第603回:第7波、統一教会と自民党の関係、そして死刑執行などで「脳のキャパ超え」してませんか?(雨宮処凛)

 猛暑の中、第7波の勢いが止まらない。

 とうとう東京の1日あたりの感染者は4万人を超え、自宅療養者は60万人を突破。過去最多を更新し続けている。

 そんな中、いろんなことが脳のキャパを超えた気がする。

 コロナ感染拡大への不安と恐怖。2月のロシアによるウクライナ侵攻から始まり、終わりが見えない戦争。選挙中に起きた、安倍元首相の銃撃事件。そこからパンドラの箱が開いたように続々と明らかになる、自民党と旧統一教会の関係。そうして7月26日に迎えた、相模原事件から6年という節目。その日に執行された、秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大の死刑。そして、ミャンマーで執行された活動家4人の死刑。

 また、7月下旬には、大阪で栄養失調や脱水症状で二人家族がどちらも亡くなる悲劇が二件続いた。23日に遺体で発見されたのは、85歳の娘と55歳の娘。5月頃に栄養失調で死亡したとみられるという。24日には、90歳の母親の遺体が発見され、玄関先で倒れていた65歳の長女が死体遺棄容疑で逮捕されるものの、容体が急変し、死亡。脱水症による急性腎不全とみられ、母親は衰弱死だという。なぜ、逮捕された長女は入院とならなかったのか。ちゃんと治療を受けられていたらと思うと無念でならない。

 それぞれがひとつずつでも大事件なのに、それらが連続で次々と起き、考える暇もないうちにまたトンデモないことが報じられる。

 そしてそれが、ほとんど「映画なの?」というくらい現実離れしたことばかりなのだ。

 そのダントツはやはり自民党と統一教会の関係で、自民党議員の名前が次々と暴露されたかと思ったら、安倍元首相の弟で防衛大臣の岸信夫氏が、統一教会と「付き合いもあり、選挙の際もお手伝いをいだたいている」などと発言。一方、国家公安委員長の二之湯智氏が統一教会の関連団体のイベントの実行委員会委員長をつとめていたり、呼びかけ人になっていたり、果てはイベントでスピートしていたりといったことも報じられていて、何か時空が歪むような感覚に襲われる。

 ちなみに「国家公安委員会」のサイトによると、国家公安委員会は、「国民の良識を代表する者が警察を管理することにより、警察行政の民主的管理と政治的中立性の確保を図ろうとするものです」とあるのだから、やっぱりすべてがブラックジョークではないのか。何か悪い夢を見ているのだろうか私は。

 そうしてブラックジョークの極め付けは、そんな事態を受けての自民党・福田達夫氏の「何が問題かわからない」発言。なんかもう、膝から崩れ落ちそうになり、その瞬間、私の頭には突然陽気な音楽が鳴り出した。

 「パッとさいでりあ〜、パッとさいでりあ〜♩」

 小林亜星の伸びやかな歌声が頭の中に鳴り響く。私に搭載されている自己防衛システムが発動したのだ。

 このシステムに気づいたのは3年前、飼い猫・つくしが病気になり、「余命1カ月」を告げられた時だ。「ああもう全部無理……」と思う間もなく、頭の中では亜星が陽気に歌い出したのだった。……人っていろんな方法で自分を守ろうとするもんなんだな。亜星の歌声を脳内で聞きながら、思った。「パッとさいでりあ」の意味がわからない人は周りの中高年に聞こう。

 あれから、3年。つくしの死をなんとか乗り越えた今、久々に、現実からフライアウェイな感じになっている。

 そんな状況の中、人と話して頭の中を整理したくても、第7波、人と会うことのリスクは猛烈に高くなっていて、周りから次々と陽性者が出ていることを思うと誰かと会うこともできない。

 かといって、テレビなんかを見るともっと辛くなるので、時々情報を遮断するようにしている。

 コロナ禍が始まった頃もそうだった。政府の後手後手の対応があまりにひどくてニュースを見るのも苦痛になった。第5波の時もそうだった。医療崩壊で自宅での死者が増え続け、野外の相談会にも発熱した人が来るなど本当に「野戦病院」の状態だった。そんな中、開催されていたオリンピック。「脳のキャパ超え」を感じるたびに、外界の情報をシャットアウトして耐えてきた。

 その状況に、今回、元首相が撃たれる大事件と、カルトが政権に深く食い込んでいたという驚愕すべきことが重なったのだ。そうしてすぐに「国葬」という話が出てきて、世論は二分されている。

 いろんなことの情報量が多すぎて、ついていけない。分断された世論の中で、SNSでは攻撃的な言葉ばかり飛び交っていてほとほと疲れる。何かを発信した途端、何かに分類されレッテル貼りされ罵倒される空間で、多くの人が傷ついている。コロナ禍以降、攻撃性を増してきたSNSが、今、もっとも危険な領域に達しているように思えて怖くて仕方ない。

 こんな状態だからこそ、とにかく今は、一つひとつの出来事を噛みしめたい。

 まず、安倍元首相の事件はとても現実感がなくて、私はまだ受け止められていない。

 加藤智大の死刑執行についても、頭の中がごちゃごちゃだ。

 何度か傍聴に行った裁判で、傍聴席に向かって深々と頭を下げた時の彼の目がずっと焼き付いている。フェルトペンで描いたような、「ねこぢる」の漫画のような、まったく感情の読めない目。

 そしてミャンマーの活動家たちの死刑執行。

 秋葉原事件で、突然日常を断たれた人たち。

 相模原事件で命を奪われた人たち。6年になる日を前に、7月はじめ、建て替えられたやまゆり園に行ってきた。殺害された19人を悼むモニュメントが、園のあちこちにあった。

 そして忘れてはならない、ロシアによるウクライナ侵攻で命を奪われた大勢の人たち。

 一つひとつの出来事を自分なりに受け止め、そしてその死を悼みたい。だけど怒涛の勢いで起きるさまざまなことは、その隙も与えてくれない。

 だからこそ、この国に生きる人々は、「異常事態の中にいる」という自覚を今一度、持った方がいいと思う。

 7月後半時点で、世界最多の感染者数を出している国に住んでいるということ。その中でのストレスは相当大きなものであるということ。

 また、安倍元首相をどう評価していた人であれ、今回の事件に深く深く傷ついているということ。

 そこから明らかになった統一教会の問題は、国の根幹を揺るがすことであり、不安に駆られて当然であるということ。

 SNSで異様に攻撃的になっている人の中には、いろいろなストレスや不安に耐えられない人もいるだろう。だからといって、侮辱などが正当化される訳では決してないとも付け加えておきたい。

 考えてみれば、日常を奪われて、もう2年半。

 辛くなったら、全情報を遮断するのも身を守るひとつの手だ。

 そんな時、私は猫を抱きしめて思い切り匂いを嗅ぐ。猫がいてくれて、本当によかったとつくづく思う。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。