第121回:「言語道断」なのは岸田首相の差別的姿勢と政策である(想田和弘)

 荒井勝喜・首相秘書官が2月3日、オフレコを前提とした記者団の取材に対して、LGBTQや同性婚について「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言した。

 岸田文雄首相はその報道を受けて、「岸田政権は、持続可能で多様性を認め合う、包摂的な社会を目指すと申し上げてきた。荒井秘書官の発言はそうした政権の方針とは全く相いれないものであり、言語道断だ」などと述べ、秘書官を更迭した。

 更迭は当然である。

 だが、なんだかおかしくないか。

 そもそも首相は2月1日、衆院予算委員会で立憲民主党の西村智奈美代表代行が同性婚の法制化を求めたのに対し、「家族観や価値観、社会が変わってしまう」などと答弁し、否定的な見解を示していた。

 岸田政権が首相の言うように「持続可能で多様性を認め合う、包摂的な社会を目指す」のであれば、当然、同性婚の法制化は積極的に進めるべきであろう。しかし同性婚を進めるどころか、反対するのであれば、岸田政権は「持続可能で多様性を認め合う、包摂的な社会」など望んでいないということになる。

 いや、もっと言えば、首相はLGBTQの人たちを明確に差別している。なぜなら、誰にでも当然認められるべき婚姻の自由と権利を、同性愛者の人たちに対してだけ、否定しているのだから。

 これが差別でなくて、いったいなんなのか。

 つまり今回の問題の本質は、首相秘書官の「失言」などではない。日本の差別的な法制度と、その修正を拒む岸田政権の差別的な姿勢と政策こそ「言語道断」なのであり、問題の根幹なのである。

 荒井秘書官は、首相の姿勢と行動を、そのまま正直に言語化したにすぎない。首相は荒井秘書官を更迭するのなら、自分自身も更迭しなければ筋が通らない。

 それが嫌なら、さっさと同性婚の法制化を進めなさいよ、岸田さん。結婚したいのに不当に結婚を阻まれている人たちが、たくさんいるのです。ついでに夫婦同姓別姓選択制についても、さっさと実現してください。「多様性を認め合う、包摂的な社会を目指す」のならね。

 その人の本音を表すのは、言葉よりも行動である。

 自分は差別主義者ではないと言うのなら、行動で示してください。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。