第683回:都知事選。なぜ、石丸伸二氏が二位だったのか。の巻(雨宮処凛)

 なんとも驚く結果だった。

 それは東京都知事選。

 午後8時ジャストに小池百合子氏が当確。のみならず、蓋を開けてみれば蓮舫氏を40万票近く上回り、石丸伸二氏が二位となっていたという逆転劇。

 このことに、多くの人がショックを隠せないでいる。私もただただ驚いた。石丸氏に関してはまったくのノーマーク、まさか蓮舫氏以上の票を得るなど想像もしていなかった。

 しかし、思い返せばその予兆は十分あったのだ。

 たとえば都知事選が始まってすぐの頃。

 普段全く政治について発信などしない若い有名アーティストなどが、SNSで石丸氏への支持を表明するという光景を幾度か見かけ、驚いていた。

 え、もしかしてこの人、政治に無関心な若者の票をすごい勢いで掘り起こしてて、これまで選挙に行かない層に響いてる? そう思うことは何度かあった。

 一方、街頭での熱気を感じる出来事もあった。選挙期間中、たまたま石丸氏の街宣の直前の様子を見かけたことがあるのだ。用事があって本人の登場は見られなかったものの、そこには驚くほどの数の聴衆が彼の登場を待っていて、一種独特の、本物の「熱気」が感じられた。私のまったく知らないところで、何かが始まっているのかもしれない一一。そう思ったけれど、まさかこれほどまでとは思わなかった。

 そんな石丸氏、投開票日のさまざまなメディアでのモラハラ・パワハラ・マウント・高圧と四拍子揃った「相手に恥をかかせたように思わせる受け答え」が話題だが、彼を追ったテレビ映像などを見て、なんとなく、蓮舫氏が石丸氏に敗れた理由がわかった気がした。

 ちなみに石丸氏に関してはYouTubeやSNSを駆使したことなどが取り沙汰されるが、私がもっとも印象深かったのは、自らが受け皿となっている層を指して言った「国政の代理戦争に嫌気がさしてる人たち」という言葉だ。

 確かに、都知事選には国政の代理戦争の匂いが濃厚だった。

 なんとか都知事選を足がかりに、「裏金自民」とべったりの小池百合子を落として政権交代、という思いは蓮舫氏側からダダ漏れていた。それは蓮舫氏サイドや支持者にとっては当然の思惑なわけだが、多くの都民にとっては「都政と関係ない自分たちの利害を持ち込む構図」に見えたという点もあるのではないだろうか。

 そしてそれを裏付けるように、選挙演説には、まるで国政選挙を彷彿とさせる「既成の政治」のイメージをどっぷりとまとった「おじさん」政治家たちが多く登場した。都知事選が始まってすぐ、私はまずはこのことに、ちょっと引いていた。

 ちなみに私は格差・貧困問題に取り組む中でリベラル側に長く身を置いてきたわけだが、友人にはリベラル嫌いも少なくない。

 で、そんな人たちに話を聞くと、都知事選に限らず、結局、今のあらゆる構図は「政治を私物化している与党という古い勢力」と、「その与党から権力を奪って自分たちで政治を私物化したいリベラルという古い勢力」という二つにしか見えず、どちらも自分たちの利権のみのため、ただうまい汁を吸おうとしている二派がいるようにしか見えないということだった。

 これは私自身、格差・貧困問題に関わる以前、与党や野党はそんな感じの「目くそ鼻くそ」に見えていたので理解できるところでもある。

 一方で分が悪いのは、そういう人たちにとっては今の自民党もひどいけど、じゃあリベラルに権力がわたった場合、「恐怖政治」みたいなものを漠然とイメージしている人もいるということである。

 たとえば友人の中には、自分の無知ゆえに発信したことが突然糾弾されて吊るし上げられたり、そのことでもう一生立ち直れない状況に追いやられたりしそうという感じで、よくわかんないけどリベラルに「怖そう」「怒られそう」「取り締まりが厳しそう」というイメージを持っている人も少なくない。

 自民党のジェンダー感などには辟易しているものの、リベラルはリベラルで、不寛容で正しさのためなら手段選ばなそうで怖いという感覚。おそらく、SNSなどでの断片的な情報からそういうものが刷り込まれたのだろう。これらについてはいろいろ修正したい点もあるけれど、だからこそリベラルは「うさん臭い」「嫌い」と言われると、改善すべき部分もわかるだけになんだか遠い目になる。

 しかも今回、そんなイメージを裏付けるように、「石丸に投票した若者はバカで無知」「小池に入れたやつらは民度が低い」などとことさらに上から目線で語る人もリベラルと思しき中にちらほらいる。そういうとこだよね……とまた、遠い目になっている。

 ということで、選挙は終わった。

 この結果を受け、改めて、様々な課題を突きつけられた思いである。

*記事を読んで「いいな」と思ったら、ぜひカンパをお願いします!

       

雨宮処凛
あまみや・かりん:作家・活動家。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版)でデビュー。06年より格差・貧困問題に取り組む。07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版/ちくま文庫)でJCJ賞(日本ジャーナリスト会議賞)を受賞。近著に『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書)、『学校では教えてくれない生活保護』(河出書房新社)、『祝祭の陰で 2020-2021 コロナ禍と五輪の列島を歩く』(岩波書店)。反貧困ネットワーク世話人。「週刊金曜日」編集委員。