第288回:情けねえっ! オスプレイ墜落異聞(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 11月29日午後2時45分ごろ、鹿児島県屋久島沖1キロメートルほどの海域に、米空軍のCV22オスプレイが墜落した。米軍横田基地(東京都)の所属機で、山口県の米軍岩国基地を経由して、沖縄の普天間飛行場への飛行途中であったという。
 目撃者によれば、突然ドーンという腹に響くような爆発音とともに火を噴いて、海に突っ込んでいったという。つまり、付近の海岸や漁船からも目視できるような至近距離であり、それこそ一歩間違えば、屋久島住民にも被害が及びかねなかったのだ。
 以前から「超危険な航空機」と散々言われてきていたオスプレイには、配備反対の声が強かった。沖縄では、2012年9月に10万人規模の「オスプレイ配備反対県民大集会」が開かれて、県民が反対の意思を示した。だが米軍は、そんな声に斟酌することもなく沖縄県宜野湾市の普天間基地に強引に配備した。

 その後、日本もオスプレイを購入、1機約100億円で諸経費をあわせると約211億円とされる。これを14機購入、いずれ17機まで増やす予定で、現在は千葉県木更津駐屯地に暫定配備。2025年には佐賀空港に移駐する予定だが、当然のことながら今回の事故を受けて、佐賀では反対運動が強まっている。

 沖縄県民の危惧は的中し、2016年には沖縄県名護市安部(あぶ)の磯にオスプレイが墜落した。それでも米軍はオスプレイを飛ばし続けている。そんな状況の中で、今回の事故は起きたのである。
 米軍の基準では、乗組員の死亡や被害総額が250万ドル以上の事故は「クラスA」に分類されるが、オスプレイに関してはこのクラスA事故が、世界で2021年までに、実に7件起きている。最近の例では、前述の2016年の名護市安部の墜落で2名が負傷、22年3月にはノルウェーの墜落事故で4名が死亡、同じく22年6月に米国内での墜落で5名死亡、今年8月にオーストラリアでも墜落、3名が亡くなっている。
 これほどの事故多発機なので、米軍内でオスプレイが「未亡人製造機」と呼ばれているというのは有名な話だ。

 今回の事故に関しては、最初から情報が錯綜した。まず米軍は29日、墜落機の乗組員は8名と発表したが、すぐに6名と訂正、うち1名は死亡が確認されたと公表した。ところがその後、また8名と訂正した。米軍側も状況をよく把握していなかったことを示している。
 だがそれ以上に、日本政府の対応ぶりはめちゃくちゃだった。朝日新聞(12月1日付)はこんなふうに書いている。

「不時着水」→「墜落」に修正
米側説明の変化 政府追随

 事故を巡っては、国による発表の表現が「墜落」か「不時着水」かで二転三転した。
 海上保安庁は当初、「墜落」と発表した。一方、宮沢博行防衛副大臣は29日夜、記者団に「最後の最後までパイロットが頑張っていらっしゃったということですから、不時着水」と説明。海上保安庁の広報文のタイトルは午後7時15分ごろ、「不時着水について」に変わった。しかし翌30日、木原稔防衛相が参院外交防衛委員会で「墜落した」と表現。「米側からは本日になって墜落、クラッシュという表現で説明があった」と述べた(略)

 なんと情けない物言いだろう。
 宮沢副大臣の「パイロットが頑張っていらっしゃったから不時着水」って、いったいなんなんだ。ドーンという爆発音とともに火を噴いて海に落ちた、という事実は当初から伝えられていたではないか。米軍側がどう言おうと、これが「墜落」でなければなんなんだ!
 まるで「ご主人様の言うことに逆らってはいけませんよ」と厳しく躾けられている飼い犬みたいじゃないか。しかも「パイロットが頑張っていらっしゃった…」だと。ここまで卑屈になると、もう情けなくって屁も出ねえ(汚語失礼)。
 そういえば、2016年の名護市安部の磯への墜落の時にも、日本政府は「不時着水」と言い張り、当時の翁長県知事に「どう考えても墜落ではないか」と指摘されていたと記憶する。日本側の態度は、当時も今も、宗主国の顔色を伺う植民地根性からまったく抜け出ていない。
 更に、日本政府の卑屈な対応は続く。11月30日の毎日新聞夕刊の記事。

政府 飛行停止を要請

 木原稔防衛相は30日の参院外交防衛委員会で、オスプレイが墜落した事故を受け、米側に対し、安全が確認されるまで飛行を停止するよう要請したことを明らかにした。「米側に対し、国内に配備されたオスプレイについて、捜索・救助活動を除き、安全が確認されてから飛行を行うよう要請するとともに、事故の状況等について早期の情報提供を求めている」と述べた。(略)

 この記事のタイトルには、ぼくはいささか不満がある。
 これがいったい「飛行停止を要請」したことになるのか? 普通の日本語なら「安全確認が済むまで飛行を停止しろ」であるはずだ。ところが、木原防衛相が言っていることは、飛行再開が前提になっている。「確認してから飛んでくださいね」というわけだ。しかもご丁寧に、「捜索・救援活動は除く」として、例外的にだが飛行そのものを認めてしまっている。捜索だろうが救援だろうが、オスプレイは基地から捜索海域までは民家密集地の上空を飛ぶのだ。これでは「飛行停止を要請」した意味がないだろう。
 その上、日本政府が言っていることを米側はあっさりと否定した。日本はバカにされているのか?
 朝日新聞(12月1日夕刊)。

米国防総省「公式の停止要請ない」

 米軍輸送機オスプレイが鹿児島・屋久島沖で墜落した事故をめぐり、米国防総省のシン副報道官は11月30日の記者会見で、日本に配備されているオスプレイの飛行を継続していると表明した。日本政府からの飛行停止要請については「(国防総省は)私の知る限り、公式な要請は受けていない」と語った。
 松野博一官房長官は12月1日の記者会見で米側の見解について「(オスプレイは)飛行にかかる安全が確認されてから飛行を行うよう正式に要請している」と述べた。(略)

 いったいどーすんだ、これ。
 松野長官の物言いも、「安全を確認してから飛んでくださいね」と、まるで木原防衛相と同じだ。そんな卑屈な「お願い」さえ、あっさりと米側に拒否されたわけだ。事実、12月2日には、鹿児島県奄美空港に普天間飛行場所属のMV22オスプレイ3機が飛来した。映像で見る限り、白い煙を周りに吐き散らしていたが「訓練の一環」だとしている。
 米軍は沖縄県民の不安など歯牙にもかけない。事故後も、沖縄の上空を好き勝手に飛び回っているのだ。
 沖縄タイムス(12月2日付)が書いている。

オスプレイ墜落、迷走する政府
飛行継続の理由説明されず

(略)防衛省は、事故発生から1日午後6時までに米海兵隊と米海軍のオスプレイ(MV22とCMV22)が沖縄県内で計68回発着したことを確認した。
 木原稔防衛相は1日の記者会見で、同日朝に米側から、事故機と同型のCV22の飛行は現在行っていない▽日本配備の全オスプレイは徹底的かつ慎重な整備と安全点検を行った上で運用されている▽事故に関する可能な限り詳細な情報を透明性を持って共有する――の3点の報告があったと明らかにした。その上で、「飛行安全の確認についての十分な説明がない中、飛行している」として事故後初めて「懸念」を示した。同盟国である米国に懸念を示すのは異例だ。(略)

 さすがに日本政府の対応への高まる批判に配慮して、多少の苦言を呈するポーズを見せたというところだろう。
 米軍の「機種が違うから安全だ」というリクツなど、とうてい認めるわけにはいかない。オスプレイそのものの構造は、海軍仕様も海兵隊仕様もさほど変わっているはずがないからだ。
 もし日本政府に、少しでも「沖縄の負担軽減」を実現しようという気があるのなら、米国大使を首相官邸に呼びつけて、最低でも、「安全確認が済むまでの飛行停止」を要求(要請ではない)すべきではないのか。
 事故後も沖縄の空を、たった3日間で68回も飛び回っている。世界で一番危険な軍事基地と言われる普天間飛行場からの離発着だ。岸田首相には「沖縄の負担軽減」の意思が“蚤のキンタマ”(汚語失礼)ほども感じられない。

 オスプレイの墜落は、米国内でも大きなニュースになっているという。これも沖縄タイムスが12月3日に配信した記事。

「訓練優先で人命軽視か」オスプレイ墜落受け米国内でも批判
 飛行訓練停止を否定した国防総省、発言を修正

 (略)「日本は(自衛隊)オスプレイの飛行を停止し、米側にも飛行停止を求めている。飛行の一時停止や、せめて捜索活動が終わるまで飛行を控える考えなどはないのか」
 事故後の11月30日、米国防総省で開かれた記者会見での最初の質問に、シン副報道官はオスプレイの飛行訓練を停止する可能性をあっさり否定。納得しない表情の米記者はさらに質問をこう続けた。
 「国防総省内には、オスプレイに問題があるのではないかという懸念はないのか?」
 記者会見を終え、米経済誌フォーブスなど複数の米メディアは、日本の飛行停止要請を受け入れるどころか、検討さえしない国防総省の姿勢を批判的論調で報じた。
 記者会見の翌日(現地時間12月1日)、シン副報道官は声明を発出し、「米国にとって最優先事項は米兵と日本の地域の安全」と強調し、墜落機が所属する第353特殊作戦群が飛行停止したと表明。今後は日本と情報を共有していくと強調した。
 同省が姿勢を一転させた背景には、米軍関係者からの抗議があった。
 米上院軍事委員会に所属する議員は1日、本紙の取材に対し、報道でシン副報道官の記者会見の発言内容を知った米兵の家族や関係者から「国防総省は訓練優先で人命を軽視するのか」などと抗議が寄せられ、同省に問い合わせたことなどを明らかにした。(略)

 米軍家族や関係者の声や米メディアの批判的論調などで、米国防総省はやや姿勢を変えたわけだ。少なくとも「聞く耳」は持っているらしい。
 だが日本側はどうか? とにかく米側の動きを見なければ何ひとつ自主的には動かない。こんな植民地根性をいつまで持ち続けるつもりなのか。国民の声など“馬耳東風”で聞き流すだけの岸田首相。その真似をしてかどうか知らないが、この一連の日本の防衛省や外務省、そして首相官邸の動きを見ていると、ほんとうに情けねえっ! と叫びたくなるのである。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!

       

鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。