第625回:入管法改定案が再提出? それよりも、この国に生きるすべての人の生存権を守る法律を。の巻(雨宮処凛)

 1月26日、私はある記者会見の場にいた。

 それは「入管法改定案再提出に反対する共同声明」記者会見。

 この共同声明には貧困問題や平和、人権問題に関わる89もの団体が賛同。その会見に出席して発言させて頂いたのだ(声明と賛同団体一覧はこちら)。

 入管法と言えば、2021年に改定案が廃案となったことを覚えている人も多いだろう。「難民申請を3回以上行っている人については強制送還の対象とする」「強制送還を拒否した人には刑事罰を科す」など、人権を無視するような内容が盛り込まれていたものだ。難民申請中は強制送還の手続きを停止するという現在の原則を大きく後退させるものであり、若い世代を中心に「あり得ない」という声が広がって廃案に追い込まれたのが2年前。

 そんな悪名高い改定案が、現在、再び国会に提出されようとしているのだ。ということで、急遽の共同声明と記者会見となったわけである。

 この日の記者会見に登壇したのは、主に生活困窮者を支援する面々。

 「つくろい東京ファンド/北関東医療相談会」の大澤優真さん、「反貧困ネットワーク」事務局長の瀬戸大作さん、「反貧困ネットワーク」外国人支援担当の原文次郎さん、医師で「寿医療班」の越智祥太さん、そして「入管問題調査会代表」で弁護士の児玉晃一さん。連帯発言として私も出席させて頂いた。

 なぜ、このような面々が入管法改定案に反対しているのか。それはコロナ禍で困窮した外国人の中に、今回の改定案が通って強制的に帰国させられてしまうと、命を落とす可能性がある人が多く存在するからである。

 この3年間、私も困窮する外国人に出会ってきたが、その多くが様々な事情で母国から逃れ、命からがら日本に来て難民申請をしている人たちだ。ミャンマー、チリ、イラン、そしてアフリカ諸国など、ざっと思い出しただけで多くの国籍の人の顔が浮かぶ。

 しかし、難民認定率1%以下の日本では認定されるのは奇跡に近い。もちろん、彼ら彼女らはそんなことは知らず日本に逃れてきたのだが、場合によっては「非正規滞在」となって入管施設に収容されてしまうこともある。スリランカ人女性・ウィシュマさんが命を落としたあの悪名高い施設だ。

 一方、一時的に収容を解かれて「仮放免」となることもある。仮放免の状態だと、入管の収容施設の外で生活できるものの、就労は認められず、福祉の対象にもならないという「死ね」と言わんばかりの状況に置かれてしまう。

 ちなみに、仮放免でなくとも外国人は永住、定住などの在留資格でない限り、どれほど困窮しても日本の生活保護の対象外。それでも、コロナ以前は同国人のコミュニティなどに支えられてきた。しかし、コロナによって支える側の生活も厳しくなり、困窮する外国人が急増。ついには路上に追い出されるまでになったのである。

 そんな人たちを、この3年間、この日登壇した人たちは支援し続けてきた。

 つくろい東京ファンドの大澤氏は、この日、会見が始まる寸前まで、携帯で外国人への対応をしていた。

 彼がこれまで出会った中には、生活苦から心を蝕まれ、自殺を図った人もいるという。それだけではない。命からがら日本に逃れてきたものの誰のサポートも受けられず、自らの出産が近いのに子連れで路上生活をしている妊婦さんもいるという。住まいがないだけでなく、出産間近なのに病院も決まっていない状態。この会見が終わったら、そのままその人のもとに駆けつけることを話してくれた。

 瀬戸さん、原さんからも外国人の深刻な状況が語られた。反貧困ネットワークではコロナ禍以降、住まいも行き場もない人からのSOSが激増したためシェルターを開設。現在25世帯を受け入れているのだが、そのうち12世帯・15人が外国人。うち4人が路上からの保護だったという。

 日本国籍があれば、生活保護申請をすれば経済的支援はそこで終わる。というか、それ以降、経済的支援をするとそれは「不正受給」に加担することになってしまうのでNGだ。

 しかし、外国人の場合、前述したように、永住・定住の資格でなければ生活保護につなぐことはできない(それも「準用」という形になる)。そうなると、経済的支援は続くことになる。奇跡的に難民認定でもされない限り、ずっとだ。

 この3年間で、反貧困ネットワーク、北関東医療相談会、移住者と連帯する全国ネットワークの3団体で外国人に給付してきた額は、実に1億7000万円。民間の支援団体がそれほどの給付をしていることは異常事態である。が、そうしないと病や飢えで死んでしまう人が出るからやっているのだ。

 そんな中、この入管法改定案が通ってしまったら。なんとか日本に逃れて命を繋いでいる人々は、強制送還の果てに殺害されたり、ひどい弾圧に晒されることになるだろう。

 この日、児玉弁護士は改定案の目的について、難民申請を複数回している人を「濫用者」として帰国させることだと指摘した。

 しかし、なぜ複数回申請がなされるのか。それは先に書いたように、日本の難民認定率が1%以下と極端に少ないからだろう。

 「難民申請を複数回する人を減らしたいなら、難民認定率を諸外国並みにすればいい」

 児玉弁護士の言葉に、一同深く頷いた。日本の1%未満に対して、例えばイギリスは56.56%、カナダは55.38%(21年)。この数字を見れば、日本の異常さがよくわかる。

 今すべきことは、入管法改定案の再提出などではなく、難民認定率を上げること。そしてこの国に生きるすべての人の命を守ることだ。

 そのような理由から、私は入管法の再提出に反対の声を上げる。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。