第662回:年の瀬に寄せられた「年が越せない」という悲痛の声、生活保護引き下げを主導した世耕参院幹事長の1000万円キックバック疑いと辞任。の巻(雨宮処凛)

 「もう数年、都内で路上生活をしている」

 「住民税非課税世帯への7万円の給付はいつされるのか」

 「お米を買うお金もなく、心臓が悪い高齢の母親と暮らしているが医療費もない」

 「残金は1万円以下。このままでは年も越せない」

 これらの言葉は、年の瀬の12月23日に開催された「いのちと暮らしを守るなんでも相談会」に寄せられたものだ。コロナ禍から続けられ、全国の弁護士や司法書士、支援者らがボランティアで電話を受けるこの相談会で、私も相談員をつとめさせて頂いた。会場にいる間、途切れることなく電話のベルは鳴り続け、多くの悲痛な声に耳を傾けつつ、使えそうな社会保障制度や支援団体を紹介した。冒頭の言葉は、私が直接受けた相談だ。

 コロナが5類に移行して半年以上。いくら収束ムードが漂っても、一度痛めつけられた生活を立て直すのは至難の技だ。そこに長引く物価高騰が庶民の生活をじわじわと追い詰めている。年金では暮らせない。仕事がなかなか見つからない。何か自分が対象になる制度はあるのか。少しでも生活が楽になる方法はないか一一。みんなこれまで真面目に働き、この国を支え、税金を納めてきた人たちだ。

 このような現実がある一方、年の瀬、メディアを騒がせているのは自民党の政治資金パーティーをめぐる「裏金」問題だ。

 政治資金報告書に不記載の総額は、安倍派で約5億円(時効にかからない2018〜22年の5年間)、二階派で億単位に上るという(同じく)。続々と関係機関に家宅捜索が入り、現役議員も任意聴取を要請されるなど、自民党が勝手に自滅を始めている。

 これを受けて、岸田内閣の支持率もダダ下がり。12月18日の毎日新聞の調査によると、支持率は2割を切り、16%。不支持率は79%にまで上った。

 庶民の生活とはあまりに乖離した政治家の金銭感覚には開いた口が塞がらない。ということで、実態を知ってもらうためにも電話相談に寄せられた声を紹介したい。12月23日の電話相談の集計はまだなので、9月30日に開催された電話相談の声だ。

 この日、寄せられた相談件数は849件。コロナ5類移行によって公的支援が急速に後退し、世間の関心がコロナによる困窮から急速に薄れる中、状況はより悪化していることがわかる。

 「家族4人で、この数日間、何も食べていない。お金も食べるものもない」

 「無職。車中泊をしている。何とか手持ち金でやりくりしているがこの先が不安」(40代男性)

 「収入がなく医療費が払えない」(20代男性)

 「息子2人(10代、20代)と生活。本人も息子も医療受診が必要だが、経済的に余裕がなくちゃんと通院できていない。医療を受けられる支援はないか」(50代女性)

 いずれも生活保護の対象となるだろう状況だが、窓口で追い返される「水際作戦」についての相談も多くあった。

 「働いていた店が閉店になり、2週間前から路上生活を始めた。福祉事務所に生活保護の申請に行ったが断られ、1000円を渡すから東京に行くように言われた。ここ数日何も食べていなかった」(40代男性)

 「単身、無職。家賃滞納でホームレスになり日雇いで駅周辺で過ごしている。携帯電話は、使用料の支払いできず止まっている。生活保護の相談に行ったが親族に見てもらうように言われ追い返された」(60代男性)

 「夫が脳梗塞で倒れて入院。9月末まで収入がなく、貯金もない。生活保護を受けたくて役所に相談したが、『傷病手当金がそのうち出るでしょ』と言われて断られた。生活苦しくどうしたらよいか」(30代女性)

 「単身。年金月5万円のみ。家賃月5.2万円。医療費がかかるので病院の受診は中断。生活保護の申請に行ったが、『声が大きいし、元気だから働け』『80代の人でも働いている』と拒否された。役所から紹介された警備会社で2年間働き身体を壊した。もう役所には行きたくないが、そうせざるを得ない。生活保護の申請同行を希望」

 あまりにもひどい追い返しである。

 ちなみに今月、群馬県桐生市で、生活保護利用者に保護費を適切に渡していなかった問題(一日千円を分割で渡していた)が発覚したが、その桐生市では過去10年間で生活保護利用者が半減していたという。半減した背景には、違法な水際作戦があったのではないかと勘ぐりたくなるのは私だけではないはずだ(このような水際作戦に遭った場合、こちらの「生活保護編」Q3の「各地の相談窓口」にある首都圏生活保護支援法律家ネットワークなどに相談してほしい)。

 一方、「どうしても生活保護だけは嫌」という忌避感を訴える人も中にはいる。

 「単身。病気で倒れて入院した後、仕事に就けない。年金だけでは暮らしていけず、生活保護は死んでも絶対受けたくないので仕事を探すが、70代になると仕事が見つからない」(70代男性)

 また、生活保護を利用していても長引く物価高騰に悲鳴をあげる人も目立つ。

 「現在、生活保護受給中だが、この物価高騰で保護費だけでは生活していけない。家計簿をつけ切り詰めた生活をしているが毎月1万円は足りない。僻地なので出かける際のバス代もかかる、何とかならないか」(60代男性)

 「母子世帯。お弁当屋のパート収入と生活保護で暮らしているが、野菜の高騰など物価高で生活していけない」

 長引く物価高騰を受け、東京都庁下で毎週土曜日に開催されている「もやい」と「新宿ごはんプラス」による食品配布に来る人も増え続けている。コロナ以前は50〜60人だったのがコロナ禍でどんどん増え続け、12月23日には過去最多の779人となった。並んでいる中には女性や若者、高齢者もいれば子どもを連れた母親の姿もある。あらゆる世代に困窮が広がっていることを突きつける光景だ。

 こんな現実がある一方で、「裏金で何億円」なんて自民党議員たちの話を聞くと、怒りを通り越して無力感すら覚えてしまう。あの人たちに、何か言っても通じるのかという徒労感。

 ちなみに、現在全国で生活保護引き下げを違憲として訴訟が行われ、原告勝訴が続いていることはこの連載でも触れてきたが、その引き下げのきっかけとなったのは、2012年に自民党が掲げた「生活保護給付水準10%引き下げ」という数値目標。

 そんな自民党で、生活保護に関するプロジェクトチームの座長をつとめたのが、現在、疑惑の渦中にいる世耕弘成氏(12月19日、世耕氏は参院幹事長を辞任)。当時、世耕氏は生活保護利用者の「フルスペックの人権」を制限するような発言をしたことでも有名である。

 そうして実際に生活保護費は引き下げられ、その影響は10年以上にわたって当事者を今も苦しめている。特にこの物価高騰でみんな悲鳴を上げているのだが、そんな政策をチームの座長として進めた世耕氏は今、直近5年間で1000万円を超えるキックバックを受け、裏金化した疑いを持たれている。

 だけど、「そんなもんだろうな」と驚きもしない自分がいる。

 来年こそは、弱者を切り捨てるような自民党政治が一掃され、もう少し優しい社会になりますように。年の瀬、そう祈ることしかできない。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。