第138回:中年の諸君に告ぐ。50歳からは老人だ! 老人決死隊結成へ(松本哉)

 中年の諸君!!! 新年を祝ってる場合ではない!!!!
 具体的には団塊ジュニア世代を始め、それに続くロスジェネ・氷河期世代のアナタ! のんきに餅とか食ってる場合じゃないぞ! そう、気付いてみたら我々の世代は、世間的には完全に「不遇の世代」として扱われつつあり、まさに社会のお荷物だとでも言われているに等しい。しかし中年の同志諸君、そう軽々と我々の世代を邪魔物扱いされたんじゃ、こっちだって黙ってるわけにはいかない。と言うことで、今回はひとつ乱を提案したい。
 あ、老人の皆さん、若者の皆さん、申し訳ない。今回に限っては、いま40代ぐらいの読者に絞りまくって書くので、ちょっと蚊帳の外かもしれないけど、勘弁してください。でも、まあせっかくなので読んでもらえたら幸いです。

世の中をナメてる無敵の世代

 さて、中年の諸君。まずはちょっと我々の世代についておさらいしてみよう。我々の世代っていうのは、確かに不遇は不遇で、貧乏くじ世代とも言える。ちょっと上の世代は完全にバブルを謳歌しまくった世代で、その上になると高度成長期の連中で、これはもう頑張れば頑張っただけ豊かになったような世代だ。そしてその一方で、我々より下の世代になると、就職の口も改善されていき、さらには子どもの頃からインターネットがあり、初めからコミュニケーションがSNSだったりして、いわゆるデジタルネイティブの世代になって、いろんな可能性が一挙に広がった。
 そして、我々はというと、バブルが崩壊した後に大人になった世代で、社会の安定のために、ほぼ国策によって正社員数を激減させられ、大量のフリーターが生み出され、我々はまんまとそこにハマった。ま、墜落しそうな飛行機で例えたら、軽くしないとビジネスクラスやファーストクラスの客を守れねえってことで、荷物と一緒にエコノミー席だけ機体から切り離されてポイッと捨てられた感じ。チキショー! そう、大人になったら完全に就職難で職にあぶれる人が続出し、おまけに新たに登場したニューワード「自己責任」がクセ者で、要は面倒見ないから勝手にやってくれとのお達し。
 もちろん、上の世代や下の世代が最高だなんてことは一切ない。なんでもお金お金の社会にうんざりしてドロップアウトしたり競争に負けて落ちぶれた高度成長世代やバブル世代だって実は結構いるし、SNSのせいで逆に人間関係疲れたり情報過多でストレス溜める若者も多いので、安易に「自分達こそ不遇の世代だ!」なんて言いたくはない。お金と効率優先の社会の中ではいつの時代でも共通して割を食う人々が出る。ただ、それにしてもまあ我々の世代は、世代丸ごとほったらかしにされたっていうところでは、これはなかなかレアな世代とは言える。
 だが、しかし中年の諸君。思い出してもらいたい。バブルがとっくに崩壊したっていう90年代ごろ、我々はまだバブルのようなバカ騒ぎや、ふざけた遊びをしまくったり、なんの役にも立たないことを嬉々としてやってきた。今から思えば金もないし安定もなくなってるのに「ま、大丈夫っしょ」みたいなことを言いつつ、ケロッとして昼寝をしたりいい加減な生活を送りまくってきた。そして、誰も面倒見てくれない状態のまま社会に放り出されたので、貧困など大変な目に遭う人が多かった一方で、早々に勝手にやり出して、DIYカルチャーに踏み込んだり、謎のオルタナティブスペースを開いたりと、たくましく独自の展開をしまくる人も続出した。さらには、我々はまだSNS登場前に若者だったので、謎の監視社会や不気味なモラル社会もまだ本格始動してなかったので、みんな平気で法律を破ったりやっちゃいけないことやりまくったり(ま、良いか悪いかは置いといて)、メチャクチャだった。そう、良くも悪くも完全に世の中をナメきってる世代なのだ。よくよく考えてみれば結構無敵の状態。
 ともあれ、酷い目にあった人もいれば、そのおかげでたくましく育ったりと、一長一短ある世代。それに、80年代90年代という日本現代史上トップクラスでふざけた時代に育ったんだから、世の中なめまくりのとんでもないやつが無数にいる世代であることは間違いない。しかも、そのふざけた人生を悔い改める様子もあまりない。

さあ自覚しよう! 我々は老人だ!

 さて、40代のみなさん。まずは、我々はもはや老人目前であることを自覚しよう。えっ、まだ若いって? 甘い! 人間、50歳ぐらいからが老人だってのはもう古今東西の不動の事実なのだ。確かに今の日本の平均寿命は80歳以上なので、勘違いもし出すのかもしれないけど、別に寿命が伸びてるだけで、老化しなくなったわけではない。例え100歳まで生きるとしても、一番元気なのは30歳ぐらいまでで、30を超えたら2日連続で徹夜したら死にそうになったり、二日酔いがキツくなったり、調子に乗ってマヌケな姿勢をしてギックリ腰になったり、いろいろとガタが来るようになる。これは江戸時代も現在も同じだ。そう、別に老化が遅くなって寿命が伸びてるんじゃなくて、老人の延長期間が長くなってるっていうことだから、50歳は昔も今もレッキとした老人だ。「人生100年時代」とか言うけど、それはすなわち「老人50年時代」っていうとんでもない時代だ。あるいは、誰かが死んだときに「あれ、○○さん亡くなったんだって? ええっ、65歳? まだお若いのに」とか決まり文句みたいに言うけど、いやいや、本来だったらそれボチボチお迎えくる頃だから。普通だよ、普通。…あ、老人の皆さん、気を悪くしないでね。別に早く死ねと言ってるわけではないし、長生きはいいことなのでどんどん生きちゃってくださいね。そう、老人って言ってもサッカーで言うと延長のサドンデス、あ、いや、ロスタイムが長くなってるってことなので、みなさん堂々と長生きして、その機会は有効に使いまくってしまおう。
 ところで、歴史上の人物の年齢を見れば、結構みんな早くから老人の風格出してる。例えば、夏目漱石はあれだけ大御所なのに死んだ時は49歳だったし、老人感半端ない松尾芭蕉だって50歳で死んでる。江戸幕府の大老で完全に悪代官の親玉みたいな重鎮の風格を出してた井伊直弼なんて死んだ時はまだ44歳だった(殺されたけど)。そう考えたら、やはり50歳以降は完全に老人だ。そう考えたら、70歳以上なんて生きてる方がまぐれみたいな年齢なので、老人というよりもはや超人だ。なので、ここでは50〜69歳を老人と定義して、70歳以上を超人と名付けておきたい。余談だけど、超人の中には、自由に老後を楽しんで生きたり若手に面白いヒントを与える正義超人と、自分の価値観を譲らずに「近頃の若い奴らは!」と説教ばかり垂れまくる悪魔超人に区分される。国会議事堂や町内会、老人ホームなどでは頻繁に正義超人vs悪魔超人のデスマッチも行われているという。ま、それはどうでもいい話。
 ともかく、もう余命いくばくかという40代にもなって「まだ若い」みたいな往生際の悪いことを言っている諸君、無駄な抵抗はやめよう。そう、いくら若ぶってもアナタは井伊直弼とほぼタメなのだ!

「老人決死隊」への誘い

 さあ、そんなわけで天下のお荷物の名をほしいままにする、穀潰しの不沈空母こと団塊ジュニア世代ロスジェネ世代のみなさん。そんなふざけた時代にふざけた人生を送ってきた我々が座して死を待っていていいのか? 否! いよいよ我々が好き勝手にやる時が来たのだ。いや待て、よく考えたらこれまでも好き勝手にやってきた(または放り出されて好き勝手やらされてきた)ので、引き続き好き勝手にやる時がまたやって来てしまったのだ。これはやばい!! 
 ちなみに、ある程度ことを成した中年にありがちなのは、やたらしたり顔で「あとは若い人たちの時代だから」みたいなことを言って一歩退きたがる奴が多い。若い世代の育成? 知るかそんなもん。そう、よくよく考えても見てくれ。諸君が10代や20代の頃、先輩たちの言うことなんか真面目に聞いたことはないはずだ。だいたい「はい、わかりました」とか言って勝手なことやって大失敗して、だいぶ後になって「やべえ、先輩の言ったこと本当だった」と気づくのが関の山だ。それに、自分は何もしないで、勝手に任務を終えたみたいな顔をして育成に専念してる先輩とか見たら「お前もやれよ」みたいにムカついてしょうがなかったはずだ。そう、我々、老人に求められているのは育成ではなく、勝手にやることだ。しかも、他の世代に変に気を使う必要もない。70オーバーの超人たちは既にオリンポスの神々のような状態になってるので、自由にやってもらえばいし、若い奴らはほっといたら勝手に生き延びるのでこれまた自由にやっといてもらえばいい。どちらにも、困ったときだけ手を差し伸べればよくて、それ以外の時は余計なお節介は禁物だ。

 さて、そうときたら満を持して呼び掛けたいのが、とんでもない無敵の軍団「老人決死隊」の結成だ。ま、正確には50歳ロスタイムに入ってから開始される老人決死隊への準備をそろそろ始めたい。一応断っておくけど、別に何かひとつの組織を作ろうってんじゃない。イメージとしては漠然とした概念みたいなもので、開き直って遊び始める中年や老人の群れ。開き直らないからグズグズと過去の価値観をひきずって周りに迷惑をかけたり、やたら偉そうにしたりする。そんなつまらないことをやってる場合じゃない。そう、世の中をナメ切ったふざけた奴らが本気で遊び出したらどうなるかを知らしめよう。で、もうひとつ断っておくけど、中年世代でかたまろうと言うことでもない。世の中、いろんな世代の人がいて当たり前なので、むしろなるべくいろんな年齢の人たちがウロウロして交流する方が健全だ。
 じゃあ、なんなんだよ! と、思うかもしれないが、これはもはや心意気の問題。つまり、変に若ぶったり、逆に年上風吹かせて偉そうにしたりしてもしょうがないので、まずは自由に勝手に生きること。その上で、あとはなんの気兼ねもなく好きにやっていけばいいんだが、わかりやすいように最後に具体的なことを挙げて決死隊への呼びかけとしよう。

老人(中年)決死隊の具体的任務

 まず、自分の身の回りで考えてみると、自分でやっている「なんとかBAR」という飲み屋があるんだけど、これは老人決死隊に違いない。ここは自分一人でやってるわけじゃなく、いろんな人と協力してみんなで運営してる感じ。これは日替わり店主で知り合いが知り合いを紹介したりして適当に回していくテレホンショッキングみたいな飲み屋。細かい運営システムの説明は割愛するけど、これはどうやっても利益が出ずに収支がトントンになるというシステムで、完全に面白いからやってるだけ。もちろん日替わり店長をやる人は若者から老人まで色々だけど、そんな意味のないバカげた店をやってるのが40代なところが重要。もし若者が意味のないふざけた店とかやってたら、巷の真人間たちは「若いうちは好きなことできていいよね」みたいに思われがちだし、逆に老人がとんでもない店とかやり始めたら「ああ、冥土の土産に最後に好きなことがやりたいんだね」なんて思われる。ところが、最も働き盛りの40代が1円ももうからないふざけた店とかやり始めたら、コスパコスパうるさい効率を求めて生きてる人々は「こ、これはもしや本気なんじゃないか!?」「こいつ、人生ずっとこうやって生きてくつもりなのか!?」と恐怖におののくに違いない。
 そういえば、大阪の友達も40代になるやいなやいきなり出版社を立ち上げた。「おお、手広く商売やり始めたのかな」と思いきや実際は全く逆。聞けば「いや〜、ネットの情報とかって時が経ったら埋もれていって消えちゃうから、ふざけたものをちゃんと記録で残しておきたいんだよね」と言う。さらに聞けば「50年後100年後の奴らが発見して腰を抜かすような物を時限爆弾みたいな感じで仕込んでおきたいんだよね〜。100%赤字確定だけど、これは絶対にやばい」だって。これ、完全に決死隊だ。
 店や事業だけじゃない。例えばデモなんかでも決死隊は面白そう。かつての学生運動の時代なんか見ると、学生が「我々が前衛だ」とかなんとか言って最前列で突撃隊みたいに頑張ってたようだけど、後に続々と髪を切って「そろそろ真面目に生きる」とか言って就職する人が続出。頼りない前衛だな〜。でもまあそれに文句も言えない。将来ある若者たちがデモや運動で人生を棒に振るんじゃないかと悩む気持ちはわからないでもない。…そこで登場するのが無敵の老人軍団。老人は将来の心配なんて何もないし、就職の心配もする必要ないし、怒ってきそうな親や親戚のおじさんおばさんたちは死んでいるか超人の域に達している。将来の心配が心の片隅にある頼りにならない若者なんかにデモの先陣は任せられない。と言うことで、迷いのない中年・老人たちが地獄の軍団を結成して最前列に行くのも楽しそうだな〜。
 要するに、一番守りに入る年代になって、全くそれとは逆の意味不明のなんの役にも立たないことをやること。これが最大の任務だ。「守りに入る大人たち」これが世の中をダメにする最大要因だ。なので、これの放棄。それが老人決死隊だ。

 まあ、そんなわけで我々40代、つまり団塊ジュニア世代を筆頭に、それに続くロスジェネ・氷河期世代は、数年後に迫る「老人決死隊」の結成(というかそれぞれ勝手にやる)に備えて、ぼちぼち動き出すしかない! 若者たちはまだいろいろ模索できる猶予が与えられており、上の世代は超人の世界に殿堂入りしている。現状は40代50代などの世代が「働き盛り」として守りに入りながら熱心に働いているわけだが、逆にそのせいで、今のお金お金っていう世の中や何事にも効率が求められるような社会が続いている。我々がそんなものを支えてどうする(笑)! そう、冒頭でも述べた通り、我々の世代は役に立たないムダなことばかりを堂々とやってきた世代。ムダなことはもっとも得意技だ。さらに言うと、そんなムダなものは金にはならないものの、いろんな文化を生んだり、謎の突然変異で面白いものを生んだりと、社会の発展に寄与する。世界の経済が頭打ちでどうにもこうにもならない今、もうここいらでひとつ方向転換しとかないと面白くない。そんな煮詰まった社会に引導を渡せるのは、能天気なバカげた時代に育って、それを悔い改めるどころか逆に増長している我々の世代の最も得意とするところだ。
 そこで老人決死隊。しかも、我々は第二次ベビーブームもかぶってるのでムダに人数が多い。この世代が自由にやり始めれば、現状を辛うじて支えてる世代が一挙に裏切ることになるので、完全に世の中ひっくり返る。
 諸君、ロスタイム突入近し! さあ、みんなも備えよう、地獄の軍団=老人決死隊! そして、超人からチビッコまで、世代を超えたふざけた有望な奴らとの結託! いやー、楽しくなってきそうだ!

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松本哉
まつもと はじめ:「素人の乱」5号店店主。1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。著書に『貧乏人の逆襲!タダで生きる方法』(筑摩書房)、『貧乏人大反乱』(アスペクト)、『世界マヌケ反乱の手引書:ふざけた場所の作り方』(筑摩書房)編著に『素人の乱』(河出書房新社)。