第42回:「原発事故避難者住まいの権利裁判」傍聴記「子どもたちの安全安心に暮らせる権利を守りたい」(渡辺一枝)

◎原発事故避難者住まいの権利裁判 第2回口頭弁論

 10月31日、東京地裁で「原発事故避難者住まいの権利裁判」の第2回口頭弁論が開かれ、傍聴してきました。
 この裁判は東電原発事故による避難指示区域外から国家公務員住宅に避難した世帯に、福島県が家賃の2倍の損害金を請求し、退去届の提出を求めていることに対して、避難者たちが避難の権利と生存権、居住権を訴えて闘っている裁判です。
 福島県は原発事故被害者である避難者に対して退去するよう個別の圧力をかけるばかりでなく、避難者の親族を訪問してまで退去を迫り、また職場に連絡をして避難者の怠慢であるかのように伝え、家族や職場からの分断を図っています。これに対して原発事故被害者である避難者11名が、事故から11年目の節目である2022年3月11日に福島県に対して精神的賠償と居住権を求めて裁判に訴えたのです。しかしまた福島県議会が、避難者に対して明け渡し要求の裁判を起こすことを可決したため、避難者の原告らは明け渡し・支払いの義務がないことの確認を求める追加提訴を行いました。
 避難者を救済すべき行政が避難者を被告に訴え、住居を奪い、精神的にも追い詰めるなど、到底許されることではありません。ですから、県が訴えを起こす前に、こちらから提訴したのです。
 以下、当日の様子をお伝えします。

●10月31日、東京地裁

 裁判は14時から開廷だが、13時から東京地裁前ではアピール行動が行われた。原告・代理人弁護士・支援者らが「原発事故避難者 住まいの権利裁判 避難者の居住権を守れ!」の横断幕を掲げて立ち、スピーチをした。つい先日亡くなった原告Aさんの遺影を抱いて立つ支援者の姿もあった。
 103号法廷は傍聴席98席だが、この日の傍聴希望者は89名だったため抽選はなく、私も傍聴できた。原告席には弁護団長の井戸謙一弁護士をはじめとする弁護団と原告が座っていて、頼もしい。
 この裁判の第1回口頭弁論期日も傍聴したが、その時は被告席には県の代理人弁護士の姿はなく、被告席が空っぽのままだった。被告が臨席しないのは違法ではないが、この裁判に関しては被告席が無人の状態は、被告である県の姿勢があまりにも酷く思えて憤りを感じた。
 だが第2回口頭弁論のこの日は、被告席には県側の代理人が一人座った。名前は知らないが、福島地裁で係争中の、県が避難者を訴えた「アベコベ裁判(冒頭でも触れた、福島県が避難者に明け渡しを求めて訴えた裁判のこと)」で、原告側の席にいつもいる人だった。
 裁判は裁判長が、原告と被告双方の代理人に対して書面を確認するところから始まり、その後、原告代理人の意見陳述となった。

●原告側主張

 原告代理人の弁護士たちはまず、被告が原告らの親族に原告の立ち退きを求めたことの違法性を主張した(以下、代理人の発言は陳述書より引用)。
 「被告は国家公務員宿舎から立ち退くことができない区域外避難者の親族の氏名、住所を調べあげて、訪問または郵便で、原告が立ち退くように説得することを求めた。そして立ち退きを引き延ばしていることは、原告の怠慢であるかのように親族や原告の職場に言った。こうした被告の行為は、避難生活を送っている原告らに二重の苦痛と精神的な負担を及ぼし、平穏な生活を脅かし、著しく個人の尊厳を傷つけるもので、市民法秩序を逸脱する行為として違法である」として、原告ら個人の一人ひとりがどのような被害を被ったかについて具体的に述べた。
 「ある原告の場合は、その実家に手紙を送付して、原告が立ち退いていないことを告げ、また原告の仕事中に電話をして原告が『仕事中なので対応できない』と伝えても電話を切らなかった。これは原告を非常に困惑させ、また不安にもさせた。
 また別の原告の一人はセーフティネット契約(有償で2年間の居住を認める契約)時に、緊急時連絡先として姉の名と住所を書いた。被告はその姉に『原告が退去するよう説得してほしい。退去しない場合は法的手段を取ることがある』と脅しめいた手紙を送付した。姉は緊急時連絡先として書かれていた住所からは転居していたのだが、その新住所を調べ上げてまで手紙を出している。そればかりか被告は、マスコミに対して『原告ら避難者が賃料も払わず国家公務員住宅に居座っている』と公表している」
 他の原告についても一人ひとりにどのような被害があったのかが具体的に述べられた。
 また、原告らの親族の氏名・住所を調べた方法の違法性について、代理人は次のように述べた。

 「被告が、原告らの親族の氏名や住所を調べた方法は、申請の目的を『災害救助法第4条に基づく応急仮設住宅の入居者調査のため』であるとして、各自治体に対して住民票等の交付請求を行った。

  • しかし、この方法は違法である。災害救助法第4条は「避難所及び応急仮設住宅の供与」のために規定されたものであり、これによって親族の氏名や住所を調査する根拠とはならない。
  • また、すでに原告らに対する災害救助法による国家公務員住宅の無償提供は終了しており、被告が独自に行ったセーフティネット契約を原告との間で締結していたのであり、この点からしても災害救助法を根拠に親族の氏名・住所を調べる根拠とはなり得ない。
  • 申請目的が「災害救助法第4条に基づく応急仮設住宅の入居者の調査のため」としているのに、入居者の調査ではなく入居者の親族調査のために利用していることも目的を逸脱した行為である。
  • 被告は戸籍法12条の2第2項を根拠条文にして各自治体に戸籍謄本等を請求しているが、同法同条項は「根拠となる法令の条項並びに戸籍の記載事項の利用の目的を明らかにしてこれを行わなければならない」と規定しており、被告は利用目的を逸脱して入居者の親族調査に利用しており、これは戸籍法にも反する行為である。

 このように法の趣旨に反し、根拠ともならない法律を根拠とし、申請目的まで捻じ曲げて原告らの親族の氏名や住所を調べている。親族の氏名・住所を調べた行為自体も法律に基づいて行われるべき行政からかけ離れた違法な行為であり、強く非難されるべきで、被告の責任は免れない」

 原告らの損害についても、代理人は次のように述べた。

 「被告から手紙をもらったり訪問されたりした原告の親族は、いずれもセーフティネット契約の連帯保証人ではない。そもそもセーフティネット契約には連帯保証人が付されていない。したがって原告らが賃料を滞納していたとしても、親族は何ら義務を負ってはいない。
 にもかかわらず被告は、何の義務もない親族に対し手紙を送付し、訪問し、『貴殿からも速やかに国家公務員宿舎から転居されるよう、特別のお力添えをお願いします』などと告げ、退去しない場合は法的手続きを取るなど脅し文句を用いて、強制的に退去させるよう迫ったのである。
 また被告が、『家賃の未納分がある』という原告らが他人に知られたくない情報を家族に伝えたことはプライバシーを侵害する行為である。原告らには代理人が付いており、被告からは代理人に対しても原告らの家賃の未納分の通知と早期転居を迫る通知が送付されていたのに、重ねて親族らに手紙の送付や訪問を行ったのである。これは原告らに対しての嫌がらせを行ったと言わざるを得ない。
 被告による親族に対してのこうした行為によって原告らは、『親族にまで迷惑をかけてしまった』との思いを抱くことになり屈辱的な気分を味わった。また、親族から強く責められたり、親族との関係に多大な悪影響を与えた。特に地縁血縁関係の強い地方での被告のこのような行為は、原告に関する良からぬ噂を地域に広げ、地元に帰ることを一層困難にした。
 被告のこのような行為は強く非難されるべきである」

●原告意見陳述 原告Iさん

 2018年、県からの家賃2倍の損害金請求及び転居届提出の求めに、まだ放射線量が十分に下がっていない自宅に戻ったり、他の場所に引っ越した避難者もいるが、避難先に留まらざるを得ない人たちは残った。福島県はそのような行き場のない避難者たちに対して、追い出しの攻勢をかけている。原告の一人、Iさんも、その対象にされている。郡山に自宅があったIさんは原発事故後、夫だけが仕事先がある郡山に残り、Iさんは当時2歳と1歳の2人の子どもを連れて埼玉県の国家公務員宿舎に母子避難をした。

 この日の裁判後、報告集会で配布された原告陳述書を以下に転記する〈()内は渡辺による注釈〉。

 
 東日本大震災前、私の夫は郡山市内の中学校に勤務。私は店舗兼住宅でペットショップを経営。震災の時、私は三男を妊娠中で、長男(保育園児2歳)、次男(1歳)と犬数匹と生活しておりました。
 東日本大震災で、原発から放射能が出たことで被ばくが心配になり、震災直後から週末保養に出るようにし、岩手・宮城・山形・新潟など実際に訪れて避難先を検討していましたが、結局は生活費を得るために、夫が職を辞めるわけにはいかないので、通いやすい場所として埼玉を選びました。生活費は、主に夫の給与と貯蓄を切り崩して当てていました。2014年、避難先で4番目の子どもを授かりましたが、1678gの低体重と「フクシマ・ハート」と呼ばれるような、完全型の房室中隔欠損症で生まれてきました。生後半年で開胸を伴う大きな手術を数回乗り越え、根治術を終了。現在は年1回の検診で運動制限もなく元気に過ごしています。
 私は2003年の28歳から神経の指定難病である多発性硬化症を患い、昨年からは自己免疫疾患の指定難病であるシェーグレン症候群の認定を受けて、通院検査投薬が必須。薬による副作用がつらく、鬱病にもなりました。
 夫は、2003年から拡張型心筋症で通院検査投薬が必須。薬の効果があって症状は安定しています。しかし、今年4月に下血して、直腸がんを発見。リンパ転移があり人工肛門になりました。体重も10キロ以上減り、体が抗がん剤の副作用で悲鳴をあげていても、職を失えないので働くしかありません。白血球の数値が基準値を下がっていても、治療が続くのでコロナへのストレスを強く受けています。
 2016年7月17日、東京で開かれた「原発事故子ども被災者支援法基本方針決定」の説明会に夫が参加して、夫の質問に復興庁の佐藤参事官や浜田副大臣から「安心して下さい。今後は福島県がしっかり対応していきます」「子供は転校しないで大丈夫です」と答えたことを聞いていたので、少し安堵感はありました。しかし、埼玉県内での福島県の説明会は福島への帰還だけでしたので不安も募りました。民間(住宅)への引越しといっても、元気な男の子4人を抱えて賃貸(住宅)に入ることは、騒がしくて苦情が出るのは見えており、無謀でした。多額の借金をして家を建てる勇気もありませんでした。子どもが通う学区内の住宅を扱う不動産屋を積極的に見て回っていますが、銀行のローン審査は通りません。
 途方に暮れていたところ、福島県から説明もなく、書類だけが届きました。セーフティネット契約をすれば、有償だが住み続けられるという話です。書類を司法書士や弁護士に見てもらうと、契約書として無効との意見が出ました。中でも驚いたのは(契約書の)第12条で、天災その他で建物が損壊し他人に損害を与えた時は、居住者が責任を負えという内容でした。東京都でも同じ疑問を抱いている方が、県の担当者と話し合うというので、夫が話し合いに参加しました。そこで「第12条で損害を与えたとしても請求はしない」と説明されましたが、口約束ではなく文面が欲しいと要望するも、拒否。県議会で12条(について)の質問が出たので請求しないと答弁しているから大丈夫だと説明されました。それを聞いていた地元の市議会議員が、「議会での答弁は、次の議会でひっくり返ったら無効になる」と発言。県の担当者は怒号をあげて怒り出し、話し合いは平行線のまま終わりました。
 私や(他の)避難者側としては、県が書面で約束してから契約書にサインという認識でしたが、2017年終わり頃、福島県は通告もなく、一方的に私を調停の対象者リストにあげ、福島県議会に出そうとしました。県は私が継続入居の意思を示しながら契約書にサインしていないからと、サインの実行と家賃相当分の支払いを申し立てたのです。福島県議会の議題の資料に我が家の名前が印刷されました。
 セーフティネット(契約)の22条に「裁判は福島で行う」と書いてあるため、もし福島の裁判所に引っ張り出されれば4人の子どもたちに迷惑が掛かる。夫の職場・地元・親戚からもとやかく言われるかもしれない。弁護士はどう頼めば良いのだろうと悩んだ末、苦渋の選択でサインすることにしました。その際、12条を二重線で消して訂正印を押して提出したところ却下されたので、仕方なくそのまま押印して新たに出したところ、議会の書面から我が家の名前は消えました。
 次の2018年は、県から説明もなく家賃が値上げされました。理由を聞くと、国の指示だというのです。関西で大きな地震があり小学校の塀が倒れて子どもが亡くなる痛ましいことが起こった直後、新しい契約書が送られてきました。中を見ると、12条から「天災その他の理由」が消えていました。不信感しか湧きませんでした。
 形式と言われた契約書を根拠に、この度福島県から家賃の2倍相当の請求がなされたことは、役人の手練手管にしてやられたという気持ちで、信用失墜行為と思います。
 私たち家族が住む住宅に住み続ける家庭は少なくなり、共益金等の負担が増えます。部屋と駐車場の契約なのに、広大な敷地の管理は無理があります。これについて配慮やサポートがあっても良いのではないでしょうか。また、家賃を払っているので、築50年の換気の悪い住宅に発生した結露による壁のカビや腐った畳の改善を要求したら、県から自分で掃除するようにと回答されました。県には家賃分の管理責任は無いのだろうか? と疑問でした。共益金の負担額や清掃活動は、一般的な集合住宅並に抑えられるような配慮があってもいいのでは無いだろうか? 人権に対する意識の低さを感じました。
 2019年、福島県から、転居しない(ことに対する)罰則として家賃の2倍の請求が来ました。県は、事故を起こした東京電力には強気に出ないのに、避難者には情けも容赦もありません。今まで通りの家賃を払いたいという私どもからの話は却下され、家賃を払う意思はあるので、法務局に供託したかったけれどそれも拒否され、民間のサポートをしてくれる団体に家賃分を供託する形を取りましたが、手数料も発生するので、自分の口座に家賃2倍分の金銭を残すようにしました。その支出は家計を逼迫させました。子どもにお金がかかる時期なので、とても苦しい生活です。それとともに夫は、定年に合わせて支出を切り詰めるために、保険の解約を始めました。一番最初の更新は、がん保険でした。契約更新を見送った直後に夫のがんが見つかりました。不運としか言えません。
 福島県の担当者は、「良い話がある」と言って夫の住む郡山の自宅に訪問します。我が家の資産を調べて、郡山の自宅を売るか、空き家にして賃貸にすることを勧めます。「犬と暮らしているのだが」と夫が言うと、「処分すれば」と言います。犬を家族と思う夫には受け入れられる話ではありません。
 「自宅を売って、埼玉に家を購入すると、今後経済的に立ち行かなくなるのだけれど、どうすれば良いのか」と聞くと、「公務員住宅を出てくれれば良い」という回答。「公務員住宅を出た人たちのその後は、サポートしていますか?」と聞くと、「知らない」と言う。自殺した人の話を聞くのだけれど担当者は「関知していない」と言う。2倍家賃などの支払いは、担当者が「毎月少しずつでも良い」と言うので夫が「では月に1万円でお願いします」と言うと、前言を撤回。話し合いができる相手ではありません。自助努力だけでなく、具体的に引越しの出来るようなサポートをして欲しい。
 2020年12月、郡山へ住む私の母の元へ福島県から、「あなたの娘が不都合を起こしたから」といった封書が届きました。そして文面には(県庁の)電話番号が載っていて、少し認知症気味の母が県庁に電話をかければ、驚いてお金をかき集めて2倍の損害金を支払ったかもしれません。幸いなことに、母は私に「変な手紙が来た」と連絡をくれただけでした。
 郡山にいる夫にこの手紙の回収を頼みました。夫は回収の時に母と同居する(私の)弟と遭遇。「コロナが流行っているこの時期に高齢の母を訪問するなんて非常識だ」と罵られました。以後、夫と弟は疎遠になりました。家族の不和を作って、何か良いことはあるのでしょうか?
 母の連絡先は、県に提出した書類のどこにも記載していないので、夫は郡山市に、我が家の住民票や戸籍を照会した事実があるかどうかを問い合わせると、「災害救助法」を理由に照会していたことが分かりました。親は災害救助法の対象ではないのに、親に圧力をかける手段として使うのは合法なのでしょうか
 もし復興公営住宅が、福島県内だけでなく避難先の学区内にもつくられていったのなら、この裁判は必要ありませんでした。
 避難を選択したことで、子どもたちの健康は守られています。しかし、大きな精神的経済的苦痛を受けました、それをまた受けないように、子どもたちの安全安心に暮らせる権利を守りたいのです。来日した国連人権理事会の方が、国際人権法の話をされていました。(この裁判のように)福島県が国内避難民を訴える裁判を不当と話されていました。県の求める立ち退きを実行することは経済的に困難なので、我が家にあった支援として継続入居を願っております。国際人権法を認めてください。そして、国内避難民として適切な保護を望みます。
 ご清聴ありがとうございました。
 

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渡辺一枝
わたなべ・いちえ:1945年1月、ハルピン生まれ。1987年3月まで東京近郊の保育園で保育士として働き、退職後は旧満洲各地に残留邦人を訪ね、またチベット、モンゴルへの旅を重ね作家活動に入る。2011年8月から毎月福島に通い、被災現地と被災者を訪ねている。著書に『自転車いっぱい花かごにして』『時計のない保育園』『王様の耳はロバの耳』『桜を恋う人』『ハルビン回帰行』『チベットを馬で行く』『私と同じ黒い目のひと』『消されゆくチベット』『聞き書き南相馬』『ふくしま 人のものがたり』他多数。写真集『風の馬』『ツァンパで朝食を』『チベット 祈りの色相、暮らしの色彩』、絵本『こぶたがずんずん』(長新太との共著)など。