第665回:病気になろうが仕事がなくなろうが一文無しになろうが世の中すべてを敵に回そうが、ビクともしないだけの「死なないノウハウ」、収集しました。の巻(雨宮処凛)

 2024年1月27日、私は49歳の誕生日を迎えた。

 これにて、なんらかの原因で突然死や事故死でもしない限り、1年後には自動的に50の大台に乗るわけである。

 ということは、90年代の就職氷河期に社会に出たロスジェネが50代を迎えつつあるということだ。

 政治の無策が云々という話をしたいところだが、今日はぐっと堪えてみなさんに聞きたい。

 これから先の人生、むっちゃ不安じゃないですか?

 私はと言えば、もちろん不安だらけだ。

 出版不況と言われて久しいこの業界。右肩下がりで衰退まっしぐらな日本経済。止まらない物価高騰に圧迫される生活。北海道にいる、高齢の両親の今後。同世代からも出始めている孤独死、病死。無理がきかない、徹夜などもってのほかなど気がつけば確実に落ちている体力。しかも私は一人暮らしで共に暮らすのは猫一匹。周りを見渡せば見事に不安定層ばかりで経済的に頼れる人など一人もいない。これから先、働けなくなったり病気になったらどうすればいいのだろう?

 しかも最近、将来もらえる年金額の通知が届いて開けてみたら月に4万円ちょっとだったので見なかったことにした。20歳から一度もサボらず払ってるのに、これが約30年間、国民年金保険料をせっせと支払い続けたフリーランスの実態である。

 その上、厚生労働省の簡易生命表(22年)によると、日本の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳。私の場合、平均寿命までまだ38年もある計算だ。「老後2000万円問題」を持ち出すまでもなく「これから先」を考えるだけで目の前が暗くなる。

 このように、心配が山積みでどうにかなりそうだったので、昨年「これから先」の不安を潰す取材をしまくった。ここまで書いたような不安への解決策を網羅した一冊だ。

 それが2月15日、光文社新書となって出版される。

 タイトルは『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』。

 以下、本書の紹介文だ。

 「働けなくなったら」「お金がなくなったら」
 「親の介護が必要になったら」……。
 「これから先」を考えると押し寄せる不安。
 頼る人がいなければ、最悪、死ぬしかないのか?
 そして自らの死後、大切なペットは?
 スマホやサブスクの解約は?
 この先が不安で仕方ないアラフィフが各界の専門家に取材。
 社会保障を使いこなすコツや各種困り事の相談先など、人生の荒波の中で「死なない」ためのサバイバル術を一冊に。

 ということで、「お金」「仕事」「親の介護」「健康」「トラブル」「死」について、不安要素をひとつひとつ虱潰しにするような取材を敢行した。

 お金に困った時のことについてはこの連載でもずっと触れているが、例えば家賃が払えないときは住居確保給付金を申請すればいいし、お金がなくて病院に行けないなら無料低額診療を受ければいい。

 ネカフェ生活で携帯が止まったなんて場合は、まずは生活保護申請をするといいだろう。

 ブラックリスト入りして携帯が契約できない場合、そのような状況でも契約可能な会社を厚労省がリストにして紹介している(過去の携帯電話滞納状況等により携帯電話契約にお困りの方へ携帯電話等サービスを提供している事業者リスト)。

 また、現在多くの若者が大学の奨学金返済に苦しんでいるが、数年前、給付型の奨学金「高等教育の修学支援新制度」が新設された。が、全然知られていないのでこれについての情報も盛り込んだ。一方、DV男や毒親に居場所がバレたくない場合、「支援措置・行方不明者の不受理措置」という手が使える。

 このような形で、他のテーマでも「かゆいところに手が届く」ような情報を集めまくった。

 「仕事」の章では、雇用保険や労災保険、傷病手当といった基礎的なものから、解雇予告手当や未払い賃金の立替払制度、はたまたフリーランス共済までをも紹介している。

 「親の介護」については、まずは「地域包括支援センター」に行くことをはじめとして、高齢者施設の種類と平均月額、入居額、サービス内容を比較。それだけでなく、「親の最期」を丸投げできる民間団体にも取材した。

 親との関係が悪くて関わりたくないという場合、介護施設選びはもちろん、施設の第一連絡先になってくれる上、葬儀、納骨までをすべて担ってくれるサービスがあるのだ。毒親持ちの人々は当然として、忙しくて介護施設選びに付き合えない、施設の第一連絡先になっても仕事中はなかなか電話に出られないなどの場合も使えるサービスとなっている。親の死ということでは、相続はもちろん、死後の口座凍結への対処などの情報も盛り込んだ。

 また、特筆しておきたいのは自分の死後のこと。

 共に暮らすペットの世話を誰に、どのように託せばいいか。はたまたスマホやサブスクの解約は? 通帳がなくアプリだけの銀行の場合はどうなる? というか、スマホやパソコンに誰にも見られたくないものが満載の時はどうすればいい? などなどに応えるサービスも開発されている。自分の死後、スマホやパソコンをクラッシュしてくれるサービスもある。

 それ以外にも家族や友人知人とのトラブルの分野別解決策、むちゃくちゃ困って相談してるのに警察が動いてくれない時に警察を動かす方法、高齢で賃貸物件が借りられない時の秘策、また自分の散骨についてや遺産があり、相続人はいないが自分のお金が死後、国庫に入るのは嫌という人のための「死因贈与契約」などについても網羅した。

 また、「健康」の章では、がんサバイバーの方に話を聞き、働きながらのがん治療についてや、がんに備えてどんな保険に入っておくべきかという情報も得た。

 サブタイトルに“独り身の「金欠」から「散骨」まで”とあるように、基本は単身者向けだが、そうでなくとも使える仕組みになっている。というか、今独り身じゃないとしても、誰しも将来単身になる可能性は高いのだ。20年の国政調査によると、この国で一番多いのは「単身世帯」で38.1%。単身世帯は一貫して増加傾向にあり、1985年は20.8%、5世帯に1世帯だったものの、今や2.5世帯に1世帯だ。

 そうしてこのまま行けば、私は単身高齢女性になるわけだが、この国で突出して貧困率が高いのは一人暮らしの65歳以上の女性。貧困率は46.1%と半数近くだ。

 さて、こうして自らの不安から本書を書き上げたのだが、私は今、この先病気になろうが仕事がなくなろうが一文無しになろうが世の中すべてを敵に回そうが役所で適当にあしらわれて追い返されようが、ビクともしないだけの情報を身につけている。いわば「無敵」の状態だ。

 そして改めて、「不安がなくなると、人は優しくなる」というこの世の真理に辿り着きつつある。

 衰退していく日本で暮らしていると、年々この国に住む人々が意地悪になっているのを感じる。多くの人が思っていることだろう。が、ある意味、それは不安の裏返しだとも思うのだ。困窮する人への視線が厳しく、より「自己責任」という声が大きくなっているように思えるのも、生活保護バッシングが起きるのも、多くの人の不安のあらわれではないのだろうか。

 なぜなら、景気が良くて「明日は今日よりもっとよくなる」と誰もが信じられていた頃、この国にはもっと余裕があったように思うからだ。

 結局、「金に余裕がなくなると心にも余裕がなくなる」ということをこの国の人々は30年かけて証明してきたわけだが、だったら不安要素をひとつずつ潰していけばいい。

 ということで、せっせと集めた「死なないノウハウ」を、多くの人に伝授したい。

 ぜひ、一緒に「無敵」になり、ノウハウを広めようではないか。

『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)
2月15日発売予定

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。