第654回:「私は人間の顔をした動物ですか?」〜イスラエル大使館前に響いた悲痛な声。の巻(雨宮処凛)

 「ISRAEL TERRORIST!」
 「FREE FREE PALESTINE!」

 10月13日午後、イスラエル大使館前にそんな声が響き渡った。

 この日開催されたのは、日本のムスリムコミュニティによる抗議デモ。

 10月7日、パレスチナの武装組織ハマスによるかつてない規模のイスラエルへの攻撃は、世界中に衝撃を与えた。

 ネット上にはフェス会場から連れ去られる人々の映像などが溢れ、世界中が突然の蛮行に言葉を失った。

 一方、イスラエル側は猛烈な報復攻撃を開始。空爆の回数は6日間で6000回にも上る。この原稿を書いている現在も、双方の死者数は増え続けるばかりだ。

 イスラエルのガラント国防相は9日、「我々は人間の顔をした動物と戦っている」とし、ハマスが実効支配するガザを完全包囲して電気、食料、水、ガスを遮断すると宣言。また13日、イスラエル軍はガザ地区の住民110万人に対して退避を要求したものの、ガザ地区とエジプトをつなぐ唯一の通路は空襲によって途切れるなど現地は大混乱の様子だ。

 イスラエルがつくった塀やフェンスに囲まれ、「天井のない監獄」と呼ばれてきたガザ地区。今回の攻撃前から出入りの自由はなく、多くの人が貧困ライン以下の暮らしを強いられてきた。そんなガザ地区に暮らす人々が今、イスラエルの激しい空爆に晒され、またライフラインも途切れ食料も尽きる中、命の危険に晒されている。

 ハマスの蛮行は許されるものではない。しかし、ガザ地区に住む民間人には殺される理由などない。イスラエルとの圧倒的な力の差の前で、パレスチナの人々が殺されていくのを世界は傍観するしかできないのだろうか一一。

 悶々としていたところ、13日に日本のムスリムコミュニティが抗議デモをすると知り、駆けつけた。開始時間の15時少し過ぎ、麹町駅に着くと、大きな声が聞こえてきた。地上に出ると、目の前にはイスラムの衣装をまとった人、人、人。白く長い服に身を包んだ男性、イスラム独特の白い帽子をかぶった男性、また色鮮やかなヒジャブをかぶった女性やベビーカーを押す女性などなど老若男女が集まっている。

 集まった人々が手にするのは「SAVE PALESTINE」「BOYCOTT ISRAEL」「STOP BOMBING CIVILIANS IN GAZA」「JUSTICE」「STOP WAR」「LOVE PALESTINE」などの言葉たち。また、日本人にもわかるように「ガザへの爆撃止めろ」「正義」など日本語で書かれたものもある。

 ショックを受けたのは、幼い少女が掲げた「AM I A HUMAN ANIMAL?」というプラカード。「私は人間の顔をした動物ですか?」というこれは、イスラエルの国防相が「我々は人間の顔をした動物と戦っている」と言ったことに対するものだろう。

 この言葉を聞いて思い出したのは、ルワンダのジェノサイドだ。

 100日足らずで80万人もの犠牲者を出した大虐殺。その背景にあったのは、ラジオで繰り返されたヘイトスピーチだった。現地語のラジオで「ツチ族は虫けら」「汚れた人種」「ゴキブリを殺せ」「みな殺しだ」などという扇動が執拗に続いた果てに起きたフツ族民兵によるツチ族の大虐殺。国際社会はそれを止めることができず、結果、80万人もの命が奪われた。29年前のことだ。

 デモの中盤、パレスチナの男性がマイクを握った。16年間パレスチナに住んでいたという若い男性は、友人や家族が殺される経験もしたという。

 「今起こっている戦争は、昨日からでも先週からでもなく、前からずっと続いています。今、ニュースで流れているのは、ひとつの結果です。今起きているのは、ジェノサイドです」

 また、「今起きているのは宗教紛争ではない」ということも何人かから話された。なぜなら1917年、イギリスのバルフォア宣言によってイスラエル建国が認められる以前、イスラム教徒もユダヤ教徒も仲良く暮らしていたから、という理由だ。それが48年にイスラエルが建国され、入植によって「我々の土地だから出ていけ」と言われ、搾取され蹂躙され残虐に命を奪われ続けてきた一一。マイクを握る人々からそんな歴史が語られる。

 デモの現場には、「Hunger Strike for GAZA」というプラカードを持つ日本人もいた。27歳の新土さんは1ヶ月半前までパレスチナに滞在していたという。パレスチナで起きていることを伝えたいという思いで訪れたそうで、そこから戻ったと思ったら、かの地は爆撃に晒され変わり果てた姿になっている。新土さんは10月9日からハンストを始め、この日で5日目ということだった。

 今、世界中が固唾をのんでことの成り行きを見つめている。この原稿を書いている時点ではまだだが、地上侵攻まで秒読みとも言われている。ガザ地区ではすでに水も食料も枯渇していると聞く。電気も使えない中、移動できない病人や妊婦、けが人をはじめとして、大勢の命が危険に晒されている。

 とにかくこれ以上、命が奪われないでほしい。地上侵攻という名の大虐殺なんて絶対に起きてほしくない。ただただ、祈ることしかできないでいる。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。