「国葬反対より外国人生活保護反対」
9月7日、そんなハッシュタグがTwitterでトレンド入りした。
国葬が16億円超という報道を受け反対の声がさらに高まる中、突如現れたハッシュタグだ。
この国葬問題で懸念するのは、これまでも作られてきた分断が、決定的なものになってしまうのではないかということだ。賛成だろうと反対だろうと、強い思いがあればあるほど感情的になるだろう。だからこそ、これ以上、この国で分断が深まることになってほしくない。方法はわからないけれど、汚い言葉の応酬になり、双方に憎しみだけが残るようなことにはなってほしくないと切に願っている。
そんな中、「国葬反対」に対するカウンターとして、「外国人の生活保護反対」という言葉が出てきたことに衝撃を受けた。国葬のお金と保護費を対比させるやり方に、ただただ胸が痛んだ。
それに対してできることは、淡々とデータを示すことだと思う。ネット上にある「外国人は生活保護を受けやすい」という大きな誤解をひとつずつ解いていくこと。
こんな時、非常に役に立つ本がある。それは『外国人の生存権保障ガイドブック』(生活保護問題対策全国会議編・明石書店)だ。
本書には、外国人に関するあらゆるデータが網羅されている。
まず、日本に住んでいる外国人は293万人でこの国の2%台。
そんな外国人は生活保護を受けやすいのかと言えば、答えはノー。「日本国民」を対象としている生活保護は基本的に利用できず、一部が「準用措置」の対象となっている状態だ。いわば、生活保護を受ける権利はないが、税金を払っている外国人には受けさせてあげることもある、ということらしい。そんな「準用」の対象となるのは、適法に日本に滞在し、活動に制限を受けない「永住権」「定住権」等の在留資格を持つ人たち。
ちなみに総在留外国人の47.5%の135万7729人は、準用措置の対象外となっている。つまり、どんなに困窮しても半分近くの外国人はセーフティネットにひっかかれないということだ。
それでは日本に住む外国人がどれほど生活保護を利用しているかと言うと、日本人96.7%に対して、外国人は3.3%。「外国人は受けやすい」のであれば、もっと多くてもいいのではないだろうか。しかし、これが実際のデータだ。
では海外ではどうかと言うと、例えばフランスでは、日本でいう生活保護を利用する人の中で外国人の割合は12.4%。ドイツでは37.8%。スウェーデンに至ってはなんと59.4%。もちろん、総人口に占める外国人の割合が日本とは違うわけだが、それでも「最後のセーフティネット」が外国人をも救っていることがわかる。
また、生活保護の利用率を見ると、総人口に占める利用率は1.6%なのに対し、外国人の利用率は2.3%。やや高くなっているが、これにはさまざまな背景がある。
まず国籍別で見ると、韓国・朝鮮が6.2%、フィリピン3.8%、ブラジル1.2%、中国0.9%の順だ。
これを見ると、「やはり韓国・朝鮮の人は生活保護を受けやすいのだ」と思う人もいるかもしれない。が、そのうちの67.1%が高齢者世帯。背景には歴史的経過と構造的差別があると本書は指摘する。これらの人々の多くは、日本の公的年金から排除されてきたのだ。その背後には就職差別や公務員任用からの排除がある。それだけではない。国民年金法には当初国籍条項が存在したため(1982年から加入可)、無年金・低年金の人が多いのだ。よって保護率が高くなっているのである。
また、フィリピン人の利用者の53%が母子世帯。背景には80年代からの興行労働者の大量来日があると指摘されている。そのうち日本人男性と結婚した人も多くいるわけだが、離婚した夫婦も少なくない。離婚原因の多くはDVであることを支援団体は指摘している。
どちらのケースを見ても、外国人に構造的な貧困が集中するような状態ゆえの保護利用ということがよくわかる。3位のブラジルは、90年代からの日系人受け入れと関わっていることは明白だろう。
「国に帰れ」という人は多い。が、なぜ、韓国や朝鮮、フィリピン、ブラジルの人が多くいるのか、その歴史的経緯や日本政府の制度変更などにも目を向けるといいだろう。バブル期、在留資格のない外国人が働くことを黙認し、90年代には定住ビザで日系人を呼び寄せ、研修生・実習生制度を作り、また2010年には入管法の運用を見直して、働ける在留資格を難民申請中の外国人にも与えるようになったことなど、外国人が来る仕組みは、日本発でしかけられている。
そして今や外国人は、この国を支える労働力でもある。コンビニで、飲食店で、それ以外の見えない場所で、私たちは日々外国人のお世話になっている。もはや彼ら彼女らなしではこの国は回らないだろう。
が、そんな外国人たちはコロナ禍で真っ先に首を切られ、なんの保障もなく放り出された層でもあった。この連載では、コロナによって失業した非正規や女性のことをずっと書いてきたが、それと同時かもっと先くらいに職を追われていたのが外国人だったのだ。その中には実習生もいれば、飲食店で料理人として働いていた人もいる。自らは働く在留資格がないことから同国のコミュニティで支えられていたものの、支える側も失業し、コミュニティごと困窮に陥った人たちもいる。
私も属する「新型コロナ災害緊急アクション」には、そんな外国人からのSOSがこの2年半で多く届いている。コロナで失業して住む場所を追われ、公園で野宿生活をする人。病気があるのに保険証もお金もないことから治療を受けられない人(国民健康保険に加入できない外国人は約10万3000人)。
そんな中、もっとも過酷なのは、入管施設への収容を一時的に解かれている「仮放免」の人々だ。彼ら彼女らは働くことを禁じられているので働けない。しかし、仮放免の人々を支える仕組みはなく、日本の福祉の対象外。まったくもって「死ねってこと?」というような状態だが、そんな仮放免の人々は日本に約6000人いるのだ。
『外国人の生存権保障ガイドブック』の冒頭には、紛争から逃れて日本にやってきたカメルーン女性が末期ガンとなり、また仮放免であることから働けず、健康保険にも加入できずに家賃を滞納して路上生活になった果てに42歳で亡くなったケースが紹介されている。
こんな状態でも生活保護を利用できないのがこの国の最後のセーフティネットの現実である。決して「外国人は受けやすい」わけではない。受けやすかったら、彼女が末期ガンで路上生活の果てに命を失うことはなかったのだ。
さて、「新型コロナ災害緊急アクション」では日本人、外国人合わせて2000人ほどのSOSに対応し、緊急宿泊費や緊急生活費の給付をし、その額は8000万円以上にのぼるが、コロナ禍初期は、給付先の7割が外国人だった。
日本人の場合、職も住まいも所持金もない状態であれば生活保護申請をすれば金銭的支援は終わりだが、公的福祉がない外国人の場合、金銭的支援は終わらない。住まいもない人が多いことから、私が世話人をつとめる「反貧困ネットワーク」ではシェルターを開設し、多くの外国人の支援を続けている。仮放免で働くことが禁じられている人が多いので、家賃や生活費を支援し続けているのだ。
「外国人は生活保護を受けやすい」のが事実であるならば、こんなことをする必要などないのである。みすみす路上で見殺しにするわけにいかないから、国の制度が見殺しに等しいから、命を守るために、善意の支援者たちでギリギリなんとかしているのである。
「そんなことをする必要がない」という人に問いたいのは、もし自分が仮放免の立場だったらどうするかということだ。国へ帰れと言われても帰るお金もないし、帰れば命の危険がある。それでも公的福祉もなく、民間の支援もなかったら。私だったら生きるため、止むを得ず食べ物を盗んでしまうかもしれない。そういうことが当たり前の社会は、少なくとも私は嫌だ。
さて、それでも外国人問題に誤解が多いのは、私たちが彼ら彼女らのことをあまりに知らないからだと思う。
例えば難民申請中の人についても、どんな人がどんな理由で祖国を逃れて日本にやってきているのか、そこからわからない人が大半だと思う。
そんな人に、ここにひとつのケースを紹介したい。
アフリカの某国から日本に逃れてきた女性だ。集落の長の娘だった彼女は10代の頃、突然父親から「15〜17歳の間に、赤ん坊を殺して祭壇に捧げる儀式」をするよう命じられる。殺すのは、村で生まれたものの育てられないなどの事情がある赤ちゃん。その儀式をしないと、村には災いが起きると皆信じているのだ。しかし、彼女はどうしても赤ちゃんを殺したくない。よって村から首都に逃れるも村人は探し出し、タイに逃げるもまた発見されてしまう。儀式をしない彼女は殺害を予告され続け、父親は実際に村人たちに殺されてしまう。その果てに日本に逃れてきたのだ。
しかし、彼女は難民申請をいまだ認められていない。仮放免の状態で日々、働くこともできず貧困にあえいでいる。日本に来てすぐは介護の仕事をしていた彼女は今すぐにでも介護の仕事をしたいのに、仮放免という立場上、できない。ちなみに彼女が学んでいた大学は、日本で言えば東大レベル。生化学の研究をしていた超エリートでもある。この国で難民申請をしている中には、本当に多様な背景を持つ人たちがいるのだ。
彼女についてはimidasの連載「『赤ん坊を殺す』ことを命じられ、日本に逃げてきたあるアフリカ女性」で書いているのでぜひ読んでみてほしい。
外国人について、そして生活保護について、データに基づいた冷静な議論から始めたい。建設的な議論は、きっとそこからしか生まれないと思うのだ。