役所も一般のNPOも夜には閉まってしまうから、「夜に駆けこめる場所」で「緊急お助けパック」がもらえることはありがたい。

 使い方は、例えば私が今日からの寝場所も所持金もなく、公的機関や支援団体に電話したくても携帯が止まっているなどの場合、受け取り場所のカフェなどに行って「せかいビバークがほしい」と言えばいいそうだ。

 一方、受け取りスポットでは、「受付」だけすればいい。専用に開発した受付用WEBアプリを使って緊急お助けパックの番号を入力し、名前や生年月日を聞くなどの、5分ほどの受付だ。そうして緊急お助けパックを受け取った人はその日は安心できる場所に宿泊し、翌日、役所など相談機関を訪れるという仕組みだ。佐々木さんはこの支援を思いついたきっかけについて、言った。

 「始めようと思ったのは、緊急支援をする中で、所持金がゼロ円になるまで自分でなんとかしようとする人が多いということです」

 確かに、支援団体にSOSをくれる時点で所持金が数十円という人は非常に多い。中には0円という人もいる。残金が数千円から数万円あれば「じゃあ明日以降に会いましょう」と言うこともできるが、数十円だとその夜、野宿ということになってしまう。

 というような状況について、こういった問題に詳しくない人に話すと、「そんな状態で連絡してくるなんて甘えてる」と言われることもある。が、私は逆だと思う。彼ら彼女らは、決して人に甘えず、所持金がわずか数十円になるまで自力でなんとかしようと頑張ったのである。その結果の、所持金0円なのである。

 ある意味、もっと早めにSOSの声をあげてくれていれば、余裕をもって支援ができる(少なくともその日に駆けつけなくていい)のだが、「自己責任」という言葉が刷り込まれている人々は、本当にどうにもならなくなり、すでに3日食べていないなどの切迫した状態で連絡をくれる。そんな人が多いということを熟知している佐々木さんだからこそ、「今晩」なんとかできる「せかいビバーク」を思いついたのだろう。

 一方、「自分も何かしたい」という声が多く寄せられていたこともせかいビバーク立ち上げのきっかけのひとつだという。

 「何をしていいかわからないけど、自分たちも何かできることはないか、協力したいという声がこれまでかなり来ていたんです。じゃあ、今身動きとれなくなっている人たちに、最低限、これだけ渡して頂ければ支援になりますよっていうセットを用意した、それが”せかいビバーク”なんです」

 10月に運用を開始して、現在までに3人が利用した。受け取った翌日に相談機関に行く/連絡する人を対象としている。

 今、「緊急お助けパック」が受け取れるのは都内11カ所だが、ゆくゆくは全国に広げたいと佐々木さんは言う。

 「『緊急お助けパック』を置いて頂いて、5分だけ受付してもらう形なので、費用もかからないし、ぜひ、ちょっとだけ関わって頂けたらと思っています」

 興味があるという人は、ぜひ、せかいビバークのサイトを見てほしい。

 これからどんどん寒さが厳しくなる。コロナ禍では、女性もホームレス化に晒されている。困っていそうな誰かに、「あの店で、緊急お助けパックっていうのがもらえるみたいですよ」「一泊、泊まれるみたいですよ」と声をかけることは、きっとそんなに難しいことではない。

       

雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。格差・貧困問題、脱原発運動にも取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『ロスジェネのすべて』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)。「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員。