第592回:コロナ禍の「女性不況」、女性たちからの相談から見えてきたこと。の巻(雨宮処凛)

 「食べることに困っています。助かりました。ありがとうございました」

 「いっぱいの食材ありがとうございました。年末年始で美味しく食べさせていただきます」

 「前回頂いたお野菜があまりに美味しく、家族皆大喜びでした。また頂けたらという思いでやってまいりました」

 「生理用品とても助かります」

 これらの言葉は、年末年始、東京・新宿の大久保公園で開催された「女性による女性のための相談会」来場者から寄せられたものである。

 コロナ禍で女性の困窮が深刻化してきたことを受け、2021年3月に始まった「女性による女性のための相談会」。スタッフ、ボランティアも参加者も全員女性の相談会は好評で、21年7月には2回目が開催された。そうしてこの年末年始、3回目が開催されたという次第だ。日程は、21年12月25、26日と22年1月8、9日。4日間合わせて382件の相談が寄せられ、託児スペースには4日間で20件の利用があった。

 私も実行委員の一人として相談員をつとめたのだが、そんな相談会の報告と政策提言をする集会が4月20日、衆議院第二議員会館で開催された。

 まずは、年末年始の相談会のデータを見てみよう。

 訪れた世代は10代から80代までと幅広いが、もっとも多いのは40代で31%、ついで50代23%、その次が30代で21%。中高年の、特に単身女性が多いということが明らかになった。

 住まいの形態については、相談者のうち39%が賃貸物件に住むものの、友人宅、シェアハウス、施設、ネットカフェ、ホテル、路上、駅などで暮らす人は12%。一人暮らしが33%と圧倒的に多いこともわかった。

 職業でいうと「無職」が26%。「日雇い」「派遣」「パート、アルバイト」「契約社員」など非正規で働く人は合わせて23%。正社員はわずか5%だった。

 「コロナ禍の影響」では「失業」がもっとも多く、ついで「減収」。具体的には以下のような声が寄せられた。

 「勤務先倒産で失業。失業給付、貯金切り崩し」
 「飲食店をコロナで失職。親の暴力あり、頼れない」
 「自営業。開店予定がコロナで延期。うつ状態悪化」
 「飲食店、コロナでシフトを減らされ、失業。元夫からの養育費とだえた」
 「夫婦ともコロナで収入減。2人で月収10万円」
 「派遣社員。コロナで残業禁止、収入5万円減」
 「コロナでシフトを減らされ収入減。家賃が払えずシェアハウスに転居」
 「夫はホテルの管理職。物にあたったり、大声を出すようになった」
 「夫はコロナで解雇。アルコール依存症で入院。離婚したい」

 また、相談内容でもっとも多かったのは「生活」。そのあとに「健康」「家族・家庭」「仕事がない、減収」「住まい」と続く。

 ここで寄せられた相談事例を紹介しよう。

 「30代。ネットカフェ、ゲストハウスに居住。無職。3、4年前、コールセンターの日雇い、会社都合で打ち切りに。仕事が欲しい。マルシェ希望(雨宮注釈:相談会では食品などを無料で持っていけるブースを用意し、そこを「マルシェ」と呼んでいる)。新宿・池袋の炊き出しは男性が多くて行きづらく、本日ここに来た」

 「50代。昨秋から清掃の仕事がなく、失業保険もない。離婚したので、知人宅に仮住まいをしている。生活全般に不安を抱えている。仕事をもらえるよう、頼んでいるが、当分はなさそう」

 「30代。フリーランスだが、コロナで仕事が減って、住宅確保給付金を受けた。ほかに受けられる支援がないか相談に来た。食料が不足しており、もらいに来た」

 「50代。仕事をしていたが、コロナで景気が悪く休んで欲しいと言われた。食料が欲しい。夫からの暴力から逃げて別居している」

 「20代。コロナで父が単身赴任先から帰宅。父からのモラハラを受けており、家を出たい。賃金が安くて自活できないため、ひとり暮らしがかなわない。家を出て生活する方法を知りたい」

 「50代。父の暴力にあってPTSDで悩んできた。働いていたが仕事がなくなり、1年の路上生活をしていた。今は生活保護を利用しているが、仕事に復帰できない。家族と不仲で連絡が取れない状態で孤立している」

 「60代。ネットカフェ生活を1年以上している。金銭トラブルがあり、安定した暮らしを失った。前日(1月8日)に相談したことで安心できた。身だしなみを気にする余裕が生まれた。髪を切って化粧したいと思えるようになった」

 見ていただいた通り、事態は深刻だ。

 「ネットカフェ生活」というと若い世代を想像しがちだが、紹介したように60代女性もいるし、離婚して知人宅に仮住まいという50代女性も、ずっとそこにいられるわけではないだろう。一年にわたって路上生活をしていたという50代女性もいる。

 集会では、全体の傾向として、以下のようなことも指摘された。

  • お金がない人が増えてきており、医者に行けないからか、健康相談が多い。
  • 全般的に生活保護を嫌う人が目立っていたのに、今回は積極的に申請したいという人が増えた。生活資金に困っているからではないか。
  • 再来場者が多数。
  • 防寒着のニーズが高い。会場に来る相談者は、コートを求める人が多くいた。
  • 「ガス電気が止められている」などの事情の人がいた。その場合、温める必要のないレトルト食品やカップ麺など湯を注ぐだけで食べられるものをその場で提供した。「すぐ食べられるものがほしい」という人には、パンを提供した。

 また、これは1回目の相談会から顕著なのだが、女性の相談は複合的なものが多いということにも触れておきたい。

 生活、仕事がない、住まいがない、夫のDVがある、子どもの病気、親の介護など様々な要因が絡み合っており、本人もすでに何が問題なのかわからなくなっているような状況も少なくない。

 相談会ではそれぞれの分野の専門家が入り、そこをひとつひとつ解きほぐしていくのだが、そこで初めて相談者が「自分の抱えている問題に気づく」という光景も多く見てきた。

 さて、相談会も三回目となり、これまで受けてきた相談は600件を超える。

 集会の後半では、そんな女性の声を聞いてきた立場からの政策提言がなされた。
 「中高年(単身)女性への支援について」「生活保護について」「住まいについて」「ひとり親家庭への支援について」「女性の健康について」「労働政策について」の6つだ。

 集会の最後には、立憲民主党、共産党、社民党、れいわ新選組、沖縄の風の議員らに「政策提言」が手渡されたのだった。

 コロナ不況の中、昨年始まった女性相談会。それがこうして政策提言となり、国会議員たちに手渡される。この相談会では二度目のことだが、「やっとここまで来たか」と感慨深い気持ちがわき起こった。

 しかし、事態が良くなる兆しはまったくないどころか、コロナ禍も3年目に突入し、貯金も使える公的制度もすべて使い尽くしたという声も多く耳にする。

 さて、次回の「女性による女性のための相談会」は7月1、2日(詳細は決まり次第Twitterでお知らせ予定)。

 「今はまだ大丈夫だけど先のことが不安」「友達のことが心配」という人も、ぜひ気軽に足を運んでみてほしい。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。