県知事選に、ホッ!
沖縄の県知事選が終わった。結果はみなさん、もうご存じのとおり。ぼくも、ともあれほっと胸をなでおろした。
玉城デニー現知事が、予想通りほぼ圧勝という形になった。
ぼくは親しい沖縄のジャーナリストから、投票日の前日(10日)に電話で情報をもらっていた。彼は、こんなふうに言っていた。
沖縄の各メディアの事前調査結果はほぼ同じです。新聞見出しふうに言えば、「玉城氏が先行、佐喜真氏が追う展開、下地氏は苦しい」ですね。
はっきり言えば、玉城さんは残念ながら、任期中にあまり目立った政策的成果は挙げられなかった。政府という巨大組織との闘いでは確かに不利ですし、仕方のない部分はあります。しかし、親しみやすい人柄は県民にとても愛されている。
それに対し、佐喜真淳さんは圧倒的に人気がない。頭ごなしの言い方など、かなり高飛車な印象を持たれていたし、さらに旧統一教会との関係がズブズブであることがバレてしまって、それも足を引っ張る要因でした。自民党が得意の組織選挙を仕掛けていますが、不発のようです。
下地さんが立候補したことも、佐喜真氏苦戦の原因のひとつ。何といっても下地さんの支持層は保守層ですから、結局は佐喜真票を食ってしまうわけです。
結果は、このジャーナリストの言う通りだった。
以下は、獲得票数の最終結果である。
玉城デニー:339,767票
佐喜真淳 :274,844票
下地幹夫 : 53,677票
6万5千票の差がついた結果は、予想通りとはいえ、自民党には衝撃的な結果だった。自民党は統一教会問題に足をすくわれ、有力議員が沖縄へ応援に入ることもできなかった。まさに、統一教会の“悪夢”が、この選挙にも影響したのだ。
安倍元首相が言い続けた“民主党時代の悪夢”が、自らの死後に、別のかたちで自民党を襲ったのだ。しかも、その“悪夢”に、候補者である佐喜真氏本人がどっぷりと加担していたのだから、むしろ、喜劇というべきなのかもしれない。
県議補選が示す民意
ただ、ぼくが注目したのは、もうひとつの選挙だった。沖縄県議補選である。
沖縄県議会は与野党均衡状態にあった。玉城与党=24人、野党=21人、中立=3人(定数48人)という構成だったが、これに那覇市長選挙が影響した。
那覇市の城間幹子市長は、任期満了に伴って辞職、次期市長選には立候補しないことを表明した。城間氏は「オール沖縄」(故翁長雄志元県知事を中心とした辺野古基地反対派)の支援を受けていた。そこで城間氏の後継として、オール沖縄が立候補を要請したのが、翁長元知事の次男で県議の雄治(たけはる)氏だった。雄治氏は那覇市長選立候補を受諾、県議を辞任した。
この結果、24:21:3だった県議会の構成が、23:21:3となったのだ。
翁長雄治氏の辞任に伴う補欠選挙が、県知事選と同じ11日に行われた。もしここで、自民党の推す候補が勝てば、県議会の構成は、23:22:3となってしまう。そうなれば、ただでさえ険しい玉城知事の県政運営は、ますます厳しいものになる。
中立と称する3人は、玉城県政に対して是々非々の立場をとる。だがぼくは、この「是々非々の立場」というのを、ほとんど信用していない。中立という人たちは、最終段階で、結局は時の政権・権力の側につくのがこれまでのパターンだからだ。報道機関がよく言う「両論併記」と同じように、ぼくはこういう態度、立場を諒とはしない。おいしいほうへ尻尾を振る、ただの風見鶏ではないか。
オール沖縄陣営は、上原快佐(カイザ)氏を候補として、補選に臨んだ。そして上原陣営は玉城氏と一体となった選挙運動を展開した。もちろん、辺野古基地建設には絶対反対の立場を正面から訴えた。
この補選には4人が立候補した。
上原氏のほか、下地ななえ氏(自民)、糸数未希氏(無所属)、仲松寛氏(参政党)である。下地氏は佐喜真氏と連携して「辺野古基地賛成」の立場から県政の奪還を訴えたが、上原氏に敗れ、県議会の構成の変化も実現できなかった。これも、自民党にとっては大きな痛手になった。すなわち「辺野古基地建設反対」が、いまでも県民の多数の意思だということが明らかになったからだ。
今回は、自民側も「辺野古」を争点隠しせずに訴えたのだから、この結果は「辺野古基地建設反対」が民意である、というはっきりした証明になったのだ。いくら自民党だってネット右翼だって、この事実は否定できない。
しかも、自民党にとって厳しかったのは、下地ななえ候補が、なんと3位に沈んでしまったことである。以下、4候補の得票数。
上原快佐 :44,302票
糸数未希 :37,994票
下地ななえ:37,259票
仲松寛 :11,968票
佐喜真氏と連携して選挙運動に臨んだ自民候補の下地氏が、なんと次点にもなれなかったのだ。自民党の地盤沈下というしかない。
「金」で民意は買えるか?
選挙の少し前、内閣府は2023年度の「沖縄関連予算」の概算要求額を2798億円とする方針を決めていた。22年度の概算要求額より、なんと200億円もの減額である。つまり、「玉城県政が続くと予算を減額するぞ」という、あまりに露骨な政府の態度である。
市町村からの増額要求が強い「一括交付金」は22年度と同じ762億円を計上。その分、県への分は減少する。つまり、国が県の頭越しに市町村に金を分配し、県の権限を縮小してしまうということだ。県が辺野古反対の知事を擁するならば、市町村から金で攻め落とそうという作戦なのだろう。
それでも、沖縄県民は「玉城デニー知事」を再選した。繰り返すが、辺野古基地建設反対の民意を、またしても明確に示したということだ。
すでに「佐喜真氏と下地氏の票を合わせれば、玉城氏に肉薄する」というネット右翼の苦し紛れのツイートが出始めた。しかしよく見れば、両者を合わせても玉城氏には届かない。さらに、下地氏が出なければ、下地氏が獲得した票のうち、8割が佐喜真氏、2割は玉城氏に流れただろうという分析もある。
それに従えば、仮に下地氏が出馬しなければ、玉城氏は約35万票、佐喜真氏は約31万票となる。なお4万票の大差がつくわけだ。
確かに、沖縄では近年、オール沖縄陣営にかつての勢いはなく、その分、自民党が復活しつつあると言われていた。だが、これらの結果を見ると、自民党の退潮は疑いようがない。
自民退潮、沖縄から全国へ
折しも、今度は朝日新聞の調査で、岸田内閣の支持率の激減ぶりが、またもあぶり出された(9月10、11日調査)。
岸田内閣支持 41%(前回47%)
同不支持 47%(前回39%)
とくに、不支持の増加ぶりが目につく。
毎日新聞の調査(8月20、21日調査)の支持36%という衝撃には及ばぬものの、この朝日の調査も岸田氏には痛撃だろう。
自民党内閣の退潮は、沖縄だけではなく、全国へ波及しつつある。
本来なら、攻める野党には絶好のチャンス到来なのだが、立憲民主党・泉代表の優柔不断に自民党は救われている。
そろそろ、もう少しまともな政治を見たい。