第673回:コロナ5類移行からもうすぐ一年、長引く物価高騰の中で届く悲鳴。の巻(雨宮処凛)

 「派遣の仕事を転々としている。今月、契約が終了する。電気代も高く、エアコンもつけずに生活をしている」(30代女性)

 「6月に退職し、無収入で生活に困っており、所持金300円。12月から電気停止。生活に困窮している」(40代男性)

 「物価高で、子どもに食べる物も十分に食べさせられず、遠征費などを出せないので部活動もさせることができない」(30代女性)

 「うつ状態になり大学を3年次に中退。現在、仕事をしているが毎月の育英会奨学金返済が重くのしかかり生活が大変」(40代男性)

 「夫婦2人暮らし。農業をしているが、今年は不作で収入少なく、貯金も少ないため、水道料金を滞納している。銀行も農協もお金を貸してくれないので家計が苦しい」(60代男性)

 これらの言葉は、昨年(2023年)12月23日に開催された「いのちとくらしを守る なんでも電話相談会」に寄せられたものである。

 全国24都道府県・30会場で弁護士や司法書士、支援者らが電話をとったこの取り組みで、私も相談員をつとめた。寄せられた相談は638件。もっとも多いのは生活費問題。以降、住宅、債務、労働問題と続く。

 コロナ禍初期の20年4月に始まったこの電話相談、ずっと相談員として電話を受けているが、寄せられる相談の深刻さは少しも変わっていない。コロナが「5類」に移行してもうすぐ一年、街には外国人観光客が溢れ、すっかり収束ムードが漂っているというのにだ。

 その背景には、長引く物価高騰も影響を与えている。何しろ、生鮮食品をのぞく消費者物価指数は前年同月比で29ヶ月連続上昇。その上、実質賃金は前年比で22ヶ月連続のマイナスである(3月7日時点)。ただでさえ苦しい生活をしていた人々がコロナで失業や減収の憂き目に遭い、そこに長引く物価高騰という三重苦の状況が続いているのである。

 そんな中、昨年末には生活保護を利用する世帯が過去最多の165万世帯となったことが報じられた。

 今、生活が苦しいという人にはぜひ積極的に利用してほしい生活保護だが、電話をくれた中には、やはり「生活保護は嫌」という忌避感を訴える声も多かった。

 「夫と2人世帯。通院はタクシーを利用しないと行けない。年金額が生保基準以下だが生保だけは絶対いや」(80代女性)

 「無職、無収入で所持金なし。今は公園でボランティアからもらった寝袋で寝泊まりしている。過去に生活保護を利用したことがあり、無料低額宿泊所に入所したが、寮費などで9万7000円とられ手元に3万円程度しか残らず、食事もまずく、一日中部屋の電気がついていて、同居者とのトラブルも多かったので、もう利用したくない」(60代男性)

 いわゆる「貧困ビジネス」と言われる無料低額宿泊所に入れられてしまったため、「もう二度とあんな思いはゴメン」という声である。

 一方、本人ではなく家族の忌避感・拒否感が強いというケースもある。

 「母・弟との3人世帯。現在、コロナの影響で無職。仕事探すも見つからない。母は年金、弟は障害年金あり。生保基準以下のため生保検討したいが、母・弟が反対」(50代男性)

 「派遣で週5日、18〜19万円の収入あったが、腰痛で週1〜2日しか働けず月収3〜4万円に激減。以前生活保護受けたことがあるが、やめてくれと言ったのに無理やり兄弟に扶養照会され、兄がわざわざ自宅にやってきて赤マジックで『一族のツラ汚し』などと張り紙されたことがある。扶養照会を絶対されない方法はあるのか」

 言葉を失うようなケースだが、扶養照会は21年に運用が変わり、本人が嫌がり、扶養が期待できない場合はしない方向になった。が、今もされているという声は聞く。不安な人は、「つくろい東京ファンド」の申出書を持参することをオススメしたい。
 一方、いまだに「働ける」などと追い返される水際作戦もまかり通っている。

 「年金月額8万円。介護保険料や国保税などの負担もあり、月6万円で生活。一日一食で安いレトルト食品やラーメンで凌いでおり、体重は40kg。脊髄を患い、国保税滞納60万円。先月、納税課で『年金を月に3万円を払います』という署名に無理矢理、名前を書かされた。その後、生保申請に行ったが、自分で頑張るようにと言われた」(70代男性)

 ひどい話である。このような場合は、ぜひ「首都圏生活保護支援法律家ネットワーク」などに相談してみてほしい。

 一方、13年に始まった生活保護引き下げにより、生活保護を利用していても苦しいという声も多くある。ちなみにこの引き下げの旗振り役の1人は、現在、裏金問題で注目を浴び、政倫審では「記憶にない」を連発した世耕弘成議員。「生活保護プロジェクトチーム」の座長として生活保護一割削減を掲げ、第二度安倍政権発足後に実行され、それが今も利用者を苦しめているというわけである。そんな引き下げに苦しむ人々の声を紹介しよう。

 「生活保護利用中。母が死去したばかりでお金ない。所持金25円。食べるものがない」(50代男性)

 「生活保護利用中だが生活が苦しく水だけで過ごす日もある。物価高もきつい。生きていくのがつらい」

 そんな電話相談では、電話をかけてきた人から今の政治への怒りの声も聞こえてきた。

 「夫と2人暮らし。持ち家だが年金生活。夫はガンで医療費がかかり、月収9万円だけで暮らしていくのが非常に厳しい。岸田政権は酷すぎる」(70代女性)

 「国、政治家は庶民の生活を知らなすぎる。物価が高くて給付金が今必要なのになぜこんなに遅いのか」

 「社会保障費を削って、防衛費に充てるのはおかしい。税金は国民のために使うべきである」

 「自民党のパーティーのキックバックは、収入として認定して、課税すべきである」

 さて、物価高にくわえて、4月からは医療・介護の負担増が待っている。

 後期高齢者の保険料が増額となり、多くの自治体では65歳以上の介護保険料も引き上げ。特別養護老人ホームなどの利用料も増額となる上、新型コロナの治療も自己負担に。また、食品約2800品目も値上げするという(朝日新聞2024年3月28日)。

 庶民の生活がより苦しくなる中、一部自民党議員だけが脱税でお咎めなしなんて許されていいのだろうか。

 しかも生活保護への忌避感から利用していない人々が多いことは前述した通りだが、その空気を作ったのは、自民党が主導した12年の生活保護バッシング。片山さつき氏の「生活保護を恥と思わないことが問題」などの発言が、今、困窮のさなかにある人たちを最後のセーフティネットの利用から遠ざけている。そして命を危険にさらしている。この時期、世耕議員は生活保護利用者のフルスペックの人権を否定するような発言をしている。

 これらのことを、私は決して忘れたくないと思うのだ。

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雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。