第619回:「餓死・孤独死も人ごととは思えない」「自殺するしかない」「睡眠薬を飲んで寒い公園で死ぬことを考える」〜民間のボランティアに丸投げせず、国は責任を果たして〜の巻(雨宮処凛)

 「80代男性。夫婦で年金生活。物価高、医療費負担増で生活が苦しい」

 「50代男性。単身。死にたい。睡眠薬を飲んで寒い公園で死ぬことを考える。コロナでタクシー運転手の収入が半減し、今は17万しかなく、10万の住宅ローンを支払うと生活が厳しい。物価も高騰し、1日1食で、毎日豆腐とうどんしか食べていない」

 「70代女性。単身。年金が月13万円、タクシー運転手の給与が月9万円だった。昨年、コロナ打撃を受け、会社が倒産した。住宅ローンもあり、年金だけではやっていけず、特例貸付を110万円借りた。来年1月から償還が始まるが、返したくても返せない。仕事も失い、生きる目標・希望もなく、明日死んでもいい気持ちだし、餓死・孤独死も人ごとと思えない」

 「80代男性。前立腺がん。年金生活。週に一回だけ買い物をしている。自分で食べたいものも買えない。電気代もずっと上がっている。自殺するしかないという気持ち」

 「70代女性。年金6万円。光熱水費が高くて生活できない」

 これらの言葉は、10月22日に開催された「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」に寄せられたものだ。

 全国で弁護士などが無料で電話を受けるこの相談会は、コロナ禍すぐの2020年4月に始まり、これまで隔月で開催されてきた。10月の相談は実に16回目。

 私もこの相談会で相談員をつとめてきたのだが(ここ数回は予定が合わず参加できていないが)、10月22日、この相談会で受けた相談件数は774件。この日は高齢者からの相談が多く、70代以上が45.2%と過去最多。また無職率も過去最多で68%になった。それだけ仕事を失う人が増えているということだ。

 電話相談には、生活保護を利用する人々からの悲鳴も寄せられた。13年からの生活保護基準引き下げにより利用者たちは生活苦に喘いできたのだが、そこを今、物価高が直撃しているのである。

 「60代男性。生活保護を受給中。今日で5日間、食事ができていない」

 「相次ぐ保護費の引き下げと物価高で生活していけない。これ以上どこを削ればいいのか」

 「70代男性。三食食べられない。毎日風呂に入れない」

 「60代女性。電気が使えない。100均の懐中電灯を使っている。弁当を半分ずつ食べている」

 「60代女性。単身。生活保護利用中。物価高騰で例えばコロッケが50円から100円に値上げ。トイレットペーパー、ティッシュなどの紙製品、パン類、麺類など幅広い品物が値上げされ、生活保護費だけでやっていくのが以前にも増して厳しい。電気・ガスも値上げ」

 また、生活保護の水際作戦にあったという事例も寄せられた。

 「60代女性。2人世帯。夫婦合わせて年金が月額11万円だけで、物価高もあり生活が苦しい。区役所に行ったら、怒られて追い返された」

 「60代男性。単身。行くところがないので火事になった自宅で生活。火元が風呂だったので風呂に入れない。精神障害があり障害年金月7万円で生活しているが、物価高騰で生活に困り社協の食料支援を受けている。福祉に相談したら持ち家だと生活保護は受けられないと言われた」

 「80代男性。がん治療中。治療費がかさむ。市役所にも相談に行ったがあてにならず、就労支援を勧められた。物価が上がり生活できない」

 80代のがん治療中の男性に生活保護ではなく就労支援を勧めるとは一体どういうことなのだろう。非道、という言葉が浮かぶのは私だけではないはずだ。持ち家があると生活保護は受けられないと断られた人の話もあるが、持ち家は二千数百万円くらいの資産価値であれば、そのままそこに住みながら生活保護を利用することができる。

 さて、ここまで紹介したように、今回の相談では高齢者からの悲鳴が多く聞かれたが、そんな高齢者をいじめるような事態が進行していることをご存知だろうか。今年10月から、一定の所得がある75歳以上の医療費の自己負担が1割から2割になったのだ。

 前回の原稿でも75歳以上の生活保護基準引き下げが懸念されることに触れたが、その理由をざっくり言うと、「生活保護を受けていない高齢者はもっと貧しいじゃないか」というもの。

 が、その根拠となるサンプルはごく少数。また、高齢者の中には上に書いたように水際作戦によって生活保護から排除されている人もいれば、「生活保護だけは受けたくない」と強い忌避感を持つ人もいる。そこと比較して保護基準を引き下げるなんてことは絶対にあってはならないことだが、12月15日、生活保護引き下げは当面見送りという報道が出て、ひとまず胸を撫で下ろした。

 ちなみに生活保護を利用する人における高齢者の割合は高く、半数以上が65歳以上の高齢者。厚生労働省の「被保護者調査」(2019年)によると、「高齢者世帯」は55.6%。とにかく社会保障費を削りたい政権にとって、保護世帯の半数を占める高齢者の保護基準引き下げは「手っ取り早く削れる部分」なのだろう。が、それによって一人ひとりの生活は今以上に破壊される。なぜ、そこをしっかり見ようとしないのか。もう見捨てているとしか思えない。

 「働けるのに怠けている」などの批判を浴びやすい生活保護だが、「高齢者世帯」55.6%についで多いのが「障害者・傷病者世帯」で25.3%。実に高齢者と病気や障害で働けない人で80.9%を占めるのだ。

 電話相談では2年半以上にわたって人々の悲鳴を受け止めてきたわけだが、今年6月、20年4月から22年4月までの2年間・13回分の電話相談を報告する院内集会が開催された。

 そこで発表されたデータによると、13回までの相談総数は1万2936件。男性は56%、女性は43.2%。世代別で見ると、もっとも多いのは50代で27.3%。

 正規・非正規の割合を見ると、約7割が非正規。時系列で辿ると2年かけて無職者の割合がじわじわと増えているのがわかる。20年6月には25.1%だったのが、1年後には47.8%となり、22年4月には54.6%にまで増えている。コロナによって仕事を失い、それが長期化しているという相談も増えている。

 相談者の月収はどうなっているのかというと、13回の平均で「10万円以下」が65.9%。「10〜20万円」が24.2%。厳しい状況が伝わってくる。

 一方、所持金は、平均で1万円以下が36.3%。コロナ禍初期の20年6月では1万円以下の人は18.5%だったものの、22年4月では43.6%に増えている。

 残金は減っている一方、増えているのは「借金・滞納」だ。

 「貧困研究会」の後藤広史氏(立教大学教授)は3〜12回の電話相談の5592件を分析しているのだが、それによると、借金や滞納が「あり」と回答したのは17.2%。

 そのうちもっとも多いのは「借金」で314人。ついで「その他」で170人。これはカードローンや奨学金が多いという。次に多いのは「住宅ローン」で165人。その次は「家賃」で151人。そこから「公的保険料(医療・年金)」119人、「公共料金」110人、「税」103人と続く。

 また、コロナ禍2年目から増えたのは、自身や家族が感染したことによる困窮の相談だ。

 「感染で仕事を休んだことでクビになった」「濃厚接触者となって自宅待機を命じられたがなんの保証もない」「高齢の夫がコロナで死亡し、生活が苦しい」など。

 電話相談ではないが、第5波以降増えているのは、路上からSOSメールをくれた人が発熱していたケースだ。住まいも住民票も保険証もない人の陽性が疑われた場合、速やかに病院や療養ホテルに入れる仕組みが必要なわけだが、第8波だというのにこれもいまだに確立していない。

 さて、このように、民間には困窮者の悲鳴が多く届き、そのデータもある。電話相談の実行委員会はこのデータをもとに政策提言もしている。

 私もコロナ禍での政府交渉にこれまで5回ほど参加し、実態を訴えてきた。そのたびに主張するのは、「実態調査をすることの必要性」だ。実情を把握していなければ、政策など打ち出せない。が、それができているとは到底言えない状態だ。だからこそこういった民間のデータを活用し、使い勝手のよい支援策を打ち出してほしいのだが、政治の目が向けられているのは「旅行支援」など余裕がある層への優遇策ばかりで、困窮者の存在を忘れているようにすら感じる。

 ちなみに、来月からはある制度を利用した困窮者にとって一層厳しい状況が訪れる。

 それは国の特例貸付。この返済が23年1月から始まるのだ。コロナ禍で多くの人が利用した特例貸付は緊急小口資金や総合支援資金という名前。最大で200万円が貸し付けられたのだが、そのツケがとうとう回ってくるというわけだ。

 この制度には、「貧しい人に借金させるのか」「コロナ禍での国のメインの困窮者支援策が給付ではなく貸付とは何事か」と批判も多かったのだが、貸付総数は約335万件で総額は1兆4268億円。住民税非課税世帯などは返済が免除されるが、すでに10月の時点で免除申請は貸付を受けた人の3割以上にのぼっている。また、自己破産も7500件以上確認されている。返済免除の対象はもっともっと拡大されるべきだろう。

 今回は電話相談に寄せられた声について書いてきたが、3年近くにわたって困窮者の悲鳴を受けとめてきた「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」は12月17日の相談会をもって終わりとなった。

 よく3年近くも、全員がボランティアという形で続いてきたと思う。しかも電話相談をするたびに毎回40〜50万円の経費がかかってきたのだ。

 隔月での開催はなくなるが、各地域での取り組みは続くし、今後も全国一斉の電話相談が開催される可能性はある。しかし、このような形では一区切りとなったのだ。

 ということで、コロナ禍3回目の年の瀬、民間がボランティアでやってきた支援が終わったり、規模が縮小したりするケースが相次いでいる。

 今年の年末年始は、昨年や一昨年ほどには相談会などは開催されないという情報も耳にしている。コロナ禍の3年近く、ずっと「野戦病院」状態で続いてきた民間の支援だが、ここに来てボランティアで活動を続けるのも限界になっている団体や支援者が増えている。

 というか、そもそも本来であれば公助がやるべきことなのだ。しかし、あまりにも支援が遅く乏しいので、これまで民間が身銭を切るような形で自身の生活を犠牲にして活動してきた。

 しかし、こんなことは当たり前だが続かない。

 国はそろそろ、公助に本気を出してほしい。そうでなきゃ、多くの命が失われてしまう。ボランティアが息切れしつつある今、まさに国の姿勢が問われている。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。