第133回:8年ぶりにiPhoneを買い替えて思ったこと(想田和弘)

 バッテリーを何度か交換しながら8年間大事に使ってきたiPhone6Sの動作が、鈍くなってきた。それに頻繁にフリーズする。さすがに寿命を迎えているようなので、新しいのを買いに行くことにした。

 妻のスマホも同時期に買った同モデルである。だが、「私のは全然大丈夫」と澄ましていて、買い替えるつもりはまったくないようだ。しかし僕がスマホのショップに出かける支度をしていると、物見遊山でついてきた。

 店員さんと向かい合って座り、どのモデルを買うか相談していると、妻の携帯を見た店員さんは、当然、彼女にも購入を勧めてきた。いわく、6SはiOSのサポートがすでに終了しているので、セキュリティが脆弱になっている上、そのうち使えなくなるというわけである。

 ところが妻は、買い替えたがらない。

 「まだ最近買ったばかりなのに。新品のようにピカピカだし、ケースも本革で作ってもらったばかりだし」

 実際、ほんの数ヶ月前、牛窓で最近お店を開いた職人さんに手作りのiPhoneケースを特注で作ってもらったばかりだったのである。

 高校生のころ着ていた服を今でも着たりする妻からすると、8年前の電話なんて新品同様なのだろう。「買い替えないと、どうなるっていうんですか」と半ば店員さんに食ってかかった。

 すると店員さんからは「LINEとかのアプリがそのうち使えなくなります」という答えが返ってきた。

 「“そのうち”っていつごろ?」

 「早ければこの春くらいですかね」

 それは困る。さすがの妻も、それで渋々と観念せざるをえなかった。

 「このiPhoneともお別れなの?」

 突然親友とサヨナラするような、寂しそうな顔をしていた。

 ということで二人とも買い替えましたよ、ええ。大量消費社会のビジネスモデルに負けたわけである。巷ではだいたい4年で替えるそうで、8年使った客は店員さんにとっては最長記録だそうである。

 しかし決して安くない代物が、4年しか使えないなんて、おかしなことではないか。地球環境にだってよくない。しかも物理的に壊れて使えなくなるのならまだしも、問題はソフトウエアの更新である。「良いものを長持ち」という価値観はいったいどこへいったのか。

 正直、僕はスマホもパソコンも、もうこれ以上「進化」しなくていいと思っている。すでに充分すぎるほど、便利だからである。実際、新しく買ったiPhone14が、iPhone6Sに比べて根本的な進化を遂げているとも感じない。OSやアプリのアップデートなんて数年に一回でいいから、もっと長く使えるようにしてほしい。

 というようなことをFacebookに書いたら、予想以上に反響が大きかった。同じように感じている人が、大勢いるのである。

 大勢いるということは、需要もあるということではないか。ならばそういう製品を作れば、結構売れるのではないか。

 そう考えていたら、ある人がFacebook投稿のコメント欄で「フェアフォン」というスマホの存在を教えてくれた。リサイクル素材を多く使用し、自分でパーツを交換して修理もできる、持続可能性の高いスマホである。オランダのメーカーが、地球環境保護の観点から開発している。

 だたし、このフェアフォンですら、「8年間もOSをアップグレードさせます」というのが売りである。たしかにAndroidやiOSよりは長いのだろうが、僕らの基準からすれば、それでも短い。

 とはいえ、この決して安くないフェアフォンが売れていて業績が黒字化していることは、ハイテク産業に新しい発想とトレンドが育ちつつあることを示していると言えるだろう。

 アップルその他のメジャーなハイテク企業も、早くそのことに気づいて方針転換してほしいものである。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。