第125回:差し迫る福島第一原発原子炉倒壊の危険性:森重晴雄氏の警告を聞け(想田和弘)

 ここのところ、森重晴雄氏のフェイスブック投稿から目が離せない。

 森重氏は、原子力プラント設計や耐震構造の専門家で、伊方原発3号機の原子炉の据え付け責任者も務めたという技術者である。

 彼によると、福島第一原発一号機の圧力容器を支えているペデスタルがひどく損傷しており、震度6強程度の地震で原子炉そのものが倒壊する恐れがあるという。そしてペデスタルの損傷部分を考えると、原子炉は使用済み核燃料を貯蔵している燃料プールの方向に倒れてプールを損傷し、水が抜けてしまう可能性があるという。

 しかも驚くべきことに、プールにはいまだに使用済み核燃料が380体と新しい燃料が12体残っているそうだ。つまりプールから水が抜けてしまったら、392体もの核燃料が露出し、溶解してしまう。すると周辺には近づけなくなり、燃料デブリも冷やせなくなる。そうなると615体の核燃料を貯蔵している二号機の燃料プールも冷やせなくなり、大量の核燃料が溶解するだろうということだ。

 そうなったら、「福島県内はもちろん、首都圏全体が避難エリアになってしまう可能性も拭えません」(「女性自身」の記事より、森重氏)

 だとしたら、福島原発事故はまったく終わっていないどころか、事故当初よりも重大な危険にさらされているということになる。

 そこで氏は5月10日、川田龍平参議院議員を通じて質問主意書を提出した。

 しかし、それに対して5月19日に出された岸田首相からの回答は、煎じ詰めれば「ペデスタル損傷部が致死線量なので対策のとりようがないとのこと」(森重氏)であった。

 いったいなんという回答だ。

 だが、森重氏によると、原子炉の倒壊を防ぐために打てる、実行可能な方策はあるという。

 「私には策があります。人は膝を故障して倒れそうになると周囲は肩に手を差し出し倒れないようにします。それと同じことを原子炉に施します」(森重氏)

 倒壊する危険性が少しでも存在し、それに対して打てる対策があるのなら、いくら金がかかろうとさっさとやってくれと思うのは、僕だけなのだろうか。

 なにしろ、倒壊したらこの国は終わりなのだ。いや、放射性物質の放出量によっては、終わるのは日本だけではないかもしれない。

 解せないのは、これだけ重大な懸念が指摘されているのにもかかわらず、マスメディアがほとんど報じていないことである。僕が知らないだけかもしれないが、国会に関しても、川田龍平議員以外に積極的に動いている様子も伝え聞かない。

 いったいこれは、どうしたことか。

 思うに、岸田政権が原発推進に舵を切るなか、原発の「安全神話」も同時に復活してしまったのだろう。

 だが、安全神話は神話にすぎず、科学ではない。

 そのことは、2011年3月11日、私たちは痛いほど思い知ったはずなのだ。

 それをもう忘れてしまったのだとしたら、本当に救いようがない。

 僕と同じ懸念を抱く人は、ぜひとも森重氏の警告を拡散してほしい。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。