第315回:這ってでも投票所へ(鈴木耕)

「言葉の海へ」鈴木耕

ぼくの投票「一択」の理由

 次の日曜日(7月7日)が東京都知事選の投開票日である。もちろん、ぼくは投票に行く。最近は、期日前投票をする人がずいぶん増えたようだが、ぼくはいつも投票日当日に投票所へ赴く。まあ、それがぼくの流儀なのです。
 今回、ぼくの選挙区では、都知事選と都議補選のダブル投票だ。むろん、投票先は決めている。いろんな情報を探しても、SNS上に流れる意見を見ていても、選挙公報を隅から隅まで読んでも(いやあ、今回は読むのがつらかった。ほとんど魑魅魍魎の世界なのだもの)、都知事選は蓮舫さんに入れるしかない。
 とにかく、8年間の「小池悪政」に待ったをかけるには、やはり「蓮舫一択」しかないのではないか。

 石丸伸二氏がかなりの追い上げを見せているというが、彼のこれまでの活動(とくに広島県安芸高田市長としての)をSNSなどで確認すると、まるで悪しきYouTuberの典型のような人物である。ひたすら旧い(と石丸氏が決めつけた)議員たちを叩き、馬鹿にし、言葉巧みにごまかして、議員の質問にまともに答えようとしない。この姿勢は、小池百合子氏と瓜ふたつ。つまり、石丸氏と小池氏は同じタイプの政治家なのだ。
 確かに、議員らへの「恥を知れっ!」などの叱責は、旧い政治に飽き飽きした人たちの喝采を浴びたかもしれないが、まるで小さな独裁者が成り上がろうとする小芝居を見ているようで、ぼくは不愉快だった。怒鳴るなら、まずきちんと質問に答えてからにしろよ、と思った。
 小池悪政にはウンザリだが、こんなちっぽけな独裁者もどきを都知事に押し上げてはなるまい。だから、ぼくはやはり「蓮舫一択」に辿り着く。

本屋巡りの後で

 ところで、今回のこのコラムは、ちょっと個人的なことを書く。
 実は、ぼくはいま、かなり痛たたた……な状態にある。

 多分、このコラムを読んでくれている数少ない読者の方たちは、ぼくが「デモクラシータイムス」(デモタイ)という市民ネットTVに協力していることはご存じだろう。なかなか頑張っている市民TVで、チャンネル登録者数もこのところ順調に伸びている。この原稿を書いている7月2日現在、登録者数は20万8000人に達している。
 カンパと、グッズの売り上げ、それにYouTubeからの広告費で運営しているが、むろん、いつもカツカツである。それは、この「マガジン9」も同じこと。こういう活動をしている団体は、みんな同じようなものなのです(悲)。

 だけれど、ぼくの現在の“痛い状態”というのは、その運営費なんかの話ではない。もっと個人的で肉体的なことです…(と、愚痴と言い訳です)。

 先週の火曜日(6月25日)、ぼくは久しぶりに本屋巡りをした。新刊書店から古書店まで、午後いっぱいをかけて楽しいぼくの遊びであった。
 掘り出し物の本や、最初から買おうと思っていた新刊書、大好きな海外ミステリの文庫本など、けっこうどっさり買い込んでしまった。またカミさんに怒られそう……。もう、本を置いとくスペースがないのだから、自分の小さな仕事部屋が、また本の山になる。
 ぼくが必要とする本や読みたい本は、あまりリアル書店には置いていない。だからついネット書店で購入することも多い。でもやっぱり、ぼくはリアル書店が好きだ。本の匂いは独特だし、本棚の間を歩いていると、思いがけない本に出会って頬がにやりと緩むことも多いのだ。ぼくが長い年月を過ごした神田神保町は、まさに本の匂いの街だった。
 ぼくが勤務先の出版社を退職するときに作った拙い俳句(?)。

 風やんで本の匂いの街を去る

 だから、月に何度かは、わざわざ電車に乗ってリアル書店を訪れる。この愉しみは諦められないよなあ……。
 ところがこの日、家に帰って来てから、妙にキリキリと膝が痛み出した。それほど距離は歩いていないと思うけれど、重い本を買い物袋に入れてぶら下げながら歩き続けたのが、どうもよくなかったらしい。
 夜になってから、その痛みがかなり増した。前から左膝に痛みを抱えていたのだから、注意しながら歩けばよかったのだが、他のことに気を取られていたからなあ。とりあえず、膝に湿布薬を貼って寝た。
 翌日になっても、あまりよくならないどころか、痛みが増している。歩くのに不自由というほどではないけれど、痛む。この日(水曜日)は、JCJ(日本ジャーナリスト会議)の書評委員会に参加予定だったのだが、仕方ないなあ。連絡を入れて不参加を詫び、かかりつけの整形外科へ行くことにした。
 医師「まあ、78年間も頑張ってつき合ってくれたんですから、多少の痛みも仕方ないでしょ。でも、それほどひどくないようだから、注射をしときましょう」(アレ、こう書いたから、ぼくの年齢がバレちまった、苦笑)。
 というわけで膝に、注射をしてもらった。これがまた、よく効くのです。その晩はゆっくり眠れたこともあって、翌朝は、ほぼ痛みが消えていた。
 そうなると、人間ってバカだよなあ……。ほとんど膝を意識することもなく、いつの間にか普通の歩き方に戻っていた。

あ痛たたたたた…

 6月29日。
 この日は月の第5土曜日。第5土曜日は、前述のデモタイの「ウィークエンドニュース」という討論番組を、デモタイのメンバーたちで行う決まり。だからこの日はぼくもコメンテーターとして参加することになっていた。そこで資料をカバンに詰め込んで出かけたわけだ。スタジオは千代田区にある。ぼくの住んでいる街からは、私鉄、地下鉄を乗り継いで50分ほどかかる。
 その乗り換えの地下鉄九段下駅。階段を降りていたら、電車が入ってきた。あ、ちょうどいいや、というわけで階段をほんのちょいと駆け降りて電車に乗り込もうとした瞬間、膝に激痛っ! 階段をほんの2、3段、というのがよくなかったらしい。
 電車に乗り込んだのはいいけれど、ほとんど立っていられないほどの痛み。痛みで冷や汗、涙まで滲んだ、というのは久々の経験であった。
 ま、なんとかスタジオに辿り着いた。
 メンバーのみなさんにはいろいろと心配をおかけしたが、後で動画を見てみると、けっこうぼくの顔色が赤い。熱も出ていたのかもしれない。
 番組終了後は、ソファに座ってみんなで缶ビールのプルトップをひねってクイッとお疲れさんという時間も楽しいのだが、この日はさすがにそんな気分にもなれず、早々とサヨナラした。翌日曜日は、痛みをこらえる一日だった。
 こんなわけで、7月1日、またも整形外科へ行く羽目になった。
 「無理しちゃいけませんねえ。もうお若くはないんだから……」と、医師にいちばん言われたくないことを言われながら、神妙に診療を受けてきたのでした。はい、また注射を打ってもらいました……。

七夕革命

 出かけられないので、SNSをチェックしているけれど、蓮舫陣営の演説会に押し寄せる人波は、ほんとに半端じゃない。
 「七夕革命」という言葉が生まれている。そう、7月7日、七夕の日が都知事選の投開票日だ。もしかして、この国が変わる魁になるかもしない、という期待が、この「七夕革命」に込められているのだろう。
 比べて小池さん、なんとも姑息な選挙運動。なぜか「公務」と称して“電車プロレス”とかいうイベントに顔を出し、レスラーに空手チョップの真似。さらには船に乗って川の上から演説。とにかく、記者(マスメディア所属ではないフリー記者)に会わないよう、逃げ回る作戦なのだ。
 蓮舫さんらから「公開討論」を呼びかけられても「公務繁忙」を理由に、まったく討論には応じない。何か、よっぽど触られては困ることがあるのだ。ウソがバレたら危ないし、利権まみれの都政が暴かれるのはなんとしてでも避けたい。それらはほとんどバレバレなのだけれど、改めてそれを表沙汰にされてはかなわない、ということなのだろう。

 膝の具合は、お医者さんの再度の注射によって、かなり痛みは薄らいでいる。でも、もし痛みが再発したとしても、7月7日、ぼくは這ってでも行きますよ、投票所へ!
 むろん、小池百合子都知事の「悪政」を阻止するために、ぼくは蓮舫さんに投票します。少なくとも、小池さんよりはまともだと思うから。
 当初10ポイント以上の差で小池さんがリードしていたようだが、最近の調査では5%~6%ほどの差に縮まってきているという。そのまま追い込んで、最終コーナーで抜き去ってほしいと念じている。
 「七夕革命」が起きるといいなあ……。

 今回は、こんなまったく個人的な、つまらないコラムで、すみませんでした……。

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鈴木耕
すずき こう: 1945年、秋田県生まれ。早稲田大学文学部文芸科卒業後、集英社に入社。「月刊明星」「月刊PLAYBOY」を経て、「週刊プレイボーイ」「集英社文庫」「イミダス」などの編集長。1999年「集英社新書」の創刊に参加、新書編集部長を最後に退社、フリー編集者・ライターに。著書に『スクール・クライシス 少年Xたちの反乱』(角川文庫)、『目覚めたら、戦争』(コモンズ)、『沖縄へ 歩く、訊く、創る』(リベルタ出版)、『反原発日記 原子炉に、風よ吹くな雨よ降るな 2011年3月11日〜5月11日』(マガジン9 ブックレット)、『原発から見えたこの国のかたち』(リベルタ出版)、最新刊に『私説 集英社放浪記』(河出書房新社)など。マガジン9では「言葉の海へ」を連載中。ツイッター@kou_1970でも日々発信中。