第299回:「ファイルブック」をめくって(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

 ぼくがツイッター(X)を始めたのは2010年だった。こういうシステムには、ほとんど興味はなかったのだが、マガ9のデザイン・スタッフに「それなりに面白いですよ」と言われてその気になり、セッティングまでしてもらった。
 もちろん最初はお遊び。でも「日記」をつける習慣のないぼくにとって、ツイッターは日記替わりの備忘録になった。気づいたことをボチボチと書いておいて、後でそれを見直してみる。確かに“それなりに”面白かった。
 ところが、2011年の東日本大震災と、それに続く恐怖の原発事故が、ぼくのツイッターを激変させてしまった。ぼくは必死になってそれまでお付き合いをいただいていた研究者や教授、ジャーナリスト、評論家、作家、活動家などの方々に話をお聞きし、そこで知ったことをツイートしていった。
 いつの間にか、フォロワーが万を超える単位にまで増えていった。えっと驚くような著名な方たちからも反応をいただくようになった。
 そこに書いたことをまとめて、ぼくは2冊の本を上梓した。『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11~日5月11日』(マガジン9ブックレット)と、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)である。今それを読み返すと、肌が粟立つような恐怖に震えていた自分が見えてきて、切ない。

 最初の本を出すと同時に、ぼくは新聞記事や週刊誌、原子力資料情報室などの資料、ネット情報などを切り抜いて、自分なりの「ファイルブック」を作り始めた。時系列にそってファイルされた記事は、見出しの大きさや写真などとともに、ネットでは得られない迫真力でぼくの視覚に飛び込んでくる。
 これはまことに大切な資料集になっている。
 最初、このファイルは「原発関連」だけに絞っていたのだが、とてもその分野だけでは収まらない大切なこともあることに、次第に気づかされていった。
 当初から関わっていた「マガジン9」は、当初は「マガジン9条」といった。むろん、憲法9条の意味だ。けれど、憲法は9条だけではない。基本的人権や国民主権、平和主義というように、人間の生存の根本にかかわる項目がたくさん書かれている。そこで、スタッフは相談して「条」を取り払って「マガジン9」と改称した。
 そこで、ぼくのファイルは「原発」と「憲法・沖縄その他」の2種類になった。それが今では、「原発」は52冊、「憲法・沖縄その他」はNo.80まで増えている……。いったい、どこまで行くのだろう?

 ぼくの家は本だらけだ。あらゆる部屋に、廊下にまで本棚が鎮座していて、生活空間を圧迫している。カミさんは「本をなんとかしなさいよ、断捨離でしょ」としきりに言う。そのくせ自分でも、大好きなミステリやSFなどの本を買い込んでくるのだから、何をかいわんやである。
 多分、ぼくが死ねば、こんな本など子どもたちにとっては邪魔っけなものでしかなくなるだろう。興味のある本を少しくらいは持ち帰るかもしれないが、あとは古本屋か、もしくは燃えるゴミ…。まあ、個人の蔵書なんてそんなもんだとぼくも思うし、処分されてもべつに文句はない。
 けれど、この「ファイルブック」だけは、どなたか引き取ってくれないかなあ。
 2011年からの13年間の世の中の記憶が、ここに詰まっている。ページをめくるだけで、その時期の世界や日本の動きが見えてくる。新聞記事の見出し活字の大きさから、マスメディアがその出来事をどう受け取っていたかも解る。この「活字の大きさ」というところが、ネットでは得られない「情報」でもある。
 そんなファイルを必要(あるいは、貴重)と感じてくれる人はいないだろうか?

 ぼくは毎週、このコラムを書いている。いつもは土日の休日に散歩しながら、なんとなくその週のテーマを考えている。ふらふら歩いていると、たいてい何か浮かんでくる。それを月火の2日で書きあげて、火曜日に編集部に送る。
 けれど、どうしても何も思いつけないこともある。そんな週は、このファイルブックを開く。最近の記事の中から目にとまったものをみつけ、それをテーマにすればいい。だいたい、自分が気になった記事を切り抜いてファイルしているのだから、なんらかの感想はある。
 というわけで、今週はなにも浮かばないものだから、最近、気になったニュースをファイルブックから探し出して並べてみることにした。
 まあ、単なる記事の見出しのピックアップだから、あまり中身に踏み込むことはしません。ふーん、そういうことがあったよなあと、記憶を蘇らせてもらえれば、それでいいのです。

◎盛山氏、教団側と「政策協定」
関係者証言 推薦確認書に署名
22年本社アンケートには否定
(朝日新聞、2月7日)
(ぼくのコメント以下同 この辺りから、盛山正仁文科相の答弁のデタラメさが大きくクローズアップされ始め、しかも、文科省が統一教会解散に携わる省なのだから大きな問題になった。それにしても盛山氏の答弁は「うすうす思い出した」などとひどすぎるよなあ)

◎首相 祝う会資料提出拒む
衆院委「闇パーティ」立民追及
(東京新聞、2月7日)
(岸田首相にも闇パーティ疑惑。これでは盛山文科相を更迭することなどできはしない。下手をすると、自分にまで火の粉が及びそうなのだから)

◎親イラン組織司令官 米軍が空爆して殺害
基地攻撃への報復
(朝日新聞、2月9日)
(戦火拡大、中東全域を巻き込む恐れ。それにしても、米軍って世界中どこにでもいるものだ、と改めて感心するしかない)

◎イスラエル軍「いきすぎ」
バイデン氏強く非難
(朝日新聞、2月10日)
(さすがのバイデン大統領も、イスラエル軍のあまりの蛮行に、こう言わざるを得なくなった。国際世論への配慮や、大統領選を見据えての発言ともいわれる)

◎伊藤詩織さんへの中傷投稿に「いいね」
杉田水脈議員の賠償確定 最高裁が上告棄却
(朝日新聞、2月10日)
(これにはコメントしようがない。だが、こんな議員を放置しておく自民党の責任は大きすぎる。放置しておくなら、自民党も同じヘイト政党ということになる。なおぼくは、杉田に敬称をつけるつもりは一切ない)

◎米保守論客にプーチン氏
「武器供与やめれば数週間で終わる」持論
(毎日新聞、2月11日)
(好き勝手、言いたい放題のプーチン氏。言わせるほうもむろん意図的)

◎自民全議員「裏金アンケート」結果公表
85人計5.8億円不記載
18―22年 使途・経緯 解明遠く
(東京新聞、2月14日)
(付け加える言葉もない)

◎松野氏 辞職前4600万円
官房機密費 2週間で使用
(朝日新聞、2月14日)
(行きがけの駄賃にしては多すぎるよ。1日300万円使ったって使い切れない…)

◎原発避難の課題浮き彫り
前提崩れた能登半島地震
半島が「孤島」に 指針「一部修正」のみ
(毎日新聞、2月15日)
(この解説記事はなかなか秀逸)

◎規制委 原発災害対策指針見直し
「自然災害への対応 範疇外」強調
家屋倒壊時の退避 議論せず
(東京新聞、2月15日)
(肝心の避難計画については「オレ知らん」という規制委の態度。いったいどこが「規制委」なのかと、山中伸介委員長の写真をじっと見つめる……)

◎日本 GDP 4位に転落
円安響きドイツ下回る
(朝日新聞、2月16日)
(「ジャパン・アズ・ナンバー1」は遠い昔の夢。円安のせいにしているような見出しだが、同じ記事の中で「マイナス成長2四半期連続」と、日本経済自体の弱体化にも触れている)

◎サンゴ移植訴訟 県が敗訴
高裁那覇支部「国の指示 適法」
(朝日新聞、2月16日)
(沖縄の司法は完全に政府のほうしか見ていない。ヒラメ裁判官ばかりが那覇支部へ送られているのだろうか?)

◎大阪府・市 万博費836億円超
新年度関連予算案 収支不足に
(毎日新聞、2月16日)
(もう何が出てきても驚かなくなった万博ニュース。こうやって馴らされていってしまうとすれば、とてもヤバイことだけれど)

◎政府の北陸応援割 地元から懸念の声
衆院予算委、石川で公聴会
(朝日新聞、2月17日)
(政府が言い出した旅行支援策「北陸応援割」に、地元では懸念の声が相次いだという。そりゃそうだろう、その前にもっと被災者支援に資金投入を、というのが普通の感覚)

◎少子化対策法案 閣議決定
児童手当拡充 財源「支援金」創設
(毎日新聞、2月17日)
(児童手当拡充はいいことだけど、その財源は結局、保険料への上乗せ等、国民負担の増大につながる……)

◎ナワリヌイ氏 獄中で死亡
当局発表 ロシア反政権派指導者
(朝日新聞、2月17日)
(ギョッとしたロシアからのニュース、反体制派指導者がどういう経過で死亡したのか。彼は極寒の刑務所へ送られてからしばらく消息が途絶えていた。それが突然の死亡。裏を読まないわけにはいかない)

◎東部要衝から撤退表明
ウクライナ軍 防衛重視の戦術へ
(朝日新聞、2月18日)
(ロシア軍優勢、ウクライナは追いつめられているようだ。ゼレンスキー大統領の「もっと援助を、もっと武器を」という悲痛な嘆きが聞こえる。なお、ゼレンスキー氏は2月25日、ウクライナ軍の戦死者は3万1千人と発表。そこにも苦しさが見える)

◎進む「南西シフト」埋まらぬ溝
防衛相と玉城知事 沖縄で初会談
訓練場新設撤回求める 玉城知事
(朝日新聞、2月18日)
(沖縄の民意の頭越しにどんどん進む自衛隊の沖縄の南西諸島への配備。いかに県側が要請したとしても、防衛相は聞く耳持たぬ岸田首相と同じ)

◎防衛費増額検討を提起
5年43兆円 有識者会議の座長
官房長官は見直し否定
(東京新聞、2月20日)
(なんと、防衛省が設置した有識者会議〈座長は榊原経団連名誉会長〉が、まるで防衛庁の意に添うように、もっと防衛費をと言い出した。軍需産業の後押しもありの提言だ)

◎海自 靖国に集団参拝
練習艦隊公開前に「個人の意思」
(朝日新聞、2月21日)
(じわじわと進む宗教と軍隊の関係。同じ記事で「事実上の命令」と軍事評論家の前田哲男氏が指摘しているが、かなり危険なこと)

◎学術会議任命拒否 経緯開示求め提訴
推薦受けた学者6人
(朝日新聞、2月21日)
(菅義偉元首相の薄汚い置き土産。政府が学問の領域に土足で踏み込むことがどれだけ国の発展を妨げるか)

◎ガザ停戦決議 米また拒否権
国連安保理 4度目 失望の声
(朝日新聞、2月21日夕刊)
(アメリカは本気でガザの「ジェノサイド」を止める気がない。バイデンはネタニヤフを「ろくでなし」などと呼んだけれど、その裏では拒否権の乱発。ダブスタの典型)

◎ウクライナ亡命元ロシア兵 射殺
スペインで遺体発見
(朝日新聞、2月22日)
(まさに身の毛もよだつ出来事。これにロシア諜報機関が関与していないなどとは、世界中の誰も思うまい。プーチンの冷たい目が浮かぶ)

◎福島第1 現場の「緩み」深刻
汚染水漏れ 経産相が東電指導
ずさんな管理 改善されず
(東京新聞、2月22日)
(このほかにも、各地の原発で火災事故や汚染水漏れなどが相次いでいる。老朽原発が悲鳴を上げているのが聞こえないのか)

◎東証 史上最高値
終値3万9098円 バブル超え 36年ぶり更新
(朝日新聞、2月23日)
(スタグフレーション〈不景気の中のインフレ〉下での株価高騰。経済に疎いぼくとはいえ、これが異常だとは分かる。一部の富裕層と残りの貧困層に、はっきりと日本が分断)

◎解散命令請求 初の審問
東京地裁 旧統一教会側が意見陳述
(朝日新聞、2月23日)
(だが、解散請求している文科省のトップは、教団とのズブズブの関係を指摘されている盛山正仁文科相。こういうのを「利益相反」というのではないのか)

◎世論を警戒して掘削を回避
辺野古軟弱層の調査で国
深度90メートル地点は不要と結論
(沖縄タイムス、2月24日)
(許せん!と思う。B27地点をボーリング調査すればヤバイ結論が出るのが分かっているから、それを避けた。デタラメ計画のデタラメ調査。それを追認してしまうデタラメ司法)

◎政倫審 公開巡り対立
与党「議員のみ」 野党「全面要求」
(毎日新聞、2月27日)
(まさに「臭いものに蓋」。ほんとうに腐臭漂う。完全非公開で、議員一人当たり45分などという条件を付ける自民党。国民をここまで舐めるのもすさまじい)

 ざっと、ぼくのファイルブックから目についたものをピックアップしてみた。むろん、まだまだたくさんの記事切り抜きがある。
 それらを読み返しながら、この国が壊れていく音を聴いている……ああ……。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。