第637回:「日常」を取り戻しつつある中、「コロナ収束」から取り残される人々。の巻(雨宮処凛)

 「コロナの影響で仕事を失い、2年前から車上生活。道の駅駐車場で生活」(60代男性)

 「単身、パート。家賃が払えず夜勤以外の日は5年間ネットカフェ暮らし。生活保護は働いていたら受けられないと間違った認識でいたため申請したことなし」(50代女性)

 「単身、ホームレス状態。手持ち金400円。知り合いに借金。以前、生活保護を利用したが、グループホームのようなところに入れられて、自分の自由になるお金は8000円だけだった」(20代男性)

 「妻と娘の3人暮らし。自分の年金のみで暮らしており今後のことを考えると経済的な不安が大きい。貯金が無くなったら首をくくるしかないかもしれない」(80代男性)

 「40代の息子の件で相談。妻と子二人の4人暮らし。派遣会社で働いていたが現在は無職。家賃、ガス・水道代を払えず、止められている。本人は相談しても同じだと諦めている」(年齢不明女性)

 「生活費がなくスーパーで廃棄された野菜などを拾って食べている。コロナ特例貸付金を社協(社会福祉協議会)で20万利用した。免除にならないか社協に連絡したがつながらない。返済時期は6月まで延期してもらっている」(80代女性)

 これらの言葉は、ゴールデンウィーク中の4月30日に開催された「いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」に寄せられたものである。全国31都道府県・37会場で開催された相談会、私も東京のリアル相談会の会場で相談員をつとめさせて頂いた。

 ちょうどこのゴールデンウィークが終わったタイミングで新型コロナの扱いは「5類」に移行し、世間には早くもコロナ収束ムードが漂っている。が、紹介した通り、支援現場に寄せられる声はいまだ深刻の一言だ。いくら「コロナ明け」の空気が作られようとも、コロナ禍で、そしてそれ以前から痛みつけられてきた人々の生活はすぐに立て直せるものではない。しかも昨年から公的支援はすごい勢いで後退しており、状況はさらに厳しくなっている。

 元凶のひとつが「特例貸付」。社会福祉協議会による緊急小口資金や総合支援資金のことで、これを借りたという人も多いだろう。コロナ禍で困窮した人に国が最大200万円を貸し出すもので、これまでに330万件に総額で1兆4000億円が貸し出されているのだが、早い人では今年1月から返済が始まっているのだ。

 この特例貸付、支援者らの間では最初から著しく評判が悪かった。コロナ禍で困窮した人へのメインの支援策が給付ではなく「借金を背負わせる」ものだったからだ。

 が、生活保護への忌避感が強いこの国において、「貸付」だからこそ幅広い層に受け入れられたのも事実だ。私自身、相談を受けていて「生活保護を利用するしかないのでは」という方にはそう告げるのだが、「それだけは絶対に嫌だ!」と強い抵抗を示されることも多い。そんな人に特例貸付の説明をすると多くの人がすんなりと利用を決める。給付を受けるのではなく「借りる」ということが、どれほど心理的なハードルを下げるのかを何度も思い知らされた。

 しかし現在、それが多くの人の生活を圧迫している。以下、相談会に寄せられた声だ。

 「単身。年金と自営業(販売業)で生活しているが自営収入が低下し生活が成り立たない。社協の特例貸付も課税世帯のため返済も始まり生活が苦しい」(70代男性)

 「コロナの影響で仕事がなくなった。求職しているがなかなか見つからない。コロナ貸付の返済が苦しい」(60代男性)

 「4人家族、配偶者、こども2人。持ち家。借金あり。特例貸付金返済中。現在の月収1万円。個人請負で工事の仕事をしているが、コロナで仕事が減ってしまった」(40代男性)

 「妻と2人世帯。一戸建て。住宅ローン月11万円、あと3年半。世帯収入は年金と夫のアルバイトで月額22万円程度。コロナ特例貸付を合計80万円借りたが返済困難」(70代男性)

 特例貸付は、住民税非課税などの条件をクリアすれば返済が免除される。が、ギリギリ課税世帯だったためすでに返済が始まり、それが今の生活を圧迫している人たちがいる。また、「現在の月収1万円」というケースは明らかに免除の対象だと思うのだが、免除されるためには申請が必要だ。そのようなことを知らないまま、苦しい中から返済を続けている人も多いのかもしれない。

 また、この相談会には生活保護を利用中の人たちからも多くの悲鳴が寄せられた。

 「生活保護を受給しているが物価高で保護費だけではとても暮らせない」

 「単身、無職、持病で働けず10年以上前から生活保護利用中。食事は完全自炊、酒も喫煙もせずぎりぎりの生活。それでも物価高で生活保護だけでは月の途中でお金が足りなくなる」

 「物価高、電気、ガスの高騰で生活は苦しい。このまま孤独死するのはイヤ」

 猛烈な物価高騰に生活保護利用者も苦しんでいるのだ。

 そんな物価高のすさまじさを示すのが、都内の食品配布に並ぶ人々の数だ。5月27日、毎週土曜日に「もやい」と「新宿ごはんプラス」によって開催されている都庁下の食品配布には、このタイミングで過去最多の749人が並んだという。コロナ以前の10倍以上の数だ。そんな食品配布や炊き出しに並ぶ中には生活保護を利用する人の姿もある。物価高騰で保護費だけでは食べていけないからだ。

 もうひとつ、保護利用者の苦境の背景にあるのは10年前に始まった「生活保護費の引き下げ」だ。

 2014年からこの引き下げを違憲として全国で利用者約1000人が原告となって裁判を戦っていることはこの連載でも触れてきた通りだが、5月末、嬉しい判決が続いた。26日に千葉地裁で、30日に静岡地裁で原告が勝訴したのである。

 これにより、全国21箇所で出た地裁判決は11勝10敗の勝ち越しとなった。生活保護利用者という「持たざる者」が自治体を訴える、まるで「一揆」のような裁判は今、手に汗握るような展開を迎えている。ここまで拮抗すると、どうしたって盛り上がらざるを得ない。

 ということで千葉と静岡の判決を受け、5月31日、原告や弁護団とともに厚労省に要請に赴いた。求めたのは、被告自治体に控訴しないよう指導すること、また保護基準を引き下げ前に戻すことなど。

 次の判決は10月2日、広島地裁だ。この裁判、ぜひ注目し続けてほしい。

 同時に、コロナが5類に移行しても困窮者支援の現場は厳しい状況にあることを覚えておいてほしい。特に収束ムードが高まると「コロナ終わったのに生活苦しいとか自己責任じゃね?」的なムードも高まりかねない。

 また、コロナ禍初期と比較してメディアで取り上げられることも減ったため、支援団体への寄付金も減少している(支えたいという人はぜひ緊急ささえあい基金などへ)。

 このままだと活動が続けられなくなるという声もあちこちから上がり始めている状況だ。

 ぜひ、関心を持ち続けてほしいと思っている。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。