第137回:「AIゆりこ」と「答弁拒否」に抱く素朴な疑問(想田和弘)

 ソーシャルメディアで「AIゆりこ」なるものの動画を目にしたとき、都知事選を前に、誰かが小池百合子都知事を揶揄するパロディ動画を作ったのだろうと、つい誤解した。

 なぜならAIとは、「人間でなくてもできる仕事を、人間の代わりにするもの」である。AIゆりこに小池氏の政策の説明をさせることで、「小池氏の仕事はAIでもできる」「小池氏はAIで代替可能である」というメッセージを広めているのだろうと、僕は思い込んだ。

 ところがAIゆりこは、実際には小池百合子氏が、自らの政治活動、実質的には選挙運動のために作ったものだった。

 6月13日に公開された最初のAIゆりこ動画の投稿には、「現職都知事として公務に邁進している小池ゆりこ本人に代わって、AIゆりこがお伝えします」と書かれている。AIゆりこに政策を解説させることで、「小池氏の仕事はAIでもできる」と思われかねないことを、小池選対も危惧したのだろう。だからわざわざ「本人は公務で忙しいからAIを使っているのだ」と言い添えたのだと思う。 

 しかし、小池氏は本当にAIに政策の説明を任せなければならないほど、「現職都知事として公務に邁進している」のだろうか。

 どうもそうではないことを示す動画を目にした。

 その動画の中で、共産党の米倉春奈都議が、都議会で小池知事に質問をしている。

米倉都議:都庁の足元で行われている食料支援の現場を知事は訪ねましたか、という質問に局長が答弁しましたが、知事が訪ねたという答弁はありませんでした。行っていないなら行っていないと、はっきりお答えください。知事は定例会に集中して取り組むと述べてきました。ところが神宮外苑再開発、都立病院独法化、保健所増設、英語スピーキングテスト、PFAS汚染など、重要課題にまたしても答弁しませんでした。「築地は守る」「情報公開」「多摩格差ゼロ」「原発ゼロ」など知事の公約についても局長が答弁しました。公約を誠実に実行する姿勢が小池知事には見られません。知事としての資格が問われることを厳しく指摘をし、再質問を終わります。

議長:知事、小池百合子さん。

小池知事:再質問にお答えいたします。いくつかの再質問をいただきましたけれども、先ほどお答えした通りでございます。

 この人を喰ったような不誠実な答弁が都議会で許されていることに、僕は驚いた。

 だが、小池知事が自分への質問にも職員に答えさせることは、どうも都議会では常態化しているようだ。

 今年3月26日には、東京MXテレビがこんなニュースを伝えている。 

 立憲民主党の関口健太郎都議が都議会予算特別委員会で、次のような質問をした。

 「知事に対して厳しい質問をしたり、耳ざわりの悪いことを言う議員には76%の確率で答弁拒否をしている。結果をみれば答弁拒否どころか答弁差別だと思いますよ。知事の耳障りの悪いことを言う議員の質問は排除するのか? 伺いたいと思います」

 すると小池知事はニヤニヤしながら、古谷政策企画局長に答えさせた。

 「二元代表制の下、議会においてはこれまでもご質問の趣旨に応じて、執行機関側として適切に答弁していて、ご指摘には当たらないと思っている」(古谷政策企画局長)

 そして、都民ファーストの会・自民党・公明党の3会派は、関口議員の発言の取り消しを求める動議を提出。動議は賛成多数で可決され、関口議員はなんと除斥されたのだ。

 AIゆりこに政治活動を任せなければならないほど、公務に邁進しているはずの小池知事が、自分に向けられた質問に対する答弁すらも他人に任せている。

 ならば小池氏本人は、毎日いったい、何に忙しいのだろうか。

 政策の説明も、議員からの質問への答弁も、AIや他人に任せて差し支えないのなら、知事が小池百合子氏でなければならない理由は、いったいどこにあるのだろうか。

 素朴な疑問である。

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想田和弘
想田和弘(そうだ かずひろ):映画作家。1970年、栃木県足利市生まれ。東京大学文学部卒業。スクール・オブ・ビジュアル・アーツ卒業。BGM等を排した、自ら「観察映画」と呼ぶドキュメンタリーの方法を提唱・実践。最新作『五香宮の猫』(2024年)まで11本の長編ドキュメンタリー作品を発表、国内外の映画賞を多数受賞してきた。2021年、27年間住んだ米国ニューヨークから岡山県瀬戸内市牛窓へ移住。『観察する男』(ミシマ社)、『なぜ僕はドキュメンタリーを撮るのか』(講談社現代新書)など著書も多数。