第121回:体を張って抵抗する意味~新作『戦雲』の公開と陸自勝連分屯地での抵抗(三上智恵)

 2014年春、私はこのマガジン9の撮影日記の連載を開始した。あれからちょうど10年だ。27年間の放送局勤務を卒業しフリーになったとき、唯一自分に課したのが、動画と撮影日記をネットに定期的に出すということだった。
 小さいビデオカメラ以外は大した機材もない、取材費ももちろんない。どれだけ続けられるのかもわからないまま始めた連載で、当時は映画を作る話もまだなかった。でも、とにかく現場に行こう、取材を続けようとだけ決めていた。気づけば素材はどんどんたまり、その蓄積の中から『戦場ぬ止み』『標的の島 風かたか』と次々に映画が生まれていった。

 『標的の村』から数えると、私は2013年から2018年の5年間に4本の映画を公開した。しかしそれからあとの5年は、取材や撮影は続けていても、まとめることができないまま過ぎていった。それはこの連載の読者であればよくご存じだと思うが、特に後半の5年は、米軍基地に加えて自衛隊基地がどんどん南西諸島に増えていき、要塞として使われる運命がますます重くのしかかってくる一方で、また沖縄戦を再現するというのか? と問わねばならない息苦しい場面ばかりをお伝えするようになっていた。そんな辛いシーンだけ繋いだものに、誰が高いお金を払って見に来てくれるだろう。日々刻まれていく闘いの記録のようなものだけでは劇場用映画は成立しない。では一体、ほかに何があれば、観客に一番伝えたいことがちゃんと伝わる作品になるのだろうか?

 もがき苦しんだ日々が生み出した5作目のドキュメンタリー映画『戦雲』が、今月16日から全国の映画館で公開されることになった。新たな撮影と過去8年分の素材およそ1500時間を2時間余りにまとめた。その作業にあてた2023年の一年間は、与那国・宮古・石垣など離島に通い詰めて出来事に向き合いなおし、自分の沖縄報道人生30年の総決算として何ができるのかを繰り返し自分に問う日々だった。
 過去5作品のうち一番自分をいじめてしまった作品になった。編集・仕上げの3カ月の間に2回も高熱を出し、ものもらいが治らず、仕上がったと同時に骨折し、なぜか満身創痍だ。だが、暗い作品になっているかというと、意外なことにそうならなかった。今までで一番、好きなシーンが多い。大スクリーンで見て欲しい場面がたくさんある作品になっている。公開直前なので詳しくは書かないが、試写を見た人の感想で一番多いのは、「今までの三上作品と違う」「闘いや抗議のシーンが少ない」というものだ。

 「闘う」ということの意味は、本土と沖縄では、実はニュアンスがかなり違うと思う。敗戦後のアメリカ統治時代から、沖縄の人々はあたりまえの人権を守るために体を張ってでも闘わねばならなかった。沖縄の「座り込み」はいわば沖縄の大衆運動が80年続けてきた伝統的な抵抗の形である。復帰後もそれをやり続けねばならないこと自体、根本的におかしいのだが、それでも力のない庶民ができる最後の抵抗である「座り込み」に対して「やっても意味がない」「ずっと座ってないくせに」などと簡単に揶揄できる人は、迫害され続けた沖縄の歴史を理解する力が圧倒的に足りないのだと思う。
 しかし、そういう声に引っ張られて、若い世代になるほどに「反対運動」的なものに嫌悪感を持ってしまう人たちが増えた。県外だけではない、沖縄の内部でも子や孫のために頑張っているはずの地道な抗議行動への、若い世代からの違和感がたびたび話題に上る。突上げるこぶし、怒号、プラカード、スクラム、デモ行進……。近寄りがたい、負のイメージだと敬遠されている事実も、また受け止めねばならないのだろう。

 そうだとしても、だ。埋め立て土砂を積んだ車を基地のゲートに入れる・入れない、ミサイルを島に運び入れる・入れないなどの最前線で、機動隊とぶつかってでも止めようとする人々の姿は、今何が起きているのか、なぜ抵抗するのかを知ってもらうために報道する必要がある大事な場面だと私は思っている。一部の過激派だとレッテルを貼られて、全国ニュースにそれを出さないのは不当だし、なぜ沖縄県民が同じ県民である沖縄県警とぶつかり合っているのか、その矛盾に胸が痛む状況を見るからこそ、誰がこの理不尽な状況を押し付けているのかを考え、問題の構造を読み解く力も生まれるのだ。だから、見ていて辛くなるような衝突のシーンも私の映画にはたくさん入れ込んできた。一方で、そういうシーンが多いからと三上の映画を敬遠する人もかなりいる。嫌悪感を持ってしまう人に「それでも見ろ」と強要しても、さらなる拒否感を生むだけだろう。

 大事なのはそういう場面の功罪や有無ではなく、ここで戦争をすると言わんばかりの施設や装備を持ちこまれて、島の穏やかな暮らしが押しつぶされようとしている事実をまず知ってもらうこと。なぜそうなっているのか、戦争に向かう流れをどう止めたらいいのかを考えてもらえる映画にすればよいのだ。衝突シーンを見てエキサイトする人とドン引きする人がいたとして、後者にも伝わる映画にする手腕が自分にあるのかを問うべきだと考え、その試行錯誤が5作目のトーンがこれまでと違っているベースにあるのだと思う。
 なので、今作は前者の人たちには物足りないのかもしれないが、そういう方々は今まで私がマガジン9に上げてきた動画を、特に今回の勝連分屯地前での攻防のような映像をそのままお見せしても理解し動いてくださる人たちなので、手のかからないありがたい観客ともいえる。後者に受け入れてもらえる形を模索するほうが作り手の力量が問われることになるが、それで底辺を広げられるのならそこに挑戦せねば、と思ったのである。

 実際に、公開されて劇場に来てくださった観客にどう受け止められるか? それは封を切ってみなければわからないので、新作映画の話はここまでにしておこう。今回の本題はまさに今、沖縄で起きている激動の動画を紹介することである。それこそ、上に書いたような逡巡はどこへやら、というくらい、胸が痛くなるような、久々の体を張った抵抗の場面である。

 「ミサイルを持ちこむな!」
 「戦争準備をするな! 島を戦場にするな!」

 3月10日早朝、中城湾港は怒号に包まれた。うるま市にある陸上自衛隊勝連分屯地がミサイル基地として4月から再スタートするのを前に、ミサイルや関連装備品がこの日に搬入されるという情報が入っていた。民間の港である中城湾港は、この3年で急速に軍事利用が進んでいる。そこに陸揚げされる軍事車両は堂々と公道を走って勝連分屯地に入るというので、反対する人々は港のゲートが開く4時ごろから警戒を始めた。そして朝7時には100人を超す人たちが港のゲート前に結集。金網の向こうには自衛隊のミサイル関連車両がずらりと並び「道を空けてください」と自衛隊員が拡声器で叫び始めた。これを聞いてマイクを持つリーダーらはいきり立った。なぜ軍隊に沖縄県民が指示をされねばならないのか?! なぜ沖縄県警が自衛隊の意向に沿って動いているのか? 警察と軍隊が一体化してしまっているさまを指摘し嘆いた。

 そもそも、陸上自衛隊勝連分屯地とはどんなところなのか。米軍基地に隣接した高台にあって、近付くのが容易でなく、中の様子も見えにくい。地対空ミサイルを抱えたワシのキャラクターがついた自衛隊分屯地の看板が県道にあるだけで、どういう基地なのか、これまで地元でも特段関心を寄せられたこともなかった。ところが、2016年から南西諸島に次々と配備されてきたミサイル基地が担う作戦をすべて統括する連隊本部がこの勝連分屯地に置かれることがわかった。新たにミサイル部隊がここに配置されるときいて、うるま市の人々はにわかに危機感を持ち始めた。「ミサイル配備から命を守るうるま市民の会」も発足し、辺野古にも通いながらミサイル基地の問題に取り組むようになっていた。

 「まだまだ、うるま市民の間にも危機感が足りないんですよ」

 うるま市民の会代表の宮城英和さんは焦りを隠さない。分屯地の周りには学校や住宅が密集している。今も弾薬庫があるが、ミサイルも搬入され、万が一何かがあれば甚大な被害はまぬかれないだろう。今度新たに配備される12式地対艦ミサイルは、今は射程距離が200キロ程度だが、今後1000キロまで飛距離を伸ばす計画で、敵基地攻撃力を持ってしまえば敵国から直接攻撃を受ける可能性が格段に高くなる。誰の安全を守るために自分たちの地域が犠牲になるのか。沖縄戦と同じ構図に陥っているのではないか。市民の会では今月1日、ミサイル部隊の配備断念を求めるに署名15000人分をうるま市に提出。今回も、戦場にされてはたまらないという危機感を持つ県民を大結集させてミサイルの搬入を阻止する構えだった。

 ところが、今回民間の船が運んできた装備品の中にはミサイル本体は含まれなかった。とはいえ物々しい軍事車両19台がずらりと並ぶ光景は異様だった。集会の形で抵抗を続けていると、突然車列は反対方向に移動を開始。集会を開いていたゲートとは別の南出口から公道に出た。裏をかかれた形だが、到着地である勝連分屯地の前にも早朝から別の班が待機しており、牛歩で車両の進入を阻止した。やがて中城湾港にいた人たちも合流して150人余りが座り込んで自衛隊車両の行く手を阻んだ。結局1時間ほど県道から分屯地に上る道の入り口で侵入を止めていたが、機動隊が排除に入って10時過ぎに車列は勝連分屯地に吸い込まれていった。

 最後は予定通り搬入されてしまうとわかっていながら、たったの1時間止めることに何の意味があるのか? 本当の敵でもない沖縄県警とぶつかり合って悲しくはないのか? そういう疑問を持つ人もきっと少なくないだろう。自己満足ではないのか。近隣への迷惑ではないのか、云々。常に同じような疑問の声が投げかけられて来た。そんなことは参加者も重々承知だ。でも、苦労しても傷つくだけ。結局止められないのに痛い思いをするだけ、と「仕方ない」と決め込んだ人たちは、そうやって自分が行かない理由を常に探しているだけ、という構図もずっと変わっていない。けれども、そういう動かない人たちに動く姿を見せ続けることも大きな意味があると、長年抵抗の現場に来る人達と向き合いながら、私は思う。
 誰もみな心の中に大事なコップを持っている。たくさんの矛盾を見て、我慢をして、やり過しながらも心のコップがいっぱいになってあふれ出す瞬間にその人は動き出すのだと思う。その時に、ずっと現場を繋いできてくれた人たちの存在や蓄積が大事な財産だということに気付くのだ。例えば今回の勝連でも、これだけの人が集まった。これは勝利だ! という声も上がっていた。それはどういうことか。

 あらためて今回の動画をぜひ見て欲しい。一見して沖縄県民のいつもの抵抗、と思われるかもしれない。しかし、数百人が現場に詰め寄って基地と軍隊に抗議する構図は散々見てきたが、その相手は常に米軍だった。この8年で与那国・石垣・宮古・沖縄本島・奄美と新たに自衛隊基地が建設されミサイルが持ちこまれる現場で、今回のように最終的には200人規模にまでなる大きな抵抗が実現できた事例はない。米軍基地反対、は共感されても自衛隊反対は連帯しにくい。ネットでは袋叩きにされかねない。そんな中で、米軍・自衛隊の区別ではなく、合憲とか違憲というイデオロギー論でもなく、とにかくミサイル発射拠点を生活圏に作られてはたまらない。抵抗しなければ戦争に使う前提で事を進められる、冗談じゃないと声をあげるのはあたりまえだ。そのあたりまえを主張し、危機感を共有するのは大事平和への第一歩であり、それが今日踏み出せた。シンプルに体現できた。それが「勝利」なのだ。

 「体を張って行動して国に抗っていく。これは伝わると思うんですよ」
 宮城さんは最後にそう言って、今日が手ごたえのある日だったと語った。

 人を揶揄する、冷笑するような仲間を増やすのは指先一つと携帯電話があればできるかもしれない。でも本当に平和を掴み取るまで一緒に頑張れる仲間を呼ぶには、体を張って抗う、性根を据えて闘う覚悟を呼びかける側が持っていないと、表面的な号令だけでは届かない。響かないのだ。本物の仲間たちがたち上がってはせ参じてくれるために、本気を体現する胆力がこちら側にも必要なのだ。今沖縄で一番元気といわれているうるま市民の行動力は、今回もそのことを実に鮮やかに私たちに教えてくれていると思う。

 相手がどこの国の軍隊であろうと、そこにどんな正義があろうとなかろうと、関係ない。とにかく自分の暮らす場所で戦場する準備に取り掛かるのはやめてもらいたい。当たり前のことだ。私たちの島を戦争に利用しないで、と言っていいんだ、日本の大多数のために我慢するなんて必要なないんだときっぱり断る姿を、子どもたちに見せていく。地域に、世の中に見せていく。そのためには体を張って声を上げ、必死に抵抗する必要があるし、その姿を伝えるメディアが必要である。これからも、そういう場面を撮影し報道する仕事は大事にやっていきたい。一方で、反対したり抵抗したりする姿だけでは伝わらないもの。今何が起きていて、どういう構図でもっとも大切なものが奪われようとしているのかに迫ることができる表現も、磨いておきたいと思っている。

 新作『戦雲』はマガジン9の連載を応援して下さる方々をはじめ、たくさんの映画ファンの皆さん、沖縄を大事に思うみなさんの協力で完成しました。改めて御礼申し上げます。公開は今週末からです。劇場で皆様のお越しをお待ちしています!

映画『戦雲-いくさふむ-』 3月16日よりポレポレ東中野(東京)、3月23日より桜坂劇場(沖縄)ほか、全国順次公開
https://ikusafumu.jp/

三上智恵監督『沖縄記録映画』
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標的の村』『戦場ぬ止み』『標的の島 風かたか』『沖縄スパイ戦史』――沖縄戦から辺野古・高江・先島諸島の平和のための闘いと、沖縄を記録し続けている三上智恵監督が継続した取材を行うために「沖縄記録映画」製作協力金へのご支援をお願いします。
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三上 智恵
三上智恵(みかみ・ちえ): ジャーナリスト、映画監督/東京生まれ。1987年、毎日放送にアナウンサーとして入社。95年、琉球朝日放送(QAB)の開局と共に沖縄に移住。同局のローカルワイドニュース番組のメインキャスターを務めながら、「海にすわる〜沖縄・辺野古 反基地600日の闘い」「1945〜島は戦場だった オキナワ365日」「英霊か犬死か〜沖縄から問う靖国裁判」など多数の番組を制作。2010年、女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。初監督映画『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、キネマ旬報文化映画部門1位、山形国際ドキュメンタリー映画祭監督協会賞・市民賞ダブル受賞など17の賞を獲得。14年にフリー転身。15年に『戦場ぬ止み』、17年に『標的の島 風(かじ)かたか』、18年『沖縄スパイ戦史』(大矢英代共同監督)公開。著書に『戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り』(大月書店)、『女子力で読み解く基地神話』(島洋子氏との共著/かもがわ出版)、『風かたか 『標的の島』撮影記』(大月書店)など。2020年に『証言 沖縄スパイ戦史』(集英社)で第63回JCJ賞受賞。 (プロフィール写真/吉崎貴幸)