第286回:わけ分からん!(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 先週末、近所の沖縄居酒屋へ行った。月に1、2度、カミさんとここへ飲みに出かける。ぼくら夫婦のささやかな楽しみである。
 「伊江泉」という1升瓶の泡盛をボトルキープしている。ゴーヤチャンプルー、海ぶどう、島らっきょう、ラフテー(豚の角煮の沖縄バージョン?)などの沖縄料理を食べながら、伊江泉の水割りをちびちび。シメは当然、沖縄そばである。常連さんと言葉を交わしながら、ゆっくりと2時間ほど。ぼくらもそれなりの常連になっているのだ。
 翌朝、体重計に乗ってギクリ、600~700グラムほども増えている。これを我が家では「ラフテーの呪い」と称している。まあ、こうすればこうなる…と、原因と結果がはっきりしているのだから仕方がない。とても分かりやすい。
 ところが最近は、新聞を読むたびに「なんだこれ、わけ分からん」ということばかりが目について、イライラすることが多い。最近イラッときたことをあげてみよう。

◎首相らの給与増額(毎日新聞11月18日)

 岸田文雄首相や閣僚らの年収が増える国家公務員特別職の改正給与法が17日の参院本会議で成立したことを受け、政府は来週にも首相と政務三役の増額分を国庫に自主返納すると申し合わせる方針だ。当初は問題視していなかったが、物価高に苦しむ国民の反発や野党の批判を受け方針を転換していた。松野博一官房長官は記者会見で「今後、速やかに申し合わせる」と説明。自主返納の対象期間は検討中だとした。
 特別職の2023年度給与を引き上げる改正給与法は自民、公明、国民民主各党などの賛成多数で可決、成立した。(略)

 これなど、究極の「わけ分からん案件」だ。なにしろ、首相や閣僚たちの増収分を、そっくり国庫へ“自主返納”するというのだから、おかしな話だ。上がった分の給与は要らないというのなら、なぜそんな法案を通す必要があるのか。法案自体を取り下げればいいだけではないか。
 自分らの給与を上げておいて、上がった分は国へお返しします…。この説明がきちんとできる人がいたらお目にかかりたい。
 しかも、返納期間は検討中だという。ほとぼりが冷めたら返納は中止して、ちゃっかり懐へ、という魂胆じゃなかろうか。この政府ならやりかねない。
 ここで注意しておかなければならないのは、国民民主党がこの法案の賛成に回ったことだ。なぜか。
 それはこの法案の可決に伴って、国会議員たちに支給される12月のボーナスも約19万円増えるからだ。国民の批判は自公に向かうが、国民民主党は黙って受け取っちゃう、というわけだな。やるもんだねえ、玉木代表。
 ちなみに、立憲(社民を含む)、維新、共産、れいわなどは反対したし、増額分はNPOなどに寄付するとしている。国民民主党の自民寄りだけが目立つ結果となった。

◎杉田水脈の開き直り(朝日新聞11月16日)

 杉田水脈衆院議員は、在日コリアンへの憎悪をあおるヘイトスピーチとして知られる「在日特権」論に関し、言論の自由の範囲内だとする見地から、一つの「意見」として「尊重」するよう求めた。11日付のX(旧ツイッター)への投稿。レイシズム(人種差別主義)をあおる差別的表現に「市民権」を与えるための強弁と受け取れる。(略)

 東京新聞(11月16日)
 政府は15日、国会で開かれた立憲民主党のヒアリングで、自民党の杉田水脈衆院議員が公金不正流用疑惑があるとの見方を示したアイヌ文化振興事業に関し「事業は適正に執行され、不正経理はないと認識している」(内閣官房担当者)と説明した。杉田氏の主張を事実上否定した形だ。(略)

 もうコイツに関しては顔を見るのもイヤだ。だからこのコラムでも、敬称はつけない。それほど、ぼくはコイツがイヤだ。
 「在日特権」に関しては、様々な論者がそのデマを断罪しているし、地方自治体でも「在日特権論はヘイトと認定」して、それを禁止するところが多くなっている。にもかかわらず、杉田はこれを繰り返す。また、アイヌ事業には不正経理などないと政府が言っているにもかかわらず、アホな主張を止めない。そんな杉田に岸田首相はなんのペナルティも与えない。こんなわけ分からない野放しもない。
 選挙の際、杉田を比例の上位に据えて当選させてくれたアノ人はもういない。杉田のヘイト連発には法務局が再三にわたり「人権侵害」と認定している。それでもなおヘイトを止めないのは、極右派におもねるしか生き残りの道がないからだ。これは、杉田の必死の足掻きと見るのが妥当だろう。そうとでも思わなければ、わけ分からん!

◎機密費でIOC委員に贈答品(東京新聞11月18日)

 石川県の馳浩知事が17日、東京都内の会合で講演し、2013年に開催が決定した東京五輪の招致活動で、開催都市決定の投票権を持つ国際オリンピック委員会(IOC)委員に対し、内閣官房報償費(機密費)を用いて贈答品を渡したと発言した。馳氏は同日夜「誤解を与えかねない不適切な発言であり、全面的に撤回する」とのコメントを出した。(略)

 当時、自民党東京五輪招致推進本部長だった馳氏の発言だが、こんな露骨な発言も珍しい。しかも、安倍首相からは「必ず勝ち取れ」「金はいくらでも出す。官房機密費もあるから」とハッパをかけられていたとも話している。東京五輪が金まみれだったことは、その後の捜査や関係者たちの逮捕などですでに明らかになっているけれど、これは当時の責任者の発言である。
 ところが例によって「誤解を与えかねないので撤回する」と言う。何か問題発言のたびに政治家たちが繰り返す「誤解を与えかねない」との弁解。だがいったい、この馳氏の発言のどこに「誤解」が生じる余地があるのか。言葉通り、そのまんまじゃないか。公金で五輪関係者に土産物をばらまいた…どこに誤解の余地があるのか。
 これなど「わけ分からん」の典型例である。いまさら撤回したって遅いわい!

◎宝塚歌劇団員“急死”事件(毎日新聞11月18日)

 宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)の劇団員の女性が急死した問題で、歌劇団が14日に公表した調査団報告書を手がけた大阪市の弁護士事務所に、歌劇団を運営する阪急電鉄のグループ企業の役員が所属していることが17日、分かった。(略)
 調査の公正さや信頼性が揺らぐ事態で批判を浴びそうだ。(略)

 すぐにバレてしまうウソだった。こんなことをやれば大批判を浴びることになる、と歌劇団幹部が考えなかったとしたら、ほんとうにわけが分からない。
 10日の記者の取材に対し、歌劇団側は報告書を作成した弁護士事務所について「歌劇団、阪急電鉄とはこれまで接点のなかった弁護士事務所だ」と説明していたというから、どうしようもない。
 調べればすぐにバレてしまうようなウソを、なぜつくのだろう。そこんところが、ぼくには「わけ分からん」のである。
 
◎江東区長選挙違反事件(東京新聞11月18日)

 東京都江東区長選を巡る公選法違反事件で、自民党の柿沢未途衆院議員(52)が秘書らに対し、区議らへの現金配布を指示していたとみられることが関係者への取材で分かった。取りまとめ役の秘書を通じ、地域ごとに担当を割り振られた複数の秘書に指示が与えられ、現金提供を持ちかけていたとされる。(略)
 ある自民党会派区議は(略)その場で断った。これまでの区議戦で柿沢氏から支援されたことはなく「違和感を覚えた」という。(略)

 柿沢氏は現金のバラマキを「区議選の陣中見舞いだから公選法違反ではない」と話している。だが、それまで応援したこともない区議に現金を渡せば、当然ながら、その時に行われた区長選で柿沢氏が支援した木村弥生候補への応援を頼んだ、と理解するしかない。だから柿沢氏のそんな弁明は、わけ分からん!

◎殺傷兵器輸出(毎日新聞11月18日)

 防衛装備品の輸出ルールを定めた「防衛装備移転三原則」と、その運用指針の見直しを議論している自民、公明両党は17日のワーキングチーム(WT)の会合で「殺傷能力のある武器の部品は『自衛隊法上の武器』に含まれない」とする方針を確認した。完成装備品に殺傷能力があっても、その部品に能力がなければ、他国への譲渡や輸出が可能となる方向だ。(略)

 いやはや、こんなわけ分からんリクツを真面目に議論している連中の頭の中を覗いてみたい。部品をバラバラにして輸出して、それを輸出先の国が組み立てて殺傷能力のある武器にしても「防衛装備移転三原則」には違反しないのだそうだ。
 これ、いい大人たちが冗談ではなく本気で議論しているんだぜ。呆れるしかない。まあ、武器輸出を「装備品移転」などと、それこそわけ分からん言い換えをする連中だから、さもありなんではあるが、ぼくはやたらに腹が立つ!
 みなさんは、怒りを感じませんか?

◎防衛相、沖縄知事を無視(沖縄タイムス11月20日配信)

 玉城デニー知事は17日、県と基地所在27市町村でつくる県軍用地転用促進・基地問題協議会(軍転協)の会長として日米両政府に基地負担の軽減を求めた。だが、県が重要な要請相手に位置付ける木原稔防衛相との初対面はこの日も実現せず。要請のわずか1時間前に木原氏は糸数健一与那国町長と面会していて、対応の差に県側は不満がうずまく。さらに、要請に同行したのは嘉手納と読谷の副町村長のみで、新基地建設を阻止したい玉城県政との温度差が露呈した。(略)

 今回は「わけ分からん案件」を取り上げているのだが、これなどは逆に「まことに分かりやすいイジメ」である。政府に歯向かう人は徹底的にイジメる。イヤらしいにも程がある。そういえば、あの翁長知事の面会要請を、安倍首相も菅官房長官も何度も拒否するという「いやがらせ」を繰り返していた。
 学校でのイジメ撲滅などと言いながら、自分たちは弱いものイジメを繰り返す。少しは自分を省みろ!と言いたい。

 しかし、もちろん「わけ分からん」のは日本国内だけじゃない。目を世界に転じても、同じようなわけ分からん事態が頻出している。

◎習近平氏は独裁者(朝日新聞デジタル11月17日配信)

 バイデン大統領が15日、中国の習近平(シーチンピン)国家主席との会談後、習氏を「独裁者」と呼んだことが波紋を広げている。中国外務省の毛寧副報道局長は16日の記者会見で、バイデン氏の発言について「誤りであり、無責任な政治的操作だ」と指摘。「中国は断固として反対する」と非難した。(略)

 もう、これなど笑うしかない(笑い事じゃないけれど)。米中首脳会談で、お互いに対立を回避して友好関係を保とう、とにこやかに握手したすぐそのあとに、いかに記者からの質問とはいえ、相手の首脳を「独裁者」呼ばわりとは、まさに外交事例からみれば「わけ分からん」の最たるもの。いくら本音でも、言っていい時と場所くらいはわきまえていないと大統領職は務まるまい。
 この発言を聞いていたブリンケン国務長官の眉間に青筋が立っちゃったのも無理はない。バイデンさん、大丈夫なのか? ちなみに、バイデン氏は11月20日で81歳になった。米大統領史上最高齢を更新中。アメリカ人じゃなくても、不安になるよなあ。

◎イスラエルの戦争(在日イスラエル大使館 11月19日のX)

 なぜこの病院が戦争の一部になったのでしょうか。
 イスラエル軍報道官アムノン・シェフラー中佐は、ハマスが病人を治療する代わりに病院をテロリズムに利用していることを説明しています。
 ガザの人々に対する、この病的な搾取を止めなければなりません。イスラエル軍は、ハマスの敗北と人質救出のためにガザで地上作戦を展開しています。イスラエルはハマスと戦争しているのであって、ガザの市民と戦争しているのではありません。

 「ガザの市民と戦争をしているのではない」と大使館は言う。けれど、いまや1万2千人に達したと言われるガザでのパレスチナ人死者数。しかもその7割は女性と子どもたちだとされている。どこと戦争しようが、殺されているのは、無辜のガザ市民であることは間違いない。イスラエル側は、こんなわけ分からん言い訳が通用すると、ほんとうに思っているのだろうか。
 またイスラエル軍は、ガザ住民に対し「南部へ避難せよ」と度々警告している。だが、その南部へも空爆はしきりに行っている。逃げ場所を指定しておいて、その指定した場所を爆撃する。これをどう理解せよというのか。まさに「究極のわけ分からん鬼畜の所業」というべきではないか。
 保育器に入れることもできず、ベッドの上に並べられて喘いでいる新生児たちの瀕死の映像を、平然と見られる人の感性がぼくには分からない。

◎ハマス奇襲を事前把握?(毎日新聞11月18日)

 パレスチナ自治区ガザ地区を支配するイスラム組織ハマスによるイスラエル南部への10月7日の奇襲攻撃を巡り、イスラエル当局は一部の欧米メディアに対して「事前に襲撃を知っていた」と非難している。メディア側は否定しており、見解は食い違っている。
 イスラエルのカルイ通信相は今月9日、X(ツイッター)に投稿した声明で、米国のCNNテレビ、ニューヨーク・タイムズ(NT)紙、AP通信、英国のロイター通信の計4社について、「恐ろしい行為を事前に知っていた」可能性を指摘。「4社に雇用された者が(襲撃時に)現場にいた疑いがある。それを記録したことは事実上、襲撃の参加者になったということだ。(略)

 妙な声明だ。むろん、指摘された4社は全面否定している。
 どうもこれは、イスラエル政府がハマスの奇襲襲撃を防げなかったことへの責任回避のために流したものらしい。
 それにしても、世界一の強力な諜報機関と言われるイスラエルの「モサド」を有しながら、ハマスの奇襲攻撃にまったく気づかなかったとすれば、それこそネタニヤフ政権はまったく「わけ分からん」のだ。

 いやはや、世の中「わけ分からん」ことばかり。
 ぼくのような年寄りには、もうついて行けんわ。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。