第114回:参議院選挙で投票する前に、自民党の改憲草案を読んでほしい。「知らなかった」と後悔しないために(想田和弘)

 もう手遅れなのかもしれないが、やはり書かずにはいられない。

 参議院選挙の投票日が近づいている。

 情勢調査では、自民・公明・維新が伸び、野党は大敗を喫する見込みだという。

 立憲民主党が先の衆議院選挙の敗北の原因を見誤り、野党共闘をほとんどやめてしまったのだから、当然の成り行きではある。しかしだからといって、手をこまねいて傍観しているわけにはいかないという思いがある。

 その最も大きな理由は、自民・公明・維新・国民が改憲に前のめりになるなか、選挙結果によっては、憲法の改悪がすぐ目の前に迫っているからである。

 憲法がどう改悪されるのか。

 その青写真は、ご丁寧にも自民党の公式サイトに掲載されている。2012年に発表された「日本国憲法改正草案」である。数多の批判にもかかわらず今でも撤回も修正もされないでいる。

 自民党の改憲草案の問題点については、僕も2012年以来、繰り返し、繰り返し、警鐘を鳴らしてきたし、すでにさまざまな憲法学者が指摘しているところだ。

 しかし手っ取り早く把握するには、このサイトがわかりやすいので、ぜひご覧いただきたい。

 上記のサイトを読めばわかることだが、自民党の改憲草案は、一言でいうならば、民主主義を廃止することを目指した実に恐ろしいものである。

 その内容をすべての日本人がちゃんと知って理解したら、自民党は崩壊するだろう。

 問題は、知って理解している人が、まだまだ少ないということだ。

 また、こんな荒唐無稽な改憲案は通るはずがないから、無視していればいいという人がいる。

 しかし、僕はそうは思わない。

 なぜならこの改憲草案は、政権与党である自民党が目指す国の形だから。すでに絶大な権力を有する政党が、民主主義体制を解体することを目指して活動している。彼らのすべての政策は、そういう文脈で理解すべきなのである。

 陰謀論のように聞こえるかもしれないが、草案を読めば、残念ながら、そう解釈する以外にない。私たちは、そういう人たちに長期政権を担わせているのである。

 そして、今度の参議院選挙でも再び大勝させようとしている。

 大勝して改憲勢力(自民・公明・維新・国民など)で参院の3分の2を占めれば、憲法改悪の具体的な手続きに入るだろう。

 手続きに入ったら、あとは数の力にまかせて、一直線に奈落の底へまっしぐらである。特にナチスの全権委任法のごとき「緊急事態条項」を通されてしまった日には、後戻りは極めて難しい。

 この流れを変えたいと思うなら、今度の参議院選挙では、改憲勢力にはっきりと対峙する党や候補者に投票することだ。

 マガジン9の読者なら、きっと今さら言われなくても、そうすることだろう。

 だからここにこの文章を書くことが、どれだけ意味があるのか、僕にはわからない。

 でも、書かずにはいられなくて、今回も書いた。

 願わくば、自民党の改憲草案の内容をご存じない大勢の人たちに、この文章が、いや、改憲草案の内容が、投票日の前に届きますように。

 「知らなかった」と後悔しないために。

 それからマスメディアは改憲案の深刻な問題について、きちんと報じてください。

 報道機関として、当たり前の仕事をしてください。

 お願いします。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。