第657回:「パレスチナ人を消滅させることはできません」〜「パレスチナに平和を!」デモに4000人。の巻(雨宮処凛)

 「今日、私は、パレスチナ人は存在している、と伝えにきました。
 私たちは、夢と願望を持ち、恐怖から解放されて生きる権利を持つ人間であることを、世界に思い出させるためです。
 イスラエルにいくら資金と支援があっても、パレスチナ人を消滅させることはできません。イスラエルのアパルトヘイトによるパレスチナ人が日々こうむっている残酷な扱い、屈辱、虐待、人種差別を終わらせるのは、私たちひとりひとりの義務です。
 基本的人権もない人々の苦しみから目を背けてはいけません。
 私にとってパレスチナ人であるということは、自分で立ち上がれない人々のために、常に立ち上がるということです」

 11月10日、冷たい雨が降りしきる中、パレスチナ自治区ガザ地区出身の女性・ハニンさんは力強く宣言するように言った。表参道の国連大学前に集まった人々から、大きな拍手が上がった。

 この日開催されたのは、「パレスチナに平和を! 11・10緊急行動」。あいにくの雨天にもかかわらず、なんと4000人が集まった。在日外国人の姿も目立った。さまざまなルーツを持った人々が、それぞれの思いであの場所に集まっていた。この一ヶ月少しの動きとして、最大の参加者だろう(が、大手メディアの報道はほとんどなし。なぜなのか)。そのデモ前集会でスピーチしたのがハニンさんなのだ。

デモ前にスピーチするハニンさん(中央)

 彼女の家族や友人は今もガザ地区にいるという。

 「たった34日間の間に、ガザではイスラエルの空爆だけで1万人以上のパレスチナ人が殺され、西岸とエルサレムではイスラエルの占領軍と入植者によって150人以上が殺されました」

 ハニンさんは悲痛な声で訴えた。そうして、画面越しに私たちが見ているのは、「彼らが経験していることの10%にすぎません」と続けた。現地にいる叔母は、今の状況を「昔見た世界大戦みたいな日常」と口にしたという。そうしてハニンさんは言った。

 「過去20年間にわたる7回のガザ侵攻は恐ろしいものでした。が、生中継で起こっている今回の大量虐殺とは比べものになりません。このひどいジェノサイドを今すぐ止めなければなりません。
 私がここに立っているのは、この悪夢を終わらせるためです。大量虐殺を終わらせ、占領を終わらせ、パレスチナを解放するためです。
 パレスチナであれ、シリアであれ、イエメンであれ、スーダンであれ、コンゴであれ、私たちは占領されている人々の解放のため、つまり正義のために立たなければなりません。私たちが今日、ここにいるのは、過去75年以上、イスラエルの入植のせいで苦しんでいる何百万人ものパレスチナ人のためです。
 この戦いは彼ら彼女たちのためです。パレスチナ全員が自由になるまでこの戦いをやめてはなりません」

 そうして今行われているガザへの空爆は、戦争ではなく「大量虐殺という犯罪」であると訴え、聴衆に語りかけた。

 「世界はやっと、目を覚ましました。世界は、プロパガンダのカーテンを破りました。私たちはもう、騙されません。山ほどある、生中継の映像が真実を暴露しています。
 私たちは今日、日本政府がこの大量虐殺に加担するなと強く求めるために集まりました。
 日本が、イスラエルを止めようと圧力をかけなければ、日本の手も血に染まることになります。私はすべてのパレスチナ人を代表してここに立ち、今すぐ停戦を要求します。
 ガザへの空爆をやめてください。パレスチナの占領をやめさせてください。ガザの人々を自由に生きさせてください」

 拍手の音が、いつまでも鳴り止まなかった。

 ハニンさんが話す前には、30年間にわたってパレスチナに寄り添って活動してきたという日本国際ボランティアセンター(JVC)の事務局長・伊藤解子さんがスピーチした。

 現在も日本人スタッフがガザで活動していることを語った伊藤さんは、電力も物資も枯渇する現地の様子を話してくれた。通信ネットワークも遮断される中、現地の人々は一瞬通信が繋がった時、送ったメッセージに既読がついたかどうかでお互いの安否を確認しているような状態だという。

 そんな極限状態でも、人々の命を助けるために奮闘する医師たちがいる。病院が爆発し、救急車までもが空爆されながらも、その地にとどまり、治療に奔走する医療従事者たち。

 伊藤さんは、ガザの病院の院長から届いたメッセージを読み上げてくれた。

 「医療を提供し続けるプレッシャーの中にいる。空爆で危険な中、薬を探して駆け回っている。誰を治療するのか、選ばなければならない。誰がより生き延びる可能性があるのかを判断しなければならないのです」

 今、世界でこれほどの悪条件の中、命がけで生死と向き合っている人が他にいるだろうか。

 午後7時、小雨の中始まったデモの隊列は、何梯団にもわたって続いた。こんなに長いデモの光景を目にしたのはいつ以来だろう、と思った。気がつけば雨は止んでいて、「虐殺やめろ」「FREE FREE GAZA」とコールするデモ隊に、次から次へと飛び入り参加者が加わってくる。

 この日、雨が降ると知り、デモ参加を一瞬、迷った。しかし、そんな時、誰かの「渋谷には雨が降ってるけど、ガザには爆弾が降っている」という内容のTweetを目にした。どこの誰かもわからない、偶然目にしたその言葉に、強く強く、心を動かされた。

 即時停戦。この日、何度も語られ、そしてプラカードにも躍っていた言葉だ。

 私はそれを求めるし、日本政府にも、そう強く主張してほしい。一日でも一秒でも早く、この悲劇が終わることを祈っている。

表参道を歩くデモ隊

渋谷の街で注目を集めていた、形容しがたいカッコいい何か

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。