第645回:全国の大学に広がる「だめライフ愛好会」とはなんなのか。〜中央大学だめライフ愛好会に聞いた。の巻(雨宮処凛)

 あなたは「だめライフ愛好会」を知っているだろうか。

 私が初めてその言葉を目にしたのは数ヶ月前、Twitterでのこと。「中央大学だめライフ愛好会」というアカウントを発見したのがはじまりだった。

 なにやら物好きな大学生がこの社会の窮屈さにささやかな抵抗を始めたのだろうか――。と思っていたら、Twitterには「東海大学だめライフ愛好会」「東京大学だめライフ愛好会」「九州大学だめライフ愛好会」「大阪大学だめライフ愛好会」と、いろんな大学のアカウントがどんどん増えていく。「中央大学だめライフ愛好会」のアカウントによると、その数は2023年7月1日時点で22大学にまで広まっているという。

 「だめ」という言葉でまず頭に浮かぶのは、今年2月に亡くなったぺぺ長谷川さん、そして神長恒一さんが1992年に立ち上げた「だめ連」だ。

 モテない、仕事がない、なんの取り柄もないなどの人たちが「だめ」をこじらせないための場として始まった活動で、メインとなるのは「交流」。90年代から2000年代にかけてメディアでも多く取り上げられ、彼らの「就職しない・結婚しない・できるだけ働かない」という生き方は大きな注目を集めた。

 そんなだめ連は結成以来約30年、ぺぺさんは亡くなるまで、そして神長さんは現在も最低限の賃労働しかせず、路上飲み会やイベントなどで交流を続けている。まさに「だめ界のレジェンド」である。

 もうひとつ浮かぶのは、マガジン9の連載でもおなじみ、松本哉氏が法政大学在学中の97年に立ち上げた「法政の貧乏くささを守る会」。

 当時、全国の大学で進んでいた「小奇麗化」に反対し、また大学を自分たちの居場所にする意図のもと、キャンパスの一画を占領してこたつを持ち込み鍋をする「鍋闘争」などを展開し、大きな注目を集めた。

 それだけではない。キャンパスで貧乏人総決起集会を開き、キャンプファイヤーをし、またビヤガーデンを開いたり、もやし大食い大会や納豆大食い大会などを開催。大学の学長に抗議する際には、学長室の前でくさやを焼く「くさや闘争」を闘った。

 そんな「貧乏くささを守る会」は全国の学生たちの共感を集め、あっという間に13の大学に拡散。各大学での大学貧乏化運動は「全日本貧乏学生総連合」、略して「全貧連」と呼ばれ、こちらもメディアで大きく取り上げられた。

 大学から野に放たれてからの松本氏は、「貧乏人大反乱集団」を結成。文字通りの活動に精を出し、「俺のチャリ返せデモ」や「家賃をタダにしろ一揆」など笑えるデモを多く開催。そのノウハウと機動力によって東日本大震災後にはいち早く「原発やめろデモ!!!!!」を主宰。1万5000人を集め、その後の脱原発デモの起爆剤となった。そんな松本氏は高円寺のリサイクルショップ「素人の乱」の店主でもあり、アジア中に謎の人脈を持っている。

 ということで、だめ連結成から31年、「法政の貧乏くささを守る会」結成から26年。突如出現した「だめライフ愛好会」とはなんなのか。

 中央大学だめライフ愛好会の「【今更】だめライフ愛好会とは?」と題されたnoteには、以下のような言葉がある。

 「おいどんは清潔さで汚されたキャンパスに居心地の悪さを覚えていた。そして、これはなにも大学という箱庭だけの問題ではない。この社会全体に起こっている問題なのである」

 そうして文章は、昔はもっと猥雑な街並みがあり、タバコも色々なところで吸えたとしてこう続く。

 「それがどうしたことだろう。漂白剤を空からばら撒いたかのように、人も、街も、ピカピカに磨かれてしまっている。おいどんのようなダメで汚い人間の居場所が、この社会からどんどん失われていってしまっている。おいどんは、そんな大学の、社会の状況を変えたい。汚さのなかでしか生きられない人々の生きる権利を守りたい。綺麗な奴もいれば汚い奴もいる、それこそが、みんな大好き多様性ではないのか?」

 そんな「中央大学だめライフ愛好会」、これまでの活動は、「自販機小銭拾い」「葉桜を見る会」「90年代の朝まで生テレビ鑑賞会」などなど。

 ということで、「だめライフ愛好会」を一番最初に立ち上げた、「中央大学だめライフ愛好会」の山田さんに話を聞いた。

 取材場所に現れた男性は、しっかり遅刻してきてくれた。

 山田さんとはこの日が初対面。現在20代で令和の学生だというのに、だめ連と同じ系統だと一目でわかった。

 そんな山田さんは、やはり小さな頃から自他ともに認める「だめ」だったという。怠け癖がある、規則正しい生活が送れない、人とうまく関われない——。非常に親近感がわく言葉ではないか。

 しかし、「だめライフ愛好会」を立ち上げるまでは特に何かの活動をしてきたわけではなかった。きっかけは、コロナ禍。

 「自粛しろとかマスクしろとかそういう社会的な圧力が息苦しかったんですね。あんまり右向け右みたいなのが好きじゃなくて。自分以外が圧力をかけてくる生きづらさがありました」

 そんな中、だめライフ愛好会を作るきっかけとなる出来事が22年、勃発。なんでもゼミメンバーから山田さんのだらしなさについてみんなの前で「糾弾」がなされたのだという。

 それは「きわめて学校的で管理的な鬱陶しい」糾弾で、「逆張り的捻くれ者であるおいどんは堕落主義を急速に先鋭化させていき、『だめで何が悪い!』と開き直った」(noteより)。

 そうして22年11月、「だめライフ愛好会」を結成。学内で「だめライフ愛好会」のビラを貼ると人が寄ってくる。「最初は学内でおしゃべりするだけみたいな、ただだめな人が集まって互助会みたいなノリ」の活動だった。しかし、今年4月、ある花見に行き、「交流の楽しさ」に目覚め、活動のメインを「交流」に。

 大学内で「葉桜を見る会」と称して毎月花見を開催するようになり(別に桜も花もない場所で開催しているという)、学内でのフリーマーケットや闇鍋なども開催。そのような活動をTwitterで発信していると、「だめライフ愛好会」は全国の大学にどんどん広まっていったというのだ。

 「もう毎週のように増えてるので追えてないんですが、今、少なくとも30はあります。東北から九州まで。31、32はあるかな」

 なぜ、これほど急激に「だめライフ愛好会」なるものが広まったのだろうか。感染力が強すぎやしないか。

 「それ僕にもわかんないんですよ。知り合いがやってるとかじゃなくて、全然知らない人が始め出して」

 そうして各大学で、雑草を食べたり、勝手耕作をしたり、ザリガニを採ったり(東大)、カレーやら麻婆豆腐を振舞ったり(東海大学)といった活動が始まった。なんのために? という疑問はこの際置いておこう。

 ちなみに山田さんは最近「就職しないでどうやって生きていくかをみんなで考えよう」というコンセプトで就職座談会を開催。会場である新宿・歌舞伎町のバーにはレジェンドである「だめ連」神長さんをはじめ、学生など30人ほどが来て交流したという。

 そんな山田さんが「だめ連」や「法政の貧乏くささを守る会」を知ったのは数年前。きっかけは、外山恒一氏の本だった。

 「それでネットでも調べて。そういう人たちがいるんだ、面白いなって。見よう見まねで始めました。就職座談会もそのひとつです」

 就職したくないから、どうやって就職しないで生きていくかをみんなで集まってだらだらと喋る。いかにも「だめ連」っぽい企画だ。今度は「性愛」についての座談会をやろうと思っているという。そういえば「だめ連」にも過去、「いちゃいちゃ問題研究会」、通称「いちゃもん研」というのがあったことを思い出す。それにしてもだめ連、ネーミングセンスがいちいち秀逸なのである。

 ちなみに私は松本哉氏の拠点のひとつである高円寺の「なんとかバー」などで「政治(運動)にむちゃくちゃ関心・知識がある若者」に結構会うが、彼らの多くが外山恒一氏の読者であり、彼の政治塾や合宿の経験者である。

 外山恒一氏についてはいろいろな評価があるだろうが、そんな若者たちと話していて痛感するのは、政治的なものに飢えている若い世代は確実に存在すること、そして彼ら彼女らの受け皿や情報入手先が外山恒一氏しかないということだ。あらゆる政党や市民団体が「若者は政治に関心がない」と口にするが、アプローチできていないだけなのではないかと、そんな若者たちと出会うたびに思う。

 さて、昨年11月にたった一人で始めた「だめライフ愛好会」、急拡大した理由は、やはり「だめ」をキーワードにしたことのようだ。

 「だめってすごい広い言葉じゃないですか。その広さ、ゆるさが広まった一因だと思います。これが例えば『アナキズム研究会』とかだったらそんな広がらないですよね。『だめ』って普遍的な名前だからこそ、よくわからない人も始められる」

 そんな山田さんは、かつての大学像への憧れもあるという。

 「今、『だめライフ愛好会』でフリマとか鍋とか花見とか、大学内の衆目に晒される場所でやってるのは、学生が自由に活動できる幅を広げたいという意図があります。見知らぬ人同士のつながりの場を作りたい。身内性の破壊って言ってるんですけど、狭い身内の集団の中でよろしくやってるんじゃなくて、知らない人同士でつるんだ方が楽しいんじゃないかって。かつての大学にあったものを取り戻していこうっていうのもあります」

 結成からわずか8ヶ月。ここまで全国に広まることはまったく予想していなかったそうだが、6月には関東地方の「だめライフ愛好会」5団体が集い、交流を深めたようだ。
 このように、「だめ」連帯は確実に進んでいる。山田さんの人生も相当変わっただろう。

 「楽しいですね。でも、だめライフって、のれん分けとかじゃなくて誰でも勝手に名乗れるので、僕のあずかり知らないところで起きたことまで僕にせいにされそうだなってのはあります(笑)」

 確かに広まれば広まるほどトラブルが起きる確率も上がるわけだが、厳密なルールを作るというのも「だめライフ愛好会」らしくない。

 「人の活動に干渉する気はないので勝手にやったらって感じなんですけど、成りゆき次第ですね」

 ちなみに「だめライフ愛好会」、すでに台湾の大学にもあるらしい。日本人留学生が始めたそうである。

 さて、ここで海外の「だめ」っぽいムーブメントにも目を向けてみると、まず頭に浮かぶのは中国の「寝そべり族」だ。

 数年前から中国の若者たちの間で、就職や結婚をせず、マンションも車も買わず、最低限しか働かない生き方が流行っており、「中国版・だめ連の登場か?」と注目を集めている。

 一方、韓国では90年代から「韓国版・だめ連」と言われる「ペクス連帯」があり、その首謀者は私もよく知っているが、本当に、万人が認めるだめな人間である。

 他にも、フィリピンでは「タンバイ」(働かない人)、シンガポールでは「BBFA」と呼ばれる動きが寝そべりやだめ連と共通すると一部で注目されている。

 このように、現在、世界各地で同時多発的に「寝そべり」や「だめ」や「あまり働かない」というムーブメントが起きていることは非常に興味深く、喜ばしいことである。

 だいたい、人間は経済成長なんかのために生きてるわけではないのに、日本だけを見ても多くの人が「働く」ことでどれほど心身を破壊されていることか。新自由主義が猛威を振るい、どんなに頑張っても一定数は報われない格差社会の中、このような「正気を取り戻す」運動が出てくるのは当然のことだと思うのだ。

 そうして満を持して、「だめライフ愛好会」が結成され、全国各地に増殖しているのである。山田さんも「世界とも連帯していきたい」と前向きだ。

 さて、そんな山田さんに今後やりたいことを聞くと、「そうめんとかやりたいですね」とのこと。

 ぜひ、この夏にはそうめん交流を実現してほしいものである。その時には、薬味を持って駆けつける所存である。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。格差・貧困問題、脱原発運動にも取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『ロスジェネのすべて』(あけび書房)、『相模原事件裁判傍聴記 「役に立ちたい」と「障害者ヘイト」のあいだ』(太田出版)。「反貧困ネットワーク」世話人、「週刊金曜日」編集委員、フリーター全般労働組合組合員。